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アレクサンドラ視点:二人を見守る眼差し

厳しい北の風が屋敷の窓を揺らしている。雪の季節が迫るこの時期は、領内が最も忙しくなる時期でもあった。冬を迎える準備を整えるため、領民たちは朝から晩まで働き詰めだ。


アレクサンドラ・アイシュエットもまた、この季節特有の緊張感を感じつつ、邸内での仕事に追われていた。


しかし、彼女が最も気にかけていたのは、息子エリアスと新しく迎えた義娘レティシアだった。



義娘を迎える話が決まったとき、アレクサンドラは心の底から喜んだ。幼馴染のセシリアから連絡があった時のことを今でも鮮明に覚えている。


「フェリエ王国に忍ばせてる影から連絡があって、レティシアが婚約破棄されるらしいの。それも、とんでもない理由で。」

セシリアの声は静かだったが、その中には抑えきれない怒りが滲んでいた。


「それでどうするの?」

「受け入れてもらえるなら…レティシアをそちらに嫁がせたいの。アレクサンドラ、以前話したことを覚えているでしょう?」


もちろん覚えている。二人が若い頃、もし自分たちの子供が年頃になり、それぞれにふさわしい相手を探しているなら、結婚させようと冗談めかして語り合ったあの日のことを。


「喜んで迎えるわ。」

アレクサンドラは即答した。何より、セシリアの娘がどんな状況にあろうと、彼女は温かく迎えたいと思ったのだ。



レティシアは想像以上に落ち着いた女性だった。アレクサンドラが初めて彼女と会ったとき、義娘の澄んだ瞳と穏やかな声が、どこか特別な雰囲気を放っていることに気づいた。


「お母様、どうかよろしくお願いします。」

その一言に、アレクサンドラは彼女の芯の強さを感じた。フェリエ王国でどれほど辛い経験をしてきたのかは直接聞かされていなかったが、その冷静な態度がそれを物語っていた。



問題はエリアスだった。

彼は幼い頃から剣術にばかり打ち込み、領主としての務めにはどうしても向いていないと感じているようだった。領地の経営に必要な知識を教えても、彼の興味はすぐに別の方向へ向いてしまう。

それを叱るたび、アレクサンドラは心の中でため息をついた。


「エリアス、あなたはこの土地を守るべき立場にあるのよ。」


「俺には向いていないんだ。エーリクに継がせればいい。」


その一言がどれほど彼女の心を傷つけたか、エリアスは気づいていないのだろう。



レティシアを迎えてから数週間が経った。彼女は領地の経営状況をすぐに把握し、領民たちに信頼される存在となった。一方で、エリアスの態度は冷たく、彼女に心を開く様子はなかった。



ある日、アレクサンドラは息子を図書室に呼び出した。そこには、義娘がまとめた領地の改革案が整然と並んでいた。


「これを見て、どう思う?」

「……すごいと思う。でも、俺にはできない。」

彼の返答に、アレクサンドラは静かに問い返した。


「あなたは、自分がこの土地にとって必要な存在だと思わないの?」

エリアスは少しの間黙り込んだ後、視線を逸らした。


「分からない……俺は剣を振るうことでしか、自分の存在意義を感じられないんだ。」

アレクサンドラはその言葉を聞き、胸が締め付けられるような思いを感じた。



その夜、アレクサンドラはレティシアの部屋を訪れた。彼女は書類を整理している最中だったが、アレクサンドラが入ると手を止めて席を立った。


「お母様、どうされましたか?」

その言葉に、アレクサンドラは少し微笑みながら答えた。


「あなたと話がしたかったのよ。」

レティシアがうなずくと、彼女は椅子を勧め、その隣に座った。


「エリアスは、あなたをどう思っていると思う?」


唐突な質問に、レティシアは少し考えてから答えた。


「彼は私を迷惑だと思っているのでしょう。」

その答えに、アレクサンドラは静かに首を振った。


「いいえ、あの子はただ、自分があなたのように優れた人間になれないと思い込んでいるの。」

レティシアは少し目を見開いたが、それ以上何も言わなかった。



「あなたの力を信じているわ。そして、きっとエリアスも、あなたと共に成長していけるはず。」



アレクサンドラは、夜の静寂の中で一人窓の外を見つめた。

義娘と息子の未来を思いながら、彼女はそっと祈る。



「二人が、この土地で幸せを築けますように。」



その祈りが届くことを信じながら、アレクサンドラの夜は更けていった。


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