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39話 死亡フラグがビンビンの世界(1)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』『レア世界』

アクションスキル 『空中跳躍』

 久々に立った状態で戻ってきた。女神は白い猫脚の椅子に座っていた。真後ろにいる俺に気付かず、両腕を左右に広げて伸びをした。

「なに、しようかな」

 非常に声を掛け辛い。最速に近いので言い訳も思い付かなかった。そこで正直に徹することにした。

「今、戻りました」

「はあ!? なんで?」

 女神は椅子をガタッと鳴らして振り返る。落ちそうになったカンカン帽を手で押さえ付けた。

「ボーナスステージが厳しくて……」

「えええっ、それ、神様コースだよ! レアどころじゃない! レジェンドだよ!」

「そう、なのですか」

「神様の領域は女神でも覗けないんだよね。それで結果は?」

 黒目勝ちの目が俺を見つめる。揺り椅子のように動かしてわくわくを抑え切れない様子だった。

「二つ目の部屋で脱落しました」

「まあ、そうなるよね。達成ガチャの試練だからね。仕方ないよ。気を取り直してガチャを回そう」

 明るい声ではあるが、若干、への字口になっていた。

 俺としても残念でならない。レジェンド級の世界を引き当てた幸運のせいで余計に悔しさを募らせた。

 後悔しても何も変わらない。女神屋の店頭に置かれたカプセルトイにコインを入れてハンドルを回す。出て来た紫色のカプセルを割って中身の紙を取り出した。

 一目でパッシブスキルとわかる。

「当たりのスキルでした」

 やや弾んだ声で女神に渡す。

「そうだね。『頭脳向上』は悪くないけど、過度な期待はしないように」

「わかりました。ナメクジやハエに転生した時点で諦めます」

「そ、それはちょっと見てみたいかも」

 女神は笑いを堪えて紙を握る。現れた光球を俺の胸にそっと押し込んだ。

 この世界ではスキルの効果を得られないが、何となく頭の冴えを感じた。自信に繋がって気力が満ちる。

「女神様、吉報を待っていてください」

「期待してるね」

 俺は笑顔で穴の中に落ちていった。


 右腕が下敷きになっているようだ。柔らかい感触があるのでベッドを想像した。

 眠気が残る状態で瞼を開けた。ベニヤ板を貼り付けたような安っぽい壁が見える。部屋は狭く家具が見当たらない。

 横向きのまま視線を動かすと(はてな)を引き伸ばしたような杖が壁に立て掛けてあった。窓からの光を浴びて嵌め込まれた輝石が赤々と燃えている。側にある丸めた物は衣類だろうか。

 俺の持ち物にしては合っていないように思えた。ベッドの僅かな軋みが身体の大きさを伝えていた。

 この姿勢では見える範囲が限定される。そこで上体を起こそうとした。胸の辺りに何かが触れた。身体に掛けられた薄い布をそろそろと(めく)ってみる。

 金髪の頭が現れた。ボブカットのような髪型を想像した。さらに捲ると白い横顔が見えた。長い睫毛(まつげ)は愛らしく若い女性に思えた。

 緊張で震える手を強い意志で動かす。豊かな胸の谷間で性別がはっきりした。


 この女性は誰なんだ?


 同じベッドに寝ているので恋人。とは限らない。あの杖は戦闘用に思えるので戦友の線もあるだろう。

「……もう、起きたの?」

 答えを得る前に女性が目を覚ましてしまった。横向きのまま俺と視線を合わす。

「え、女神様!?」

「それってわたしのこと?」

 黒目勝ちの目で恥ずかしそうに笑う。一卵性の双子を疑うレベルで似ていた。頭頂が黒くないので、すぐに思い直す。

「ごめん、おかしなことを言って」

「いいよ。わたしも少しヘンだから。長く一緒にいるのに今日のハルトが、素敵だなって……」

 口籠(くちごも)ると女性は額を胸に押し付けてきた。するすると伸びた右腕は脇腹を通って背中に回された。その感覚で自分が服を着ていないことに気付いた。

「……大きくなったよ」

「生理現象みたいなもので……別に、そういう行為がしたいわけではなくて」

「わたしはいいよ。すごくしたい気分だから」

 異世界であってもその意味はわかる。最初が肝心と前の転生で学んだ。このまま安易に流されていいはずがない。

純潔(じゅんけつ)を保つことで得られるものがあるだろう」

「魔法の話なら平気だよ。生まれつきの魔法無効だから。ハルトだって同じ物理無効で気にする必要はないって」

 この口ぶりだと物理無効はスキルではない。上書きはされていないと考えられる。かなりのチートだ。

「ね、だからしようよ。せっかく盛り上がってきたんだし」

「本当に魔法には影響が出ないんだな」

「あ……うん。まあ」

 急に歯切れが悪くなる。俺は追及の手を緩めない。

「問題があるなら教えて欲しい」

「魔法ではないんだけど、呪いの耐性が少し落ちるかな」

「弱点になるのでは?」

「平気だよ。呪いを扱う種族はとっくに途絶えたし、伝承も残ってないよ」

 女性は積極的に身体を押し付けてきた。柔らかい部分に意識が急速に傾く。


 この女性としてはダメだ。絶対、死亡フラグだ。


 胸中で言い聞かせる。飛びそうになる理性を全身で抑え込んだ。

「だから、しようよぉ。なんか身体が火照(ほて)ってきちゃった」

「俺もしたいが、それでも」

 その最中、荒々しい足音が近づいてきた。ドアの前で止まるとドンドンと激しく叩いた。

「いつまで寝てるつもりだ! これ以上、居座るなら延長料金を払って貰うぞ!」

「すみません。すぐに出ます」

 飛び起きた女性は床に丸めていた法衣を素早く着用。急いで杖を持ち、俺に視線を向けた。

「俺の服は?」

「そんなのないよ。物理無効なんだから」

 理に適っていても羞恥心が邪魔をした。俺はベッドの見えない位置の布を両手で引き裂き、股間を隠す。褌一丁(ふんどしいっちょう)で宿屋を追い出された。

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