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33話 祭壇への道(1)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』

アクションスキル 『空中跳躍』

 見慣れた曇り空。そこにゴスロリ風の女神が入り込む。細目にして俺を見下ろす姿が内心を物語っていた。

「女神ポイント、ゼロなんだけど」

「……ごめんなさい」

 言いながら上体を起こす。項垂れて深い溜め息を吐いた。頭の上にぽんと(てのひら)を置かれ、摩るような動作に変わった。

「今回は仕方ないよね。次、頑張ろう」

「元気が出ました。ありがとうございます」

 俺は立ち上がった。どのような異世界であっても立ち向かい、最善を尽くすと。

 いつもの手順で女神屋の店頭に置かれたカプセルトイにコインを入れて回す。出てきた紫色のカプセルを割って紙を取り出した。

 いきなりのハズレに心が折れそうになった。

 女神は苦笑いに近い表情で肩を組んできた。

「前にも言ったと思うけど、ハズレはかなり珍しいんだよ。実質、レアみたいなもんだよね」

「……異世界ガチャで当たりを引きます」

「そうだよ。熱意を力にして女神ポイントをしっかり稼いできてね」

 横手に離れた女神は頭を傾けて微笑む。頭頂部に取り付けた大きな白いリボンが重そうに揺れた。プリンに掛けられたミルクソースを想像して生唾を呑んだ。

 甘ったるい雰囲気に包まれる中、俺はいつものように奈落の底へ落ちていった。


 意識がぼんやりする。身体が熱くて右の足首が痛む。若干の吐き気を伴い、動こうという気力が湧かない。

 視界は枝葉に覆われていた。空の一部も見えない。深い森の中にいるようだ。

 耳が微かな音を捉えた。下草を踏み締めながらこちらに向かってくる。警戒しながらも身体は無防備で泣き言が漏れそうになった。

 耳元で音が止まった。そちらに目を向けると、黒い毛で覆われた二足歩行の獣が突っ立っていた。

「意識が戻ったのですね」

「……あな、たは、誰?」

 喉の奥底から声を絞り出して()いた。

「毒の影響で……私は姫様の護衛役のマグルです。覚えていませんか?」

「そう、ね。足首が、少し、痛くて」

「毒蛇に咬まれた傷が痛むのですね。替えの薬草をお持ちしました」

 鋭い爪で握ったヨモギの葉に似た塊を俺に見せた。すぐに視界から消えると足首の処置を始める。

「姫様、どうでしょうか」

「少し、楽に、なったわ。ありがとう」

「私の不注意でした。申し訳ありませんでした」

 マグルは膝を突いた。突き出た口の中にちらりと見える歯はとても鋭い。悪寒と恐怖が同時に沸き起こって身体が震えた。

 マグルは添い寝をするような姿となった。

「今は体力の回復に努める時です。失礼します」

 視界が黒で占められた。マグルが俺の上に遠慮がちに覆い被さる。その行動に俺は少なくない戸惑いを覚えた。

「これは、どういう、こと?」

「獣人の乳を飲み慣れていないとは思いますが、肉体に活力を与えます。多少ですが解毒作用も期待できます」

「そう、ですか」

 俺はマグルの胸を見て更に迷う。黒い毛の中から赤みを帯びた乳首らしい突起が覗く。目で数えると十個もあった。

「もう少し、下げて、くれますか」

「わかりました」

 黒い毛は意外と硬い。瞼を閉じた状態で一個の乳首を咥えた。柔らかい膨らみを唇で揉むようにして吸った。甘味と酸味が混ざり合う液体が口の中に広がってゆく。

 その中、俺は心の中で文句を並べ立てた。


 獣人の雌は少し毛深い程度の人間じゃないのかよ。頭に丸い耳がちょこんと付いていて愛嬌があって可愛らしい。当然のことながら胸は大きく、立派な臀部(でんぶ)には尻尾が生えている。これが獣人のあるべき姿だろ。大型のドーベルマンと(ひぐま)みたいなのを掛け合わせたような獣人は反則だ。


 それら諸々の不満は全て乳と共に飲み下す。全力で吸ったあとは気絶するように深く眠った。その繰り返しで、ようやく自力で起き上がることができた。

 足の傷の確認もあって、その場で軽く跳んでみた。痛みはまるで感じない。弾む胸のせいで鎖骨の下の当たりの肉が引っ張られた。

 姫様の呼称でわかっていたが、やはり女性の姿で転生していた。目的は未だにわからない。マグルが狩りから戻るのを待つとしよう。

 俺は一方に目を向けた。木々が邪魔でよく見えないが重い物を引きずるような音がする。

「戻りました。これで精力を付けましょう」

「これを食べると……」

「姫様に生食は酷なのでこんがりと焼きます」

 血塗れの右手には鹿のような物が握られていた。長い首は折れ、腹部はぱっくりと割けて空洞のようになっていた。

 確かに焼けば食べられるだろう。あとは火を起こす道具が必要になる。それらしい物を目で探したが見つからなかった。

「火はどうするのですか。道具もないみたいですし」

「少し離れてください」

 マグルの指示で離れた。適当な倒木を見つけて腰掛ける。

 直後、突然の熱風で思わず顔を(そむ)けた。

「良い感じに焼けました」

「マグルは魔獣?」

「それはなんでしょう。初めて聞きました」

 赤い双眸(そうぼう)で僅かに口を開けた。吐き出した炎の残り火がちらちらと揺らめいていた。


 目的はわからないものの困難な旅を想像させた。

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