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11話 力が支配する世界(4)

所持スキル


パッシブスキル  『無限転生』『視力向上』『聴力向上』『運向上』

アクションスキル なし

 似たような茶色いブロック型の建物を縫うような道をゆく。蛇行した道を進むと思えば右に折れ、突き当りを左に曲がる。

 とてもではないが道を覚えていられない。肩車の状態から普通の歩きになってどれくらいの時が過ぎたのか。ワンピースのような服は汗で貼り付き、流れる汗で目が()みる。

 意識がぼんやりしたところでナザクに手を握られた。見上げると口元が笑っているようだった。

 茶色い塀に囲まれたところに辿り着く。高さは目測で二メートル程度。大柄な彼女達を足止めするにはかなり心許(こころもと)ない。

「着いたぞ」

 ナザクは斜め下の俺に向かって言った。

「助かりました。もう少しで足が棒になるところでした」

「そのような体質は聞いたことがない。他の者はどうだ?」

「私もナザク様と同じです。どこの国から(さら)われてきたのでしょうか」

「脚を見せろ」

 護衛役の一人が焦げ茶色の前髪を掻き上げて凄んだ。

「これで、いいですか?」

 スカートに当たる部分を摘まみ、限界まで引っ張り上げる。その場の全員の視線に晒された。

「白くて艶やかで、実に噛み心地が良さそうだ」

「棒になる兆候は見られないが」

「硬さではないのか?」

 好奇心を抑えられない一人が太腿を掴んだ。上下に摩り、脹脛(ふくらはぎ)を適度な力で揉み始めた。

「堪らない感触だ」

「一噛みならいいよな?」

 食欲が抑えられない一人が(よだれ)の筋を作った口でじりじりと迫る。背後からナザクが肩を掴んだ。

「オレの賞品に手を出すつもりか?」

「そ、そのようなことは……平にご容赦を……」

 喉から絞り出すような声で片膝を突いた。筋肉で盛り上がった肩に指先がめり込んでいた。

 俺は考える前に咄嗟に動いた。

「私は気にしていません。実際に危害を加えられた訳ではないですし、どうか怒りを収めてください。ナザクさんの大切な戦力ですよね?」

「賞品がでしゃばるな。今回は、オレの判断で許してやるが」

 ナザクは掴んでいた肩を離した。指先の痕がくっきりと残る。痛みを堪えて立ち上がる相手に俺は一声かけた。

「大丈夫ですか」

「……噛み殺すぞ」

 その静かな殺意に笑顔が引き攣る。発端となった慣用句は胸中で禁句となった。おそらく(ことわざ)も通じないと思うので即座に封印となり、緊張が解けないまま敷地内に足を踏み入れた。


 ナザクの号令を受けて広々とした中庭に屈強な女性達が整列した。最前列は七人で形成されていて四列にも及ぶ。護衛役の人達を含めた二十八人、全員の目がナザクと隣にいる俺に集まる。

「賞品ではあるが新たな仲間として加える。オレの身辺担当だ」

「身辺警護ではないのですか」

 最前列にいたイズキは俺を睨みながら言った。

「オレの肩をまともに揉めない者に警護は務まらない」

「身近に置く理由がわかりません」

「見た目ではわからないが、素晴らしい目と耳を持っている」

 ナザクは軽く俺の背中を叩いた。踏ん張れず、前によろめいてぎこちない笑顔に努めた。背中が猛烈に痛い。

「……護衛隊長として、この場で試してみてもいいでしょうか」

「構わないぞ」

 ナザクは手で他の者達を移動させた。左右に整列した者達は今から行われることにわくわくした表情を見せた。戦いの日々もあって娯楽に飢えているのだろうか。

 俺とイズキは間隔を空けて横並びとなった。ナザクは遠ざかり、見つけた小石を拾い上げた。それをこちらに見せつける。

「この石が見えるか」

 真面目な生徒のようにイズキは挙手して答えた。

「見えます」

「よく見えます」

 あとに俺が続くと瞬時に言い直した。

「とてもよく見えます!」

 その直後、握り締めた拳が不穏な音を立てた。俺は生唾を呑んで震えそうになる身体に抗った。

 ナザクはその場で回って背中を見せた。頭を下げると右腕を小刻みに動かす。数秒で振り返り、先程と同じように小石を見せた。

「石の表面に空いた穴は幾つだ。わかった者から答えろ」

 俺はイズキを横目で窺う。顔を突き出すようにして目を細めていた。三と四で迷っていることは独り言でわかる。

 軽く手を挙げた俺は控え目な声で言った。

「五つです」

 イズキの刺々しい視線を感じる。鬼の形相を想像して直には目に出来なかった。

 やや遅れてイズキは、四です、と答えた。正解は聞かないでもわかる。

「正解は五だ。さすがだな」

「大したことでは」

 途中で口を閉じた。横手から歯軋りが聞こえた。この場の謙遜は答えを間違えたイズキのプライドを傷つけるかもしれない。

 チラリと横を見て震え上がる。歯を剥き出しにしたオーガが肩で息をしていた。

「次は耳だ。お前達、こちらに背中を向けろ」

 言われた通り、向きを変えた。整列していた者達が(にわか)にざわつく。

「無理だ」

「聞こえるはずがない」

「まさか、聞こえるのか!?」

「信じられない」

「……美味しそう」

 俺に向けられた声のようだった。最後の一言は疑いようがない。

 その中、ナザクの微かな足音が遠ざかる。止まると声を張り上げた。

「今から石を地面に落とす! 聞こえた者は手を挙げて示せ!」

 整列していた者達は一瞬で口を閉じた。無音に等しい状態が続く。

 肌を(あぶ)るような風が吹いた。軽い物は転がり、大通りの雑踏がさらさらと流れてきた。

 そこに軽い異音が挟まる。俺は身の危険を感じながらも手を挙げた。

 一斉に歓声に包まれた。整列していた者達が駆け寄って、凄いな! と口々に褒め称えた。

 イズキはその横で両膝を突き、完敗だ、と力なく笑った。


 このような経緯でナザクの身辺担当というよくわからない役職に就くことになった。取り敢えず、野垂れ死には免れたので良しとしよう。

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