戦い
渓谷を覆う朝霧の中、巨大な魔物の姿が浮かび上がった。
人の形を模しながらも、その姿は明らかに異形だった。
巨大な角と鱗に覆われた体躯。
赤く輝く瞳は、まるで人間の持つ理性そのものを否定するかのように妖しく光っている。
「やはり、ここにいたのね」
崖上から状況を見下ろしながら、レティシアは静かに呟いた。彼女の隣でエリアスが剣を構える。
「あれが首領か」
「ええ。周囲の魔物たちの動きを見れば明らかよ」
確かに、小さな魔物たちは巨大な魔物を中心に、まるで歯車のように規則正しく動いていた。
「弱点は──」
「首の後ろ」レティシアが即座に答える。「鱗の隙間に、柔らかい部分がある」
エリアスは無言で頷いた。しかし、その表情には確かな決意が浮かんでいる。もう、躊躇いは微塵もない。
「聞いてくれ!」
エリアスが騎士たちの前で声を上げる。
「俺が首領の注意を引く。その隙に、弱点を──」
「その作戦は危険すぎるわ」
レティシアが遮る。その声には、これまでにない切迫感が混じっていた。
「でも、他に方法が」
「ある」レティシアは地面に簡単な図を描き始めた。「魔物には必ず盲点がある。それを利用すれば...」
エリアスは黙って彼女の説明に聞き入る。その表情が、次第に明るくなっていく。
「なるほど、これなら...」
「ええ。あなたの剣の力も、無駄にはならない」
二人の視線が重なる。そこには、確かな信頼が宿っていた。




