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第4章:忍び寄る影と立ち向かう者たち

春の柔らかな日差しが、アイシュエット侯爵領の大地を優しく包み込んでいた。


丘の斜面には寒さに負けないライ麦の穂が一面に広がり、新芽の緑が風に揺れている。

山間の鉱山からは良質な鉱石が次々と運び出され、職人たちの活気ある声が谷間に響く。


街の通りには温かな春の陽気に誘われるように、色とりどりの毛織物が軒先を彩っていた。




しかし、その平穏な日常に、最初の影が忍び寄ったのは、ある鉱夫の報告からだった。


「若様、また不審な者たちが」


夕暮れ時のエリアスの執務室に、鉱山の責任者が青ざめた顔で駆け込んできた。

その額には冷や汗が滲み、作業着には泥が付着している。慌てて駆けつけたのだろう。


「今度は何人だ」


エリアスは手元の書類から顔を上げる。窓から差し込む夕陽が、彼の横顔を赤く染めていた。


「五、六人ほどかと。黒装束で、明らかに...」


鉱夫の声が震える。その手には、引き裂かれた地図のような紙切れが握られていた。


「アスタルン公国の密偵ですね」


暖炉の傍らで地図を広げていたレティシアが、静かに口を開く。

彼女の手元には、これまでの不審者の出没地点を示す赤い印が散りばめられた地図があった。その印は、まるで領地を蝕む血の染みのように見える。


「ここ一月で、出没地域が広がっています」


レティシアの指が地図の上を這うように動く。北部の鉱山地帯を中心に、赤い印が放射状に広がっていた。エリアスは眉を寄せながら、その地図に見入る。


陽の光を受けた彼の瞳には、明らかな焦りの色が宿っていた。


「若様」


鉱山責任者が声を震わせる。その表情には、長年この地で働いてきた者特有の愛着と不安が混ざっている。


「作業員たちも不安がっています。このままでは...」


窓の外では、帰路につく鉱夫たちの影が長く伸びていた。彼らの足取りは重く、普段の活気が感じられない。


「分かっている」


エリアスが立ち上がる。椅子が軋むような音を立て、その音が静かな執務室に響く。


「俺が前線で状況を確認してくる」



夕陽に照らされた彼の背中には、若き領主としての使命感と、剣術家としての意地が滲んでいた。


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