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31話 小さな戦争(1)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

         『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』『暗闇無効』

         『投擲(必中)』

アクションスキル なし

 全身を揺るがす振動で意識を取り戻した。転生先がわからないどころか、現状を把握さえできない。新たに得た『空中跳躍』のアクションスキルで逃げ出すことも無理そうだ。足の感覚がまるでなかった。

 おまけに超過密状態。朝の電車内のように狭いところに詰め込まれ、各々が反発して身体をくねらせた。俺も負けてはいられない。四方八方からくる攻撃を迎え撃つように激しく動いた。

 それらを無言で行う。不自由、極まりない。ゆえに全身の感覚が研ぎ澄まされた。見えないながらも薄っすらと自身の姿が思い浮かぶ。

 ツルンとした頭部に細長い胴体が付いている。例えるなら卵から産まれたばかりのオタマジャクシと言えるだろう。辛うじて生物ではあるが、異世界ガチャの運の無さには泣けてくる。

 鋭敏になった全身のおかげだろうか。外部の声を感じた。

 マラソンをするような息遣い。一方は女性のようで艶めかしい声が混ざる。徐々に振動が激しくなって俺は身体を安定させることに必死となった。

 体感ではマグニチュード八。凄まじい横揺れに見舞われた。

 女性の悲鳴のような声が世界の終わりを告げる。急速な流れに巻き込まれた。抗うことは一切できず、波打つ大地に放り込まれた。


「中はダメって言ったのに」

「ごめん、気持ち良すぎて」

「シャワーで洗ってくる」


 男女の会話で俺は全てを理解した。迫る危機に対処しようと奥へ懸命に泳ぎ出す。

「マジ、ムカつく」

 女性の静かな怒りが合図となった。生温かい激流が全てを押し流そうとする。俺は咄嗟の機転を活かし、肉の壁にへばりついて難を逃れた。

 束の間の平穏が訪れた。俺に残された期間は三日くらいか。保健の授業で習った記憶がある。受精卵を望むなら卵管の辺りに待機した方がいいだろう。奥なので外へ排出される危険性も軽減される。

 今後の方針が決まった。とにかく奥を目指す。生き残りも同じ考えのようでぶつかりながら進んだ。

 徐々にストレスが溜まる。自身の精子の姿を想像するだけで身悶えた。


 これのどこが転生なんだ。産まれてもいないじゃないか。ふざけんなよ。


 女性も怒っていた。怒りが足音となって伝わる。その都度、結構な余震に(さいな)まれた。

 男性とはその場で別れたようだ。電車の走行音を経て家に帰り着いた。

 二階に自室があるのか。駆け上がって、怠いわ、と呟くと今度は凄まじい縦揺れに襲われた。それ以降は何も起こらず、寝息のようなものが聞こえてきた。

 ベッドにダイブしたくなる気持ちは理解できる。内部にいる俺はヘトヘトだ。少しの間、微睡(まどろ)むことにした。


 体内にいると時間の経過があやふやになる。歩くような振動で意識を取り戻した。

「ボブ、元気にしてたぁ?」

 直後にネイティブっぽい英語が返ってきた。『元気だ、今からホテルで試してもいいぜ』的なことを堂々と語っていた。人通りのある雑踏の中で、だ。

 いきなりの剛速球に女性の怒り狂う姿を想像した。

「いいよ。近くに素敵なところがあるから案内するね」

 俺は、いいのかよ、と心の中でツッコミを入れた。体感時間で言うと二十分で部屋に着いた。

 シャワーの独特な音を感じた。俺は反射的に奥の方へ逃げ込んだ。内部に影響を与えなかったのでほっとした。

 その十分後、天変地異が起こった。

 女性は声で乱れ狂う。男性の興奮した英語は逆に萎える。激しい出し入れで俺は動くことさえままならない。

 最後が酷い。外国産の精子が大量に投入されて新たな戦場を生み出した。生存本能に従い、俺は触れる全てを薙ぎ払う。

 中に出された女性も怒り心頭とはならなかった。

「もぉ、ボブったらぁ。ダメじゃん、中出しなんかしちゃって~」

 猫撫で声で甘える? 男性はHAHAHAと外国人らしい笑い声で『ハニーのためならいくらでも払ってやる』と豪語した。

「とりあえずぅ、シャトーブリアンが食べたいなぁ」

 男性は断らない。そこにロマネコンティを付け加えた。名のある起業家、または投資家なのか。そのような肩書きを想像させた。

 その遣り取りは俺の闘志を掻き立てる。無双する勢いで暴れ回った。


 昼夜の区別が付かない。この戦場で何日が経過したのか。軽微ではあるが力の衰えを感じ始めていた。

 俺は卵管の側で力を温存しながらひたすら待った。他も同じ狙いがあるのか。鮨詰め状態になっていた。建物の裏手から出てくるアイドルを待ち続けるファンのように想いは募っていく。


 卵子ちゃんに早く会いたいよ。そして合体して分裂したいんだ。


 切に願う。その高まった想いとは関係なく、女性の不安そうな話し声を感じ取った。


「今日、またボブに会うんだよねぇ」

「確か起業家だよね」

「そう、かなりのブルジョワ。でも他にも女がいそうだし、迷うわ~」


 相手は女友達のようだ。内容としては困る要素があまりないように感じる。俺は全身に意識を巡らせた。


「なんでよ。愛じゃなくて金なら迷う必要なくない?」

「どんな守銭奴よ。ま、危険日に入りそうなんだけど、なるようになるか」

「そうそう、デキ婚なんて珍しくないって」


 素晴らしい情報に俺は歓喜で打ち震えた。

 同時に死闘を予感。その時を静かに待った。

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