退院とお話
その後、なんとか進化した【飛翔】スキルのおかげで、【霊体化】した状態で素早く病室に戻ることが出来、誰にも気づかれることがなく戻れた。
さすがに、時間も時間だったので病室に戻った後はステータスは軽く確認して寝るだけだったが……
それでも、いくつかステータスが変化してた所は確認できた。
変化してたのは種族にステータスの値、それにスキルだ。
種族に関しては当然ながら進化したことで、レッサーレイスからレイスへと変化してレベルが1へと戻っていた。
まあ、レベルに関しては進化したことで戻ったんだろう。
だけど、ステータスは逆に全体的に上昇している。
これが進化ってことか……弱くはなっていないな。
最後にスキルだが、これは二つほど増えていた。
そのスキルというのが、【物理攻撃耐性】と【吸収】だ。
【物理攻撃耐性】は、【霊体化】をしている時は物理攻撃の無効があるらしいのでいらないかと思うかもしれない。
だけど、こうしてスキルとして獲得できたおかげで、【霊体化】をしてない状態でも物理攻撃に対して耐性が得られた。
これはかなり良いことだろう。
そして、【吸収】は中々面白いスキルだ。
その効果は、攻撃した相手から魔力を吸収するという物。
スキルの説明を見ればわかるけど結構良いものだと思う。
【霊体化】とかかなり魔力を使うし。
……使い所がないって問題点を除けばな!
喧嘩もしない一般学生の俺が、相手を攻撃するなんて機会があるわけがない。
だから、このスキルは本当に使い所がないのだ。
まあ、これらが昨日の進化で変わったところだな。
で、少し睡眠を取って、起きてから今日の分の検査やら何やらをして──
「あ、多賀谷くん。きみもうこれから退院ね」
「いや、どういうことっすか」
──それらが終了したら、これまで検査などをしてくれた先生から病室で退院宣告されていた。
なにいってるかわからないって?
大丈夫、俺もわからない。
「それにしてもずいぶんと唐突ですね……?」
「はははは、いやぁ~多賀谷くんには悪いと思ってるんだけどねぇ~……」
「じゃあなんでこんな急に……」
確か昨日の段階ではもう何日かは検査のために入院すると言われていたはずなんだが……
「それがねぇ~……多賀谷くんが急に治ってた事でなにか体に異常があると思ってたんだけどさ……思ってたよりもなにもなくてさ!
もう本当にびっくり! 医者として言っちゃダメだとは思うんだけどさ、なんだこれってかんじだよね!」
「は、はぁ……」
「それで、思ったよりもなにもないから、本日付けで退院ね。幸い、多賀谷くんの家は病院から近いから、なにかあってもすぐに対応出来るだろうし。
それに、変に入院でストレスを溜めちゃうのも悪いしね」
……まあ、俺としては大変ありがたいんだけど。
先生からしたら原因不明かもしれないけど、俺は治った原因は予想出来てるからなぁ……なにかあったとしてもそれは病院の管轄じゃないからな。
「それにね……多賀谷くんってホラーって大丈夫?」
「ホラーですか? 一応人並みには大丈夫だと思いますけど……」
ホラー映画は普通に見るし、夏にもホラー映像集めた特番とか見るからな。
ホラーゲームとかはあんまりやった事ないけど。
「あ~……それなら大丈夫だったかなぁ」
「大丈夫かなぁって……なにかあったんですか?」
「ん~……なんというか、まあ多賀谷くんはもう退院するし関係の無いことだし良いか……なんかね、この病院で出たらしいんだよ」
病院に出た?
……それって……
「出たって……ホラーという話の流れからして幽霊とかの類ですか?」
「そうそう、ちょっとこれ系の話は病院だと不吉だしさ、あんまり積極的に広めないで欲しいんだけど……」
「いや、他の人に話さないでとかじゃないんですか……? なんで積極的に広めないようにするだけなんですか……」
「え~? だってこんな感じでどうせすぐ広がるし良いかな~って」
……確かに。
こうして先生が話してるっていう実例があるんだから、俺が話さなくても、他の人からの噂話で勝手に話は広がるか。
「で、話を戻すんだけどね? 出たんだってよ、幽霊が」
「幽霊ですか……」
「そうそう、今日の夜中に出たんだってよ」
ほーん、今日の夜中に幽霊がねぇ……
………………あれ? 今日の夜中に……?
俺が中庭で色々と実験したりしてたのも夜中だな。
……もしかして……いや、違う違う。
そんなわけない。昨日看護師さん達が確認に来たなんてこと、欠片も関係ないはず。
「あの~……ちなみにどこで?」
「ああ、出た場所は中庭だってよ。なんか人の叫び声が聞こえたから、看護師さん達が誰かいるのか見に行ったらしいんだけどね……いなかったんだって、人なんて一人も。
それで幽霊だー! って看護師さん達の間で噂になってるんだってよ」
「へ、へ~……そ、そうなんですね……」
………………うん、その幽霊って俺じゃね?
今日の夜中に中庭にいたし、声には気を付けてはいたけど進化の時の痛みで声漏れてたし……
聞こえてきた叫び声って多分それの事……だよな?
……いや、諦めるな。まだ俺じゃないガチ幽霊の可能性だってあるし……それはそれで嫌だけど。
「ち、ちなみに何時ぐらいに出たとかってわかるんですか?」
「え? ……そうだな……僕が聞いた限りだと確か、1時を過ぎてから少し経った頃かな」
……はい、ほぼ間違いなく俺ですね……
時間的にも場所的にも間違いないだろこれ。
「ま、多賀谷くんにはもう関係ない話だけどね。
とりあえず、さっきも言ったけど今日で多賀谷くんは退院だけど、注意点として学校にはしばらく行かずに家で様子見をしてね?
もしなにかあれば、すぐに病院に来てくれるか救急車を呼んでくれればすぐに対処はするからさ」
「了解です」
「よろしい、それじゃ退院の手続きをしてくるからちょっと待っててね」
先生はそう言うと病室から出ていった。
……しかし、まさか俺が幽霊騒ぎになってるとは……
もう俺は退院だから、これ以上ガチ幽霊が出ない限りは、幽霊の噂は増えないだろうけど……
うん、昨日驚かせちゃったであろう二人の看護師さんについては本当にごめんなさい。
「いやーありがたいよ。最近なんか怪我人も増えてきて余裕が段々無くなってきちゃっててね~」
「怪我人が……? そんなに余裕がなくなるくらいですか?」
「そうなんだよ……多賀谷くんは楽泉山の事は知ってるよね?」
「まあ、それはもちろん。すぐそこの山ですし、よく登山客が来てますよね? それに、麓の森にあるキャンプ場でも人をよく見ますし」
楽泉山とはこの病院から歩いて、およそ10分ぐらいで、俺の家からはまあまあの距離がある山だ。
その麓の森にはキャンプ場があって、夏になるとキャンプをしに多くの観光客が集まる。
俺も子供の頃は父さんと母さんによく連れて行ってもらった。
「そうそう。で、最近ね、その楽泉山の登山客やキャンプ場の客の怪我人が増えてるらしいんだよね」
「へ~……不注意とかではなく?」
少なくとも俺の記憶にある限りは、楽泉山はそこまで標高が高くなく、道も整備されている。
冬もとっくに過ぎてて、雪が残ってることもないない。
だから普通だったらそんなに病院が圧迫されるほど怪我をするような事は無いはずだ。
「いや、不注意で怪我したとかじゃなくて、怪我した人が全員なにかを振り上げた複数の子供に追いかけられて、それから逃げてる間に怪我をしたって話してるみたいなんだよねぇ。
おかしな話だよね。キャンプ場だけならまだしも、登山客も同じことを言ってるんだよ? 警察も捜査してるらしいけど、なんにもないらしいしねぇ」
「子供ですか……?」
「そうそう、それで離れようとしたら、地面に掘られていた穴や、草が結んであって、それに引っ掛かっちゃって転んで怪我したり、そこまで高くないけど崖から落ちてしまったり、木に頭を打ってしまう人がいるんだ」
なるほど……地面に掘られた穴だけなら、まだ動物かもしれないな。
だけど、複数の子供に結んだ草とまできたら、この怪我人が多発する事件は人為的なものであることは確定か……
まあ、そういうことなら仕方がない。
「……まあ、そう言うことならわかりました。それじゃあ自分は退院の準備をしますね」
「うん、ありがとね」
……それにしても、さっきの話なにか引っ掛かるよなぁ……
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