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26話 ポーター奮闘記(2)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』『容姿向上』『短剣特効(速)』『水中歩行』

アクションスキル なし

 上の階は下の階と比べて変わったという印象を受けない。壁の色は茶色で左右に通路が伸びている。どちらもかなり先の方で丁字路(ていじろ)になっていた。途中にちらほらと脇道が見える。距離があるので敵の接近を許すことはないだろう。

 俺は背負っていた荷袋を下した。ダンジョン攻略に役立つ品々を期待して結び目を解き、巾着状の口を広げた。

 最初に鳥の羽根のような物が目に付いた。用途がわからないので隅に押し遣る。細長い銀色の棒は金属だろうか。武器にしては極端に短い。容器でもないのだろう。開けられる箇所が見つからなかった。

 他には紫色の葉で巻かれた物体が適当に押し込まれていた。その一つを取り出すとゴマ油に似た香りが好ましい。非常食を想像して元に戻し、手近の折り畳まれた紙を取り出した。

 広げるとかなりの大きさとわかる。階層は書かれていないが複数の迷路が俯瞰(ふかん)の状態で記されていた。似たような形状の通路が多い上に自分のいる場所がわからない。役立たずと断定して底の方へ押し込んだ。

 あとは効果のわからない薬瓶と予備の衣類があるだけで、現状を打破するような物は見つからなかった。

 俺は最初に目にした羽根を手にした。鳥は大空を自由に飛ぶイメージがある。脱出に相応しい魔道具と考えた。

 早速、羽根を頭上に掲げて、脱出、と口にした。何も起きない。ゲームの知識で得た呪文を色々と試したが全て不発に終わった。

「……ダメだ」

 羽根を元に戻して中身が零れないようにしっかりと紐を結ぶ。荷袋を背負うと右方向から何かを引き()るような音が聞こえた。

 瞬間的に目をやる。かなりの距離があっても一目でわかる。身体の震えが止まらなくなった。

 血に塗れたこん棒を肩に担ぎ、もう一方の手には憐れな犠牲者の頭部を掴んで引き摺りながらこちらに歩いてくる。

 俺は背を向けて逃げ出した。相手も気付いたのか。引き摺る音が大きくなった。

 見通しのいい直線は避けて脇道に飛び込んだ。暗がりを突っ切り、ジグザグを意識して走った。

 大きく引き離したのか。追い掛ける音が聞こえなくなった。それでも早歩きを止められない。

 先程の脅威は赤鬼だった。下の階で見た骸骨剣士よりも上位の存在に思える。階に適応しない強敵が混ざっているのだろうか。


 そんなことはどうでもいい。


 心の中できっぱりと言い切った。今は命優先ではぐれた仲間と合流しないと。取り敢えず、音のしない通路を選んで歩いた。

 感覚で言えば数分。上り階段を見つけた。運向上のスキルがまともに仕事をした。

 俺は歓喜の声を(こら)えて階段を上がった。

 階層が変わった途端、左手から風を感じた。忍び足で緩やかに曲がる通路を進む。先々で見つかる扉が気になるが無視して通り過ぎた。

 風を強く感じる。曲がった先に鉄格子が見えた。(はや)る気持ちで走りそうになる。

 その足をぴたりと止めた。薄汚いボロを(まと)った巨大な亡霊が左手の壁からふわふわと現れ、右手へ消えた。手に持つ巨大な鎌は死神を思わせた。

 何かがおかしい。強敵に遭遇する頻度が上がっているように感じた。

 俺は小走りで鉄格子へ向かう。前へ倒れ込むような姿勢で鉄柱を握り締めた。顔を強く押し当てて愕然(がくぜん)とした。

 ここはダンジョンではなかった。巨大な塔の中だった。見下ろすと米粒くらいの人々が歩いている。

 即座に(きびす)を返し、俺は全力で走った。足音を気にしている場合ではない。進んで階段を上がって自ら窮地(きゅうち)に追い込んだ。

 その愚かな行動を嘆いている時間もない。扉を通過する度に後ろから開く音が聞こえた。甲冑を着こんだ魔物なのか。金属音を立てて追い掛けてきた。

 振り返る時間が惜しい。あと少しで階段に行き着く。それまでの辛抱だと胸中で言い聞かせた。

 それが、ない。分岐した通路ではないので迷うはずもなく、大いに焦った。


 階段を上がると下りられない仕様なのか。


 ゲームの世界ではよくある設定と言える。実際、身に起こるとその理不尽さで涙が零れそうになった。

 背後の金属音は通路内に響き渡る。広範囲に伝わったのか。前方の扉が開き、頭部を左手に抱えた甲冑の騎士が現れた。

 その偉容はデュラハンを想像させる。退路を断たれたと感じ、思い切って後ろを振り返った。

 阿修羅がいた。デュラハンもいた。白面(はくめん)のバンパイアは腕を組み、滑るように近づく。武装したケルベロスは怒り狂ったように牙を剥いた。

 壁の中に消えた死神が、その凶悪な集団に加わった。木のウロのような大口を開けて鎌を振り上げる。

 俺は走るのをやめた。早々と心の中で反省会を始める。


 石で組まれた壁を見てダンジョンと決め付けた。これが失敗の元だな。塔の可能性が完全に抜け落ちていた。

 もう少し頭を働かせていれば安易に上り階段に飛び付かなかった。大いに反省して今後の糧に――。


 最前列に躍り出たデュラハンの剣技で俺の頭部が宙を舞う。残った身体は切り刻まれ、バンパイアの餌食(えじき)となった。

 最後に残った思考は緩やかに闇へ呑まれていった。

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