レティシアの采配
「無事でしたか、若様」
駆けつけた騎士の一人が、エリアスに駆け寄る。その背後には、レティシアが派遣した救援隊の姿があった。
「...君が送ったのか」
エリアスは、遠くに佇むレティシアの姿を見つける。彼女は丘の上から、静かにこちらを見守っていた。
「私も、あなたのことを知っているつもりよ」
近づいてきたレティシアの声には、非難の色はない。
「あなたが単独で動くことは分かっていた。だから、準備をしていただけ」
朝日が昇り始め、霧が晴れていく。その光の中で、エリアスは初めて気づいたように周囲を見回した。丘の上には弓兵が配置され、谷の出口には伏兵が待機している。完璧な包囲網が、既に張り巡らされていたのだ。
「見事な采配だな」
エリアスの声には、僅かな悔しさと共に、確かな感謝の色が混じっていた。朝靄の中、レティシアの姿が一層凛として見える。
「でも、あなたの作戦がなければ、これほど見事な罠には引っかからなかったでしょう」
レティシアは小さく微笑んだ。エリアスの単独行動を見越して準備していたとはいえ、彼の剣術があってこその勝利だった。
捕らえられた密偵の一人が、地面に膝をつく。その黒装束の隙間から、アスタルン公国の紋章が覗いている。
「若様」
騎士団長が駆け寄ってきた。
「密偵たちの持ち物から、これが」
差し出された羊皮紙には、鉱山周辺の詳細な地図が描かれていた。
さらに、領地の防衛体制や、新たに開墾された農地の場所まで、克明に記されている。




