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40話 死亡フラグがビンビンの世界(2)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』

アクションスキル 『空中跳躍』

 俺は石畳の道を歩いている。広い道幅なので目抜き通りなのだろう。こちらに向かってくる軽装備の人々は例外なく左右に分かれた。歩き易いのはいいのだが、その行動は不自然に思えた。

 隣に視線を送る。法衣に身を包んだ女性はにこやかな表情を崩さない。俺も表面上は穏やかな態度を通した。とは言え、聴力向上のスキルで人々の囁く声がはっきりと聞こえる。


「あれが噂の変態勇者か」

「見た目は悪くないのに。本当に残念勇者だね」

「あんなのと一緒なんて、ルミア様が可哀そう」


 異世界で変態認定された。唯一の収穫は隣にいる女性の名前がルミアとわかったことくらいか。

 どこかに身を潜めたい。歩くほどにその思いが強くなる。必然と言わんばかりに目をキョロキョロさせた。

 露店が多く並ぶ地域に入ったようだ。食料品や衣類が多く目を引いた。

 俺は控え目な声で言った。

「下に穿()くものが欲しいのだが」

「物理無効のハルトには意味ないよ」

「防御は無視していい。隠す為に、どうか頼む」

 ルミアは目を細めて俺の股間を指さす。

「立派だもんね。あまり他の女性に注目されても困るから、痛い出費だけど買ってあげる」

「ありがとう。とても助かる」

「貸しだからね。なんなら今夜、返してくれてもいいよ」

 返答を保留して俺は爽やかな笑みで対抗した。

 ルミアは周囲の露店に目をやる。

「ここで待っていて」

 明るく言うと一つの露店へ速足で向かう。品定めするように上体を左右に揺らし、これを、と指さした。

「買ってきたよ」

「これが、そうなのか?」

 折り畳まれた物は布地のようで想像よりも小さい。言い知れない不安が胸の中に黒いガスとなって広がった。

「あの隙間で穿いたらいいよ」

 ルミアは石造りの建物の暗がりに目をやる。俺の手を引くように歩くと購入した物を渡して押し込み、門番のように背を向けて立った。

 俺は粗雑な(ふんどし)を脱ぎ捨てて新しい物を穿いた。胴回りの緩さは波縫いで取り付けられた紐を結んで対応した。薄緑の色合いは悪くない。極端に丈が短いホットパンツに引っ掛かる。

 股間の膨らみが強調された。尻の割れ目に生地が食い込み、妙な気分になる。

「ルミア、おかしくないか?」

「雄々しい感じが、とてもいい」

 股間に視線を感じて、やや腰が引けた。その言葉を信じて通りに戻る。

 歩きながらルミアが今後の方針を語った。

「手持ちのお金が少ないから稼がないとね」

「ギルドの討伐依頼とか?」

「それは最終手段だよ。忘れたの?」

「意外と忘れっぽくて。だから、そこの経緯を詳しく話してくれないか」

 俺は笑顔で頭を下げて、女神様、と一言を添えた。

 ルミアは白い頬をほんのりと染めて、仕方がないなぁ、と言いつつ抑えられない笑みを滲ませた。

「前の街で高額依頼を片っ端から受けて冒険者と揉めたよね。そのせいで他のギルドに移る者が増えて店の売り上げが下がった。元凶とされたわたし達はどちらからも恨まれて、ここに流れて来たんだよ」

「あ、ああ、そうだったな。思い出した」

「本当に? ハルトはお気楽でいいよね。このまま通りを抜けて平原に出て、そこで狩りをしよう。猛獣が相手だから物理無効のハルトの出番だね」

「借りは返す」

「それは夜まで残しておいて」

 ルミアは()びるような上目遣いで下唇を舐めた。


 アーチ状の門を通り抜ける。跳ね橋を渡るとそこはもう平原だった。

 生える木は疎らで見通しが最高。そこかしこで猛獣の姿が見られた。

 近いところにいた一頭に目が留まる。焦げ茶色のおにぎりのような容姿で四肢は極端に短い。少し突き出た鼻の両脇からタケノコのような牙が確認できた。主な攻撃スタイルは巨体と牙を活かした突進と考えた。

 俺は自ら走り出す。スキルの効果はないが相当な速度が出た。その勢いを落とさず、正面から突っ込んだ。それに合わせるように一頭も突進を開始した。

 俺は右の拳を固め、渾身の一撃を放つ。鼻の柔らかい感触が伝わり、骨を粉砕する音が聞こえた。右腕は付け根までめり込み、温かい肉に包まれた。

 狩りは呆気なく終わった。一頭はゆっくりと傾き、横に倒れた。

「さすがハルトだね」

 弾んだ声でルミアが駆け寄る。俺は下草を引っこ抜いて血塗れの右腕を拭いた。

「かなりの大物だから期待してもいいよな」

「大した金額にはならないよ」

「毛皮や肉が売れるだろ」

 俺の主張にルミアは軽い溜め息を吐いた。

「硬質な毛は加工が難しいし、肉は独特な臭みがあって食べられない。でも、牙は売れるよ」

「こんな小さな物に需要があるのか?」

「汚れ落としに使えて艶も出る。掃除道具には欠かせない一品だよ。わたしの見立てだと二本の牙で銅貨二枚ってところかな」

 この世界の貨幣価値がわからない。ホットパンツの一部を摘まんで軽く引っ張る。

「これの値段は?」

「銅貨一枚だよ」

「宿屋は?」

「銀貨一枚だから、あと四頭は仕留めないとね」

 平原に目を向けると遠くに数頭の群れがいた。銅貨十二枚の稼ぎにテンションが急激に下がる。

 その時、ルミアの持つ杖に目がいった。

「肉弾戦より魔法の方が早くに稼げるような」

「全然、そんなことないって。逆に大赤字になるよ。魔量(まりょう)は大事に使わないと」

 初めて聞く単語が挟まった。即座にゲームのMP(まじっくぽいんと)を想像した。

「宿で眠れば翌朝には回復しているよな」

「ほとんどないよ。専用のポーションを買うのが定番だよ」

「ちなみに値段はどれくらい?」

「銀貨二枚だね」

 世知辛い内容から逃れるように俺は雄大な空を求めた。

 眺めていると鳳凰(ほうおう)のようなものが飛んでいた。

「なあ、ルミア。あの空にいる鳥は見えるか」

「え、どこ?」

「もっと目を凝らして。俺の指先の方向にいる」

 渋い表情でアヒル口になった。爪先立ちで震える姿がとても愛らしい。抱き締めたい衝動を深呼吸で辛うじて受け流す。

「なんか見えるけど、形がよくわからない。あの高度ならたぶん、小型の飛竜かな」

「金額は?」

「え、あれを打ち落とすつもり? 魔法でも無理。絶対、届かないよ」

「魔法が当たれば仕留められるか」

「まあ、急所の頭部に当たれば」

 歯切れが悪い。が、可能性は見出せた。

「氷の魔法は使えるか」

「得意ではないけど、どうにか。それがどうかした?」

「掴んで投げて飛竜の頭部に当てる」

「届かないって。それに手を魔法から保護して、それに掛かる魔量が……」

 ルミアは俺に背中を向けた。腰に取り付けた小さな巾着を開き、中身を確認しているようだった。

「大丈夫だ。絶対に外さない」

「……それでハルトが満足するなら。右手を出して」

 俺は言われた通りにした。杖の先端を近付けると嵌めた輝石が仄かに光る。少し遅れて薄い膜のような物が(てのひら)を覆った。 

 今度は杖を真上に向ける。輝石の光は増して細長い菱形の物体を作り、青白く刺々しい表面で安定した。

「すぐに掴んで投げて!」

「あとは任せろ」

 俺は右手で物体を掴み、全力で走って跳んだ。空中跳躍で飛距離を伸ばし、空に向かって大声で叫んだ。

「こっちを見やがれ!」

 声が届いたのか。それとも偶然なのか。飛竜はこちらを見下ろす。

 弱点の頭部がはっきり見えた。投擲必中のスキルを信じ、全力で投げた。

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