1話 呆気ない最期
夜道をとぼとぼ帰る。右手に提げたビニール袋がカサカサと耳障りな音を立てた。
中身は三個のおにぎりと缶コーヒー。バイト先のコンビニで手に入れた。取り立てて美味い訳ではない。バイトの特権で消費税分、割り引かれていた。
――いつまでこんな生活が続くんだろう。
戸建ての窓の明かりを見ると、つい思ってしまう。実際には見えない一家団欒を想像して逆に暗くなる。街灯の乏しさが闇を強く意識させて涙が出そうになった。
――今日の俺も元気に情緒不安定。
自嘲気味に思い、大きな溜息を吐いた。
自宅のアパートが見えてきた。負の連鎖を断ち切るつもりで心の中で自ら励ます。
――俺はまだ二十四才だ。十分に若者だ。大卒の資格もある。どんな自分にもなれるんだ。
少し気分が上向いた。就活に失敗してコンビニバイトになったことは取り敢えず忘れる。
敷地内の青空駐車場を突っ切り、右奥の扉の鍵を開けた。
中に入ると三歩で部屋に着く。壁のスイッチで照明を点けた。脱ぎ捨てた衣類は足でどかし、適当な床に腰を下ろした。
特に味わうこともない。おにぎり三個を胃袋に収め、コーヒーを喉に流し込んだ。出しっ放しにしていた布団に倒れそうになるところを耐える。
立ち上がってキッチンに向かう。平たいところにコップが置かれ、中に入れられていた歯ブラシを手に取った。毛先が綺麗に外側へ撥ねているので直に掃除道具となるだろう。それまでは使い倒すつもりだ。
横にあった歯磨き粉のチューブは限界に近い。極限まで薄くなっていて紙を思わせる。事前に用意していたハサミで横端を切った。容器を開き、ブラシで内側を擦る。一回分を確保して速やかに歯を磨いた。
水道水でうがいを済ませ、私服のまま布団の中に潜り込む。
感覚では三十分。珍しく寝付きが悪い。強張る眉間で寝返りを打つと脇腹に痛みが走る。パーカーのポケットからスマホを叩き出した。
――長い一日だったな。
中年の女性店長の苦み走った顔を思い出しながら静かに意識を沈めていった。
下腹部に熱を感じる。無視すると痛みが混ざり始めた。
しょぼつく目で仕方なく起きる。ふらつく足元に衣類が絡み付く。
振り払おうとした瞬間、身体が傾いだ。踏ん張ろうとしたところに雑誌があり、見事に滑った。
回る世界に自分の右脚が入り込み、遅れてきた衝撃で天井がぼやけた。動悸と鈍痛が重なって、そこに吐き気が加わった。
――ぁあ、これ、ヤバ……。
過去にない感覚に襲われ、視界が黒く塗り潰されていった。