41話 死亡フラグがビンビンの世界(3)
所持スキル
パッシブスキル 『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』
『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』
『投擲(必中)』『レア世界』
アクションスキル 『空中跳躍』
舞台は平原から居酒屋のような場所に移った。俺は木製のテーブルの端で薄い果実酒のようなものを呑んでいた。合間に肴として出された腸詰を齧る。溢れる肉汁には旨味と香辛料が詰まっていて自然に呑むペースが上がった。
ただし酔えない。製造方法の問題でアルコール度数が低いのか。または巨漢の部類に入る身体のせいなのか。
小柄なルミアは二杯目で酔っ払った。今は三杯目を右手に持ち、居合わせた面々に今回の出来事を語って回る。
「勇者ハルトはすごいのれす! 飛竜を氷の刃れ、跳んで、びょーんで、ズドーンでした! それれ金貨がじゃじゃーん! 神に愛されら者なのれす!」
酔っ払い用語が挟まるので非常に理解し難い内容になっていた。ルミア本人の知名度のおかげで手で追い払われることはなかった。
俺は一人で呑みながらしみじみと過去を振り返る。
スキルの複合で打ち落とした飛竜が希少種とは思いもしなかった。王族が式典に使う羽根として求めていた点も高価な買い取りに繋がった。
俺はテーブルに置かれた巾着に目を落とす。痩せ細った身なりは成金のようなでっぷりした姿に変わっていた。何度も確認したが、もう一度、窄めた口を開く。中には零れ落ちそうな程の金貨が詰まっていた。
この降って湧いたような幸運は運向上のスキルのおかげなのだろうか。
「そー、そう、そうれす。勇者ハルトは神に愛されれいるのれす!」
ルミアの口調がかなり怪しくなってきた。声の出所に目を向けると視線が合った。
赤ら顔で好色そうな笑みを浮かべる。
「いいえ、違うのれす! 勇者ハルトは女神に愛されちゃうのれす!」
遠回しな求愛に俺は危機感を覚えた。早々に店を後にした方がいいだろう。
テーブルに適当に金貨を置くと店主が飛んできた。多すぎると笑顔で抗議したので俺はリップサービス込みで言った。
「この店にはそれだけの価値がある」
その一言で納得させた俺はルミアを背負って店を出た。
どこにも立ち寄らず、取っていた宿へ向かう。とても静かな夜で石畳に杖を突く音がやけに大きく聞こえた。
後ろから寝言のような声が耳に滑り込む。
「……いっぱい、愛して。わたし、もう……がまん、なんて――」
背中に胸の膨らみを強く感じた。その状態で緩慢に左右に揺する。
反応しないで黙々と歩く。耳朶を甘噛みされた。
どんな試練なんだよ。
ルミアの呪いの耐性が落ちる行為は避けなければならない。よくわかっているのだが股間は熱を孕む。買い直した服で目立たないが圧迫感は凄まじい。
俺は不自然な格好で速足となった。
隣から微かな寝息が聞こえる。ランプは部屋に着くなり消した。真っ暗闇になっても俺には通用しない。暗闇無効なので顔を少し動かせば、ルミアがベッドに寝ている姿を目にすることができる。
法衣は脱がせているので、かなりの薄着になっていた。目の毒と思い、毛布を掛けた。顔以外は見えないようにした。
その鉄壁の守りが破られた。先程、ベッドから毛布の落ちる音がした。聴力向上のせいで聞こえてしまった。
俺は悶々として眠れない。たまに聞こえる寝言が妙に色っぽい。狸寝入りに思えた。ここは寝入ったフリをするのが得策。
わかっていても眠気が来ない。明日からの行動に支障が出ては困る。
仰向けの姿勢で顔だけを動かせばいい。あざとい寝返りと違って不自然に見えないはずだ、と自分に言い聞かせた。
俺は覚悟を決めた。小さく唸るような演技でゆっくりと顔を横に向ける。
ルミアは横向きの姿で寝ていた。片方の脚は曲げた状態で立てている。しかもこちらを向いているので、たるんだ服から胸が零れそうになっていた。中途半端に開いた股間にも目を引き寄せられた。
元の姿勢に戻って瞼を閉じた。視覚を遮断したが生々しい映像が頭に浮かぶ。そこに邪な願望が加わって静かに興奮が高まってゆく。
上体を起こした。ベッドから降りると忍び足でルミアに近付く。起きる様子は微塵もない。
しゃがんで顔を見つめる。酒の余韻なのか。火照ったような頬をしていた。整った鼻から唇に視線を移す。柔らかそうな果肉が少し割れて甘い香りがした。
間もなく胸に行き着く。覗き込むと柔らかそうな胸が腕に押されて半ばまで潰れていた。隠された部分まで僅かではあるが見える。
俺はギュッと目を閉じた。それを機に全ての感覚の遮断を望んだ。
「……あぁ、ん……ん……」
あくまで寝言。酔っ払っているので仕方がない。誘っていると思うこと自体、勘違い甚だしい。
怒りにも似た胸中の声で少し落ち着いた。極度の興奮からようやく抜け出せた。
感情の荒波を乗り切り、俺は凪の心で瞼を開けた。
寝相の悪さで豊かな胸がポロンと出ていた。両方とも丸見え。酔っ払いはこれだから困る。どんな時でも羞恥心を忘れてはいけない。
俺は清らかな聖人となって自分のベッドに戻った。仰向けになると安らかな表情で目を閉じた。
脳内で痴女と化したルミアに襲われた。妄想の類いなので目を逸らすことができない。激しい言葉責めや変態的な体位を求められ、快楽の波に揉まれた。
結果として一睡もできず、朝を迎えた。
未だに死亡フラグがビンビンに立っている。




