表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/52

暖かな時間

再び穏やかな日々が、アイシュエット家の領地に戻ってきていた。


結婚式の準備は、着々と進められていく。


大広間には、領地の職人たちが丹精込めて織り上げた装飾が施され、毛織物工房では、レティシアのための純白のドレスが、一針一針心を込めて仕立てられていた。



「若奥様のお顔が、柔らかくなりましたね」


エマが、朝の支度を手伝いながらレティシアに語りかける。


「本当に、ここに来て良かった」


窓の外では早朝の陽光が降り注ぎ、露に濡れた庭が輝いていた。

鉱山からの活気ある声が聞こえ、畑からは豊かな実りの香りが漂ってくる。



「エマ」


レティシアは、幼い頃から自分を支え続けてくれた侍女に向きなおり、手を取る。


「ありがとう。あなたが、ずっと私の傍にいてくれたから」


「若奥様...」


エマの目に、涙が光る。



その時、扉が静かにノックされた。


「レティシア」


エリアスの声だった。


「少し、時間をもらえるか」


エマは「失礼いたします」と一礼し、静かに部屋を出ていく。

その背中には、主への深い愛情が滲んでいた。


エリアスが入ってくると、朝の柔らかな陽射しが彼の姿を包み込んだ。

彼の手には、一つの箱が握られていた。


「これを」


開かれた箱の中には、一本の簪。


アイシュエット家に代々伝わる、氷の結晶のような美しい装身具だった。


「母上から預かった。代々、この家の当主の妻が身につけてきたものだそうだ」


レティシアは、その簪に静かに手を伸ばす。

寒冷の地で生まれた結晶のように、凛として、しかし儚げな輝きを放っている。



「エリアス」


「ああ」


二人の指が、そっと重なる。


「本当の意味で、夫婦になるんだな」


エリアスの声には、新しい感情が混じっていた。

それは、彼女を受け入れることを頑なに拒んでいた頃からは、想像もできないような柔らかさだった。


「そうね」


レティシアは、窓の外を見やる。領地には、確かな実りが広がっている。

それは神の祝福だけでなく、二人で築き上げてきた信頼の証でもあった。


「レティシア」


エリアスが、彼女の名を呼ぶ。その声には、もう迷いはない。


「俺は...君と出会えて」


「分かってるわ」


レティシアは柔らかく微笑んだ。言葉にしなくても、二人の心は既に通じ合っていた。



部屋の中に、朝の光が満ちていく。

その温かさは、まるで二人の新しい人生を祝福するかのようだった。


窓辺に立つ二人の影が、一つに重なっていく。



それは、もう二度と離れることのない、確かな絆の象徴だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ