新しい時代の始まり
勝利の余韻が残る城門前に、フェリエ王国の使者が再び姿を現した。
「貴様ら、王太子様の命に背くとは」
使者の声は怒りに震えている。
しかし、その傲慢な態度は、魔物との戦いを経た人々の前では、むしろ滑稽に映った。
「レティシア・デ・オリバス」
彼はレティシアの名を吐き捨てるように呼ぶ。旧姓で呼ぶのはわざとだろうか。
「王太子様より、お前をフェリエ王国へ連れ戻せとの命が下った」
その言葉に、エリアスが一歩前に出る。
しかし、レティシアが静かに手を上げて制した。
「私を、連れ戻す?」
彼女の声には冷たい笑みが混じっていた。
「王太子様は仰せです。お前のような者に、自由な行動は許されない。今すぐにでも戻り、新しい王太子妃を支える立場に──」
「お前たちは何も分かっていない」
レティシアの声が、凛として響く。
今や彼女の姿には、七年前のような影は見られない。
そこにあるのは、確かな力と誇りを持つ一人の女性の姿だった。
「アイシュエットは、フェリエ王国の支配を受ける場所ではない。これ以上の干渉は許さない」
「無礼な!」使者が声を荒げる。「貴様一人の判断で──」
「彼女の言葉は、我が家の総意だ」
エリアスが、レティシアの隣に並ぶ。その姿には、もはや迷いは微塵もない。
「この領地は、俺たちの手で守る。フェリエ王国にも、お前たちにも、介入する権利はない」
使者の顔が、みるみる青ざめていく。
「王太子様に、この無礼を──」
「伝えなさい」レティシアが凛と告げる。
「私は、もう二度とフェリエ王国には戻らない。そして、アイシュエットは、フェリエ王国の意向など気にも留めないと」
「さあ、お帰りください」エリアスが剣に手を掛ける。「次にこのような命令を携えて現れれば、ただでは済まないぞ」
使者は、唇を震わせながら馬に跨がった。その背中には、明らかな敗北の色が浮かんでいる。
立ち去る使者を見送りながら、エリアスが小さく呟いた。
「...君の言った通りだった」
「え?」
「自分の望みを知ること。それが、本当の強さなんだと」
レティシアは静かに微笑んだ。
「あなたは、ずっと分かっていたはずよ。本当の強さが何なのか」
「ああ」エリアスも小さく頷く。「剣一筋では、何も守れない。でも、この剣と...」
彼はレティシアの方を見つめた。
「君の知恵があれば、この領地も、そこに住む人々も、きっと守っていける」
「エリアス...」
「感謝の言葉だけじゃ、足りないよな」
彼の言葉に、レティシアは柔らかな笑みを浮かべた。
「ええ。まだまだ、たくさんの課題が待っているわ」
二人の背後では、城下町の人々が日常の営みを取り戻し始めていた。
魔物との戦いを経て、彼らの表情にはこれまでにない活気が宿っている。
「さて」レティシアが歩き出す。「今日も、たくさんの仕事が待っているわ」
「ああ」
エリアスも並んで歩き始めた。二人の影が重なり、やがて一つになっていく。
それは、新しい時代の始まりを告げるかのようだった。
第3章が終わりました。
明日はフレデリック視点のお話です。




