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35話 祭壇への道(3)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』

アクションスキル 『空中跳躍』

 悩んだ末に俺は先頭に立った。マグルが後方で守備を受け持つ。

 空では翼竜が意味ありげに旋回している。気を取られ過ぎず、足元に注意しながら歩を進めた。

 不意打ちのような横風が吹くと無理をしないで立ち止まる。腰を落とすと安定するが太腿(ふともも)の辺りが震え出す。かなりの距離を()り足に近い状態で歩いてきた。

 (いま)だ、終着点が見えない。視力向上のスキルでも先を見通せない事実に希望が削られる。

 俺は独り言のように呟いた。

「……先は長いのでしょうか」

「姫様、元気を出してください。この調子で進めば一回の野宿で踏破できます」

「こんなところで、どうやって寝るの!?」

 後ろを振り向いた瞬間、身体が振られて右へ傾く。マグルは冷静に左腕を伸ばし、受け止めてゆっくりと押し戻した。

 そして何事もなかったかのように話を進める。

「このような体勢を取れば姫様でも安全に眠れます」

 マグルは尾根の上に(うつぶ)せとなった。顔は横向きで左右の両手と両脚は断崖を挟み込んでいるようだった。

「痛くないですか?」

「全く問題ありません」

「でも、寝返りは打てない、ですよね?」

「危ない行動は控えてください」

「……わかりました」

 野宿は突然死。俺は頭の中で認識した。

 そこで歩く速度を上げた。小さな突起は大股で対処した。

 体感で最初の速度の二倍を超えているはず。野宿になる前に渡り切れると自信を深めた。

 その矢先、俺は後ろから引っ張られた。両脚が宙に浮き、眼前で石が弾けた。

「姫様、背中にしがみ付いてください」

 爪に引っ掛けられた俺はまたしても浮かび、マグルの丸い背中に抱き付いた。太い首に両手を回し、空に目をやる。

 翼竜が近くに見えた。自然に掴んだ石に目が留まる。何度か頭上を行き過ぎた。

「姫様、手を離さないように」

 反射的に歯を噛み締める。マグルは後方へ跳んだ。放たれた石は前方の尾根の一部を欠けさせた。

 マグルはすかさず前へ出た。壊された一部を跳び越え、逃走を図ると見せかけて空へ炎を噴き出した。

 急接近した翼竜は突然の反撃に大きく羽ばたく。急速に遠ざかると仲間を引き連れて飛び去った。

「これで脅威はなくなりました。私達も急ぎましょう」

 声が耳に届いていないのか。マグルは一方に鋭い目を向けていた。

 何も疑問を感じなかった俺は前へ向き直る。やはり終着点が見えない。時間のロスもあってとにかく先を急いだ。


 俺は足を止めた。前方の尾根がノコギリ歯のような形状をしていた。決して風化によるものではない。砕かれたような面が他と比べて真新しい。

 その予兆はあった。宙に群れる点のようなものを見つけた。僅かな風で掻き消されそうな音を連続で聞いた。

 俺は立ち尽くした姿でマグルに訊いた。

「あの翼竜の仕業でしょうか」

「恐らくは」

「知能が高いと」

「……こちらを襲撃した時に学んだのかもしれません」

 納得できる答えだった。

 翼竜にとって俺達は(えさ)なのだろう。石の直撃で仕留めてもいい。もちろん足場を悪くして滑落死でも構わない。

 野宿になれば、まず死を避けられない。わかっていても一歩が踏み出せない。壊れていない部分にもヒビが入っていた。視力の良さが(あだ)となって足の自由を奪う。

「姫様、背中に乗ってください。損壊は酷いですが駆け抜ける自信はあります」

「……お願いします」

 マグルは頭を極端に低くした。俺は遠慮がちに踏んで背中に張り付いた。両腕の他に両脚で胴体を挟んだ姿で、どうぞ、と短い声を掛けた。

「行きます」

 一言で飛び出した。背中が激しくうねる。合間に何度も跳躍した。着地の衝撃で回した手足が外れそうになった。

 小石が転がるような音が重なる。大きな跳躍を見せた。着地と同時に視界が(かし)ぐ。抗う爪先から火花が散った。

 その直後の浮遊感。危ない足場を避けて降り立った。俺はマグルの背中で軽く弾んだ。しがみ付く力を失いつつあった。

「姫様、危険な場所を抜けました」

「本当に?」

「ここからは歩いて行けます」

 マグルは乗せた時と同じように頭を低くした。静かに下りると細いながらもしっかりした尾根が真っすぐに伸びていた。

 嬉しさで歓喜の叫びを上げそうになった。疲労で重たい身体が一気に軽くなる。

 弾むような足取りで進んでいくと崩れた。いきなり足場を失い、身体が左方向へ吸い込まれる。

「姫様!」

 叫んで伸ばす爪は俺に届かない。初めてマグルの驚きの表情を目にした。

 背筋に冷たい死が張り付く。ゾクリとする感覚を身震いで振り解いた。


 空中跳躍だ。


 俺は何もない空間を足場にして跳んだ。不格好ではあったがマグルが胸で受け止めてくれた。

「な、なんと。姫様、今のは」

「女神様のご加護です」

 微笑むとマグルは抱き締めたまま(しき)りに頷いた。

 安全に見えても危険は潜んでいる。マグルは俺が歩くことを許さず、背に乗せた姿で足早に進んだ。

 空には翼竜がいなかった。諦めたのかもしれない。ほっとした瞬間、身震いを起こす。

 ファンタジックな世界ですっかり忘れていた。


 トイレはどこに……。

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