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フレデリック視点:見下す者と見上げる者

フェリエ王宮の広間では、騒がしい足音と怒声が飛び交っていた。

侍従や官吏たちが慌ただしく行き交い、その顔には焦りの色が浮かんでいる。


「王太子殿下、こちらの書類ですが、まだ承認いただいておりません!」

「税収の報告が未完了です! このままでは……」


耳に入るのは問題ばかり。フレデリックはその声を無視し、重たげに椅子に腰掛けた。


「全員、黙れ。」

そう言い放った彼の声には、普段の威厳もなく、ただ苛立ちが滲んでいた。



以前であれば、このような混乱は起こらなかった。


いや、正確には「レティシアがいた頃」は起こらなかった。彼女が担当していた業務は完璧だった。

経済、外交、税務――それらすべてを彼女は一手に引き受け、王宮が円滑に機能するよう支えていたのだ。



しかし、彼女が去ってからというもの、王宮内の機能は次第に崩壊しつつあった。

彼女の仕事を引き継いだ者たちは、その膨大な業務量に耐えきれず、次々と失敗を重ねていた。


税収報告は滞り、外交交渉は失敗し、国民の不満が日に日に高まっている。


フレデリックはその現実を受け入れることができなかった。


「俺が王太子だ。俺の命令があれば、誰だって仕事をこなせるはずだ。」

そう自分に言い聞かせていたが、内心では分かっていた。

彼女のように物事を完璧にこなせる者などいないのだ。



それを最も強く実感させたのが、新たな婚約者であるマリエット・バルビエだった。


彼女は確かに愛らしく、華やかだった。


フレデリックの隣に立つ彼女を見れば、誰もが「お似合いだ」と称賛した。だが、実務面では話が別だった。


「マリエット、この書類に目を通しておいてくれ。」

彼がそう頼んだとき、彼女は愛嬌たっぷりに笑いながら答えた。


「もちろんよ、殿下。私に任せて!」

しかし、数日後に戻ってきた書類には、致命的な誤りがいくつもあった。

外交文書の名前を間違える、収支報告に数字を書き忘れる――ミスの数々に、官吏たちも頭を抱える始末だ。


「マリエット、どうしてこんなミスをした?」

問い詰めるフレデリックに、彼女は頬を膨らませて答えた。


「だって、私には難しすぎるわ! こういうのって、レティシアさんが得意だったんじゃないの?」

その言葉に、フレデリックは言い返すことができなかった。


「どうして俺がこんなことに……」

王宮の玉座に座りながら、フレデリックは思わず呟いた。


本来なら、彼の仕事を支える者たちがいれば、彼は王太子として威厳を保ちながら安定した政治を行えるはずだった。


だが、現実は違う。

レティシアがいなくなったことで、その均衡が崩れてしまったのだ。



侍従がそっと近寄ってきた。


「殿下、提案がございます。」

フレデリックは顔を上げ、鬱陶しそうに尋ねた。


「何だ?」

「レティシア殿を呼び戻し、再び王宮で働いていただくのはいかがでしょうか。」

その提案に、フレデリックは目を見開いた。


「ふざけるな! あの女はもう異国に嫁いだのだ!」

だが、その反応とは裏腹に、フレデリックの心にはほんの少しの安堵が生まれた。


それは、もし彼女が戻ってきたら、自分が再び彼女の影に隠れる恐怖と、彼女が戻ることで国の混乱が収まるかもしれないという期待が交錯したものだった。



「殿下、現在の状況を打開するには、レティシア殿の力が必要不可欠です。」

侍従は静かに言葉を重ねた。

フレデリックは苦い顔をしながら渋々頷いた。


「分かった。ただし、あの女が俺に従う立場であることを忘れさせるな。」

こうして、フレデリックはアムレアン皇国に使者を送り出した。


彼の中には、「彼女が戻ってくるはずがない」という予感と、「もし戻ってきたら」という期待が入り混じっていた。



そのどちらであったとしても、フレデリックはそれを素直に受け止めることはできなかった。


明日から第4章が始まります。

よろしくお願いします。

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