密偵
夜明け前の薄闇が、鉱山地帯を覆っていた。
霧が立ち込める谷間を、一人の騎士が馬を進めている。エリアスは夜具を身にまとい、腰の剣を握り締めながら、慎重に周囲を探っていた。
「ここか...」
彼は馬を止め、昨夜の密偵たちの足跡を確認する。露に濡れた地面には、確かな痕跡が残されていた。複数の足跡、倒された下草、そして──。
「待ち伏せか」
木々の陰から、黒装束の影が次々と姿を現す。エリアスは静かに馬から降り、剣を構えた。
「さすがアイシュエット家の若様、ご自分で来られるとは」
黒装束の一人が、嘲るような声を上げる。その周りには、既に五人の仲間が配置についていた。
「アスタルン公国の犬め」
エリアスの声は低く、冷たかった。朝靄の中、彼の剣が青白い光を放つ。
「この領地から出ていけ」
「出ていく?」別の男が笑う。「この地は元々我らのものだ。取り戻すだけよ」
密偵たちが、ゆっくりと包囲網を狭めてくる。
露に濡れた草を踏む音が、不吉に響く。
その時、エリアスの耳に馴染みのない音が届いた。振り向こうとした瞬間──。
「若様、伏せて!」
矢が風を切る音と共に、エリアスの背後に潜んでいた第六の刺客が倒れる。
続いて、騎士団の雄叫びが谷間に響き渡った。
「なっ!」
密偵たちが動揺する中、エリアスの剣が閃光のように走る。
彼の一撃は見事に的中し、二人の敵を一気に倒す。
残りの密偵たちは、援軍の到着を見て素早く姿を消した。




