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16話 ゴブリンの王(3)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』『容姿向上』

アクションスキル なし

 全身が燃えるような歓喜を過ぎると頭は程よく冷えた。マーマンの遺体を眺めながら思考を巡らせる。

 ゴブリンである俺が単独で難敵を(たお)した。この事実を広めて今の地位を揺るぎないものにする。

 女神の話によれば転生先にもガチャがある。偉大な功績を収めると回せる達成ガチャ。レア以上が確定しているという。

 死に戻りのガチャはハズレ込みなので、この好機を活かしたい。配下であるゴブリン達を意のままに動かし、世界の覇権を握る。その偉大な一歩としてマーマンの一部を持ち帰ることに決めた。

 一番、柔らかそうな腹部は内臓が詰まっているので避けたい。切り開いた絵面を想像するだけで口の中が酸っぱくなった。

 腕や脚は割と太い。斬り落とす手間が掛かれば、新手に出くわして連戦になる可能性が高まる。敵方の数によってはかなり不利な戦いを強いられるだろう。

 俺は嫌々ながらマーマンの側にしゃがみ、両手で引っ繰り返した。

 背中をびっしりと覆う(うろこ)に目をやる。剣先で表面を突いても傷一つ付かない。重ねられた隙間に先端を刺し込んだ。左右に揺すって押し込むとかなり奥まで入った。そのまま剣身を起こすと難なく鱗が剥がれた。

 その一枚をまじまじと見る。槍の穂先のような形状で驚くほど軽い。武器に利用できるかもしれない。二十枚ほど、重ねても厚みは五センチに満たない。左手で束ねた鱗を持ち、右手には頼もしい短剣を握って通路を足取り軽く戻ってゆく。

 岩の隙間に身を隠していた雌が飛び出してきた。

「タンケン!」

 目と口を吊り上げて叫んだ。雄と見分けが付かない凶悪な顔ではあるが喜んでくれているようだ。そこで誇らし気に短剣を掲げて見せた。

「タンケン、テニイレタ。アルクサカナ、タオシタ」

 証拠とばかりに左手を差し出す。目にした雌は、ィイイイ、と奇妙な声で後ずさる。荒い息遣いとなって自ら近付き、鱗を食い入るように見つめた。

「ボス、ツヨイ!」

「ボス、チガウ。オレハ、キング」

「キング! ツヨイ、コトバ!」

「ツヨイ、オレハ、キングダ!」

 雌は俺の左腕に抱き付いた。その状態で歩きながら褒めちぎる。

「キング、ツヨイ。マケナイ。モウ、コワクナイ。キング、イルカラ」

「マカセロ」

「キングゥ、キングゥゥ」

 甘えた声で左腕に控え目な胸を押し付ける。あまり柔らかさは感じないものの気分的に悪くない。

「チガウ!」

 瞬間、自分の感情を声に出して全否定。プリン頭の女神を頭に思い描き、急いで上書きした。

「キング?」

「モンダイ、ナイ」

 心のゴブリン化を阻止して安堵(あんど)の息を吐いた。


 元の場所に戻った俺は経緯を他のゴブリン達にも語って聞かせる。話が終わる前に興奮して叫び出す者が続出した。複数が酸味の強い酒を持ち寄り、瞬く間に酒盛りへと突入。

 全員が酔って騒ぎ、事切れたように眠った。気だるげに起き上がる頃合いで俺は話を切り出した。

「ホカノテキ、ドコニイル」

「チカク、ホカノゴブリン、イル。ボス、ツヨイ」

「メス、イッパイ」

 小鼻を膨らませた雄は立ち上がると、いきなり腰を前後に振り始めた。目にした雄達は下卑た笑いを漏らす。俺の隣に座っていた雌は手近な骨を掴んで地面に叩き付けた。

 静かになったところで俺は敵の棲み処を()いた。

「ドコニ、イル?」

「アソコ、ススム。ミギ、イク。フタツメ、ミギ。スグ、ヒダリ」

「チガウ! フタツメ、ヒダリ! ツギ、ミギ!」

「ソレ、チガウ!」

 聞いているだけで頭が痛くなる。取っ組み合いの喧嘩に発展する前に俺は短剣で地面に簡単な地図を描いた。

「サッキ、アルイタ、トコロダ」

「コレ、ヨクワカル。コッチ、ゴブリン、イル」

 一人が指さすと(おおむ)ね、同じ方向を示した。俺は聴き取った内容を反映して大まかな地図を完成させた。

 ここと同じような広い空間に出入口は左右の二箇所。挟撃ができそうだ。当然、俺は敵のボスを狙う。

「フタツ、ドウジ、シカケル」

「サクセン! イイ! スゴク、イイ!」

「キング! スゴイ! アタマ、イイ!」

 興奮が高まるとまたしても酒を持ち込み、決行は少し遅れた。

 完全に身体から酒が抜けると二手に分かれて行動を起こす。俺が一方の先頭に立ち、引き連れた配下は後方の警戒に当たらせた。

 途中、出くわした敵の雄は人数で脅して捕虜とした。逆に雌は全く抵抗を見せない。容姿向上のスキルが役に立ったようだ。取り敢えず、尻は振らなくていい。

 地図で描いた目的地に着いた。すかさず全員に指示を出し、目立たないように身を(かが)める。もう一方の出入口に目を凝らすと雌を先頭にした集団が到着した。

 あとは事前に決めた小石を投げて、その音を切っ掛けに同時に攻め込むだけだ。

 用心深く俺は左奥の集団に目を向けた。手作りの座椅子のような物に体格の良いゴブリンが座っていた。他の者とは違い、緋色のマントを羽織っている。腰の辺りにはこん棒のような鈍器が見て取れた。

「キング、ドウシタ?」

「……アレハ、ホブゴブリンダ」

 馴染みがない言葉なのか。雄達は他の者を頼って視線を交わす。

 ゴブリンにとっては格上の相手となる。身なりを気にするところに知性も感じられた。

 俺は視野を広げて全体を眺める。拠点の棲み処と比べて見ると明らかに違う点があった。なだらかな地面に薄い板のような物が置かれていた。不規則で数は意外と多い。

 一番、近いところの板に目を付ける。足元に落ちていた小さな石の欠片を摘まみ、軽く投げた。

 当たった瞬間、奥行きのある音がした。他の者には聞こえていない。即座に全ての板が落とし穴の罠と判断した。

 俺は後方に端的に伝える。

「イタ、フムナ。ワナダ。ホカノモノニ、ツタエロ」

「ソウナノカ。ワカッタ。ツタエル」

「オレモ」

「オレモダ」

「キング、カシコイ」

 俺は手で制した。高まる感情を冷まし、持ってきた小石を気負いなく投げた。天井ギリギリで失速して地面に乾いた音を立てた。

 その直後、全員が飛び出した。抑え切れない興奮に包まれ、方々で叫び声が上がった。その中、板の注意喚起も行われ、俺は一足飛びでボスに迫る。

 近くにいた雌は散り散りになって逃げ出した。ボスは威厳を保ち、ゆっくりと立ち上がる。腰に据えたこん棒を引き抜き、片手で大きく振り被った。

 その体勢で待ち構える。俺は躊躇(ちゅうちょ)なく間合いに踏み込んだ。唸りを上げたこん棒が頭頂を狙う。

 瞬時に速度を上げた。こん棒は地面を(したた)かに打ち付けた。衝撃で手から落とすことはなく俺が跳んだ方向へ風を纏って迫ってきた。

 下をくぐるような隙間はない。僅かな目の動きで俺は上に跳んだ。避けると同時に無防備な手首を斬り付けた。傷は浅く出血は少量。痛みをほとんど感じていないのか。自らの舌で舐め取った。

 余計な自尊心が死期を早めた。間もなく全身が硬直。口元から血が混じった泡を吹き、そのまま後ろへ倒れ込んだ。手作りの玉座は潰れ、だらしない格好でボスは果てた。

「オレガ、キングダァァ!」

 空間に響き渡る大音声(だいおんじょう)を絶賛の声が包み込む。その場にいた全員が熱狂の渦に巻き込まれた。

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