決意
馬車が次の村を通り過ぎる。そこでも同じように、厳しい生活を強いられている人々の姿があった。しかし、レティシアの目には、それ以上のものが見えていた。
「この土地には可能性がある」
彼女は茶を一口すすりながら続けた。
「寒さに強い作物を育てることもできる。私の記憶には、そういった農法の知識もあるわ」
「お嬢様...」
エマは感動的な面持ちで主を見つめていた。フェリエ王国では、レティシアの才能は王太子のために使われるだけだった。しかし、ここでは違う。彼女の能力を、真に必要としている人々のために使うことができる。
「ここには神の恩寵もあるのよ」
レティシアは小さく微笑んだ。彼女には数多の人生の記憶以外にも特別な力があった。神に愛された魂は、その住まう土地に豊かさをもたらすのだ。
「私が暮らす場所には、自然災害も少なく、実りも豊かになる。この厳しい土地でも、きっと...」
その言葉は、単なる夢物語ではなかった。レティシアには、それを実現できる知識と力があった。
「七年間、フェリエ王国の発展だけを考えて生きてきた」
彼女は遠くを見つめながら続けた。
「それは疑うことなく受け入れた使命だった。でも今は違う」
馬車は次の村に差し掛かっていた。そこでも、貧しくも懸命に生きる人々の姿が見える。
「この地で暮らす人々に、新しい可能性を作る」
レティシアは小さく呟いた。
「それが、私の次の使命になるかもしれない」
エマは黙って頷いた。この決意は、きっと本物だ。
フェリエ王国で虚しく過ごした日々と違い、ここでなら本当に人々の役に立てる。
「私も、お嬢様のお力になれることを嬉しく思います」
その言葉に、レティシアは穏やかな笑みを浮かべた。
「ありがとう、エマ。あなたがいてくれて、本当に心強いわ」
雪は静かに降り続いていた。
厳しい気候は、まだまだ続くだろう。しかし、レティシアの心は確かな希望に満ちていた。
これまでの人生で得た全ての知識と力を使って、この地の人々を救う。
それは、彼女が自分で選んだ、本当の使命となるはずだった。
馬車は、新しい未来へと走り続けていた。




