表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/52

覚悟

「この領地を、お前たちに託したい」


エドヴァルドの声は、静かながらも力強かった。


「父上...」


「エリアス」侯爵は息子をまっすぐに見つめる。「お前は十分に成長した。領主としての資質も、戦士としての誇りも、どちらも立派なものだ」


月光が窓から差し込み、エリアスの横顔を照らす。その表情には、かつての迷いは微塵も残っていない。


「そして、レティシア」


エドヴァルドは、嫁である彼女にも温かな眼差しを向けた。


「あなたの存在は、この領地に、そしてエリアスに、大きな変化をもたらした。セシリアの娘を迎えられたことを、心から喜ばしく思う」


「エドヴァルド様...」


レティシアの瞳が、僅かに潤む。


「さらに、もう一つ」


侯爵は、机の上の古い書物に手を置いた。


「お前たちの正式な結婚式を執り行いたい。皇帝陛下の後ろ盾を得た今こそ、領地の繁栄と共に、祝福すべき時だと思うのだが」


その言葉に、エリアスとレティシアは思わず顔を見合わせる。二人の間に流れる空気が、確かに変わった。


「父上、それは」


「もちろん、私からの命令ではない」エドヴァルドは優しく微笑む。「お前たち二人の意思を尊重したい」


暖炉の炎が、ゆらりと揺れる。その光が、三人の影を壁に映し出していた。


「レティシア」


エリアスが、彼女に向き直る。その瞳には、これまでにない柔らかな色が宿っていた。


「私は...」


レティシアの返答を、エドヴァルドは静かに見守っていた。この時が、新しい時代の始まりとなることを、彼は確信していた。


「私は...」


レティシアの言葉が、書斎の静けさに溶け込むように響く。


「この領地に嫁いできた時から、ずっと心に決めていたことがあります」


月光に照らされた彼女の横顔は、凛としながらも柔らかな表情を浮かべていた。


「それは、この地とここに生きる人々のために、私の全てを捧げるということ」


「レティシア...」


エリアスの声が、感情を押し殺すように低く響く。


「私も同じだ」


彼は暖炉の炎を見つめながら、静かに言葉を紡ぐ。


「最初は、君の存在を疎ましく思った。俺の人生を、勝手に変えてしまうような存在だと」


その告白に、レティシアは小さく目を伏せる。しかし、エリアスの次の言葉が、彼女の心を強く揺さぶった。


「でも、君は違った。俺に本当の強さを教えてくれた。この領地を守る、本当の意味を教えてくれた」


エドヴァルドは、息子の言葉に深く頷く。かつて騎士の道一筋だった息子が、確かな領主としての覚悟を持つまでに成長した。それは、紛れもなくレティシアの存在があってこそだった。


「式を執り行わせてください」


エリアスが父に向かって頭を下げる。


「俺たちの誓いを、みんなの前で」


「ええ」レティシアも柔らかな微笑みを浮かべる。「この領地と、私たちの未来に向けて」


月が雲間から姿を現し、その光が二人を祝福するかのように包み込んでいく。暖炉の炎も、いつもより明るく燃えているように見えた。


「よかろう」


エドヴァルドは立ち上がり、窓辺へと歩み寄る。領地の夜景が、静かに広がっていた。


「来月の満月の日に──」


その言葉は、急を告げる足音によって遮られた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ