試練の予兆
「レティシア」
「ええ」
レティシアは既に次の一手を考えているような表情だった。
「正式な謁見は、明日の正午に設定してください」
レティシアの声は冷静そのものだった。
「ええ、ですが...」ルーカスが躊躇う。「両国の使節は直ちにとの要求を」
「焦る者こそ、弱みを抱えているものよ」
彼女は窓辺からゆっくりと執務机へと歩み寄る。夏の日差しが、その凛とした横顔を照らしていた。
「明日まで待てないほど切迫した要求とは、きっと理不尽なものでしょうね」
「君なりの読みがあるのか?」
エリアスが問いかける。かつての彼なら、即座に使節を迎え入れ、剣を手に対峙しようとしただろう。
しかし今は違う。レティシアの冷静な判断を、彼は信頼していた。
「ええ。フェリエ王国の現状を考えれば...」
彼女は机の上の報告書に目を落とす。
「早急な対応を迫るのは、おそらく食糧難への焦りでしょう。神の祝福を失った土地は、もはや十分な収穫を望めない」
「それで、俺たちの領地を」
「狙っているのは、この土地そのものではないわ」
レティシアは地図の上に手を置く。
「彼らが欲しいのは、私がもたらす神の祝福。そして、あなたが築き上げた防衛体制」
その言葉に、エリアスの表情が引き締まる。
確かに、この半年で領地の守りは強化された。
彼の指揮の下、騎士団は精鋭へと成長し、民兵組織も整備された。
「しかし、二国が同時に攻めてきた場合は...」
「武力での対決は、最後の手段よ」
レティシアが静かに告げる。その瞳には、確かな策が宿っていた。
「まずは、アムレアン皇国への使者を。エドヴァルド様にも相談しなければ」
「ああ」エリアスも頷く。「父上なら、きっと...」
その時、城門からの警鐘が鳴り響いた。
「若様!」
駆け込んできた騎士の声には、切迫した色が混じっている。
「アスタルン公国の軍勢が、北方領境に集結を始めたとの報告が!」
エリアスとレティシアは、一瞬、視線を交わす。
「準備を」
エリアスの声が、凛と響く。
「ですが、明日の謁見は?」
「予定通り」レティシアが告げる。「むしろ、これは好機かもしれない」
窓の外では、夏の陽が眩しく輝いていた。
その光は、まるで二人の決意を照らし出すかのようだった。
試練は、確実に近づいていた。
しかし、二人の心は揺るがない。
それは、互いを信じ、この領地を守るという、固い決意に支えられていた。
第5章始まりました。
前話が短かったので、もう1話更新しました。
私は明日から仕事です…さよなら、お正月休み…。
今年も仕事も書くのも頑張ります。




