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新たな敵

「待って」


レティシアの声が、夕暮れの執務室に響く。

暖炉の炎が揺らめき、その光が彼女の凛とした横顔を照らしていた。


「まずは彼らの意図を探る必要があるわ。無闇に剣を抜けば、挑発に乗ったことになる」


窓の外では、夕焼けが山々を赤く染め上げている。

その光景は美しくも、どこか不穏な予感を漂わせていた。



「いつまでも話し合いで解決できると思うな」


エリアスの声が強ばる。彼の手は無意識に腰の剣に触れ、その指が鞘を握りしめている。



「あいつらは、俺たちの領地を狙っているんだぞ」


部屋の空気が、一瞬で張り詰めた。暖炉の炎が不吉な影を壁に落とす。


「だからこそ、冷静に準備を整えるべきだと言っているの」


レティシアは落ち着いた声で諭す。

彼女の手元の地図には、密偵たちの動きを分析した細かな書き込みが散りばめられていた。

そこには明確な意図が見て取れる──彼らは単なる偵察以上の何かを企んでいた。



「俺には、剣しかない」


エリアスの言葉には、かつての迷いとは違う、何か切実な響きがあった。


「それは違う」


レティシアは地図から顔を上げ、真摯な眼差しでエリアスを見つめた。夕陽に照らされた彼女の瞳には、確かな信頼の色が宿っている。


「あなたには、守るべき人々がいる。だからこそ、慎重に──」


その時、廊下を駆ける足音が響き、新たな使者が扉を開けた。

その息は上がり、手には皇都の紋章が押された文書が握られていた。


「皇都からの通達です!」


緊急を告げる赤い封蝋が、夕陽に血のように輝いている。

開かれた文書には、アイシュエット領地と国境を挟んだ隣国であるアスタルン公国への警戒を促す厳しい文面が並んでいた。


さらに、彼らが「鉱山付近の土地は本来自国のものだ」と主張し始めているという報告も。


「なんてこと」


鉱山責任者の声が虚ろに響く。その表情には、深い絶望の色が浮かんでいた。


「あの地は、代々うちの領地なのに」


エリアスの拳が震える。その手に力が籠もり、爪が掌に食い込むほどだった。

かつての彼なら、すぐにでも剣を抜いていただろう。しかし今は──。


「レティシア」


夕闇が部屋を包み始める中、彼の声が低く響いた。


「ええ」


彼女は既に次の一手を考えているような表情で、新たな印を地図に記していた。


「私にも策はあるわ。でも、そのためには...」


その言葉の途中で、エリアスは重い足取りで部屋を出ていった。

その背中には、明らかな焦りと苛立ちが滲んでいる。残された夕陽が、彼の影を廊下に長く引き伸ばしていた。


「エリアス様が...」


鉱山責任者が心配そうに呟く。


しかし、レティシアは静かに目を閉じた。暖炉の炎だけが、今や部屋の中で唯一の光源となっていた。


「大丈夫。彼なりの答えを、見つけようとしているのよ」


窓の外では、春の風が冷たく吹き抜けていた。

木々のざわめきが、この領地に訪れようとしている試練を予感させるかのように響いている。



一日の終わりを告げる鐘の音が、遠くから悲しげに鳴り響いていた。


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