警鐘と一体感
「エリアス」
侯爵が、息子に目を向ける。
「お前の意見は?」
静寂が応接間を支配する。
エリアスは僅かに唇を噛んでから、ゆっくりと口を開いた。
「王太子に従えば、面倒は減るでしょう」
その言葉には、どこか諦めのような響きがあった。レティシアは静かにエリアスを見つめる。
「決めるのは、あなたよ」
「え?」
「従うかどうかは、この領地の当主となるあなたが決めることです」
レティシアの声は、凛として響いた。
「私にできるのは、ただあなたの決断を支えることだけ」
エリアスの瞳が、かすかに揺れる。
レティシアの言葉は、まるで剣の刃のように彼の心を射抜いていった。
「貴様ら、王太子様の寛大なご配慮を──」
使者の声を遮るように、突如として警鐘が鳴り響いた。
「魔物の群れが接近!」
「北の防衛線が破られました!」
城門からの叫び声が、切迫した響きを帯びている。
エリアスが立ち上がる。その目には、もはや迷いはなかった。
「父上、俺に指揮権を」
「エリアス?」
「この領地は、俺たちの手で守る」
その声には、確かな決意が宿っていた。
レティシアは小さく微笑む。エリアスの選択は、彼女の期待した通りのものだった。
「では、私は後方支援を担当するわ」
レティシアも立ち上がる。二人の視線が交差する瞬間、そこには不思議な一体感が生まれていた。
「待ちなさい!王太子様の──」
使者の声も、もはや誰の耳にも届かない。
城の中を駆け抜けながら、エリアスは不意にレティシアを振り返った。
「...ありがとう」
その一言に、これまでにない温かさが混じっていた。レティシアは静かに頷く。
二人の新たな戦いが、今まさに始まろうとしていた。




