04 支援
――ギィィン!!
だが、ルームの放った円盤は大きな音を出してはじかれる。
アイネが後ろを振り向くと……。
「間に合って良かった……後で説教だ」
肩で息をして、二丁の銃を構えるカイが立っていた。その鋭い視線はルームの方へ向けられる。
「ナイスナイス。いいねぇ、カイ」
「油断するなよ。敵は強い」
相手が増えたのを見て、ルームは不機嫌そうな表情を浮かべる。同時に宙を舞う円盤の数が増し、空を斬り裂く耳障りな音が大きくなった。
「せっかく久々に骨のありそうなやつだったのに……二人がかりなんて卑怯にゃよ」
「任務は何があっても遂行する。それがこちらの仕事だからな」
もともと期待はしていなかったが、カイが引き下がらないのを確認すると「はいはい」と戦闘態勢に戻るルーム。
「じゃ、本気で行かせてもらうにゃ。そーれっ」
だいぶ気の抜けた掛け声と同時に、周囲を飛び交っていた円盤が軌道を変え、アイネたちを狙ってくる。
アイネが刀で円盤を弾き飛ばし、カイは銃弾がもったいないからと銃身だけで攻撃を逸らした。
「けど……なかなか面倒な円盤だな、こりゃ。グッド・グリーフ!」
円盤をタイミングよくはじいたのと同時に、アイネはその場からばっと飛び出してルームへ迫った。
「くらえっ!」
「甘いにゃ!」
パシュン、という、機械の電源が落ちた時のようなサウンドが鳴る。すると、ルームとの距離が一メートルもなかったはずのアイネはいつの間にか部屋の奥にまで追いやられていた。
跳びかかる二つの円盤をかわすと、バランスを崩してそのまま倒れこむ。
受け身をうまく取れたためダメージはなく、再びルームへ向かって突っ込んで行った。
「止めろ! 作戦なしに突っ込んでも意味がない!」
「そうにゃよー、無駄にゃよ。体力がなくなるだけにゃよー?」
再度斬りかかるも、当然防がれる。二度も失敗したので、アイネもいい加減無駄な突撃はやめようと思いなおした。
「じゃあ、カイに何か作戦があるのか?」
「ほら、紐をやる。うまく使え」
円盤を躱す中で手早くアイネの左手首に革ひもを結ぶカイ。
「お前は下がっていろ。説明も面倒だ」
「は。俺の方が強いし」
「お前の脳では無理だ」
カイは自分の左手首にも紐を括り付けると、アイネを後ろの方に突き飛ばした。カイには、どうやら作戦があるらしい。
それならまあ、としぶしぶ後ろで待機するアイネ。
「なにかひらめいたのかにゃー? 所詮馬鹿共の浅知恵だろうけどにゃ!」
「甘く見るなよ。馬鹿は馬鹿でも噛む歯はあるんだ」
――バンッ!
同時に三方向に放たれた銀色の弾丸は、ルームの方へ飛んでいく。
「だから無駄って言ったにゃ!」
「それはどうかな」
カイが左手を大きく振ることで、その紐が括り付けられているアイネが吹っ飛ばされる。そして弾丸が消え去り――
「うぉわぁーっ!?」
かわりに、アイネが現れた。
ルームが再び能力を行使する暇もなく、アイネがとっさに目の前の標的を斬りつける。ネコミミヘッドホンが真っ二つに破損し、そのまま彼女の左目を斬り裂いた。
「ぐぅっ――!」
「今回は歯で噛む必要もなかったがな」
カイが真後ろに発砲すると、ちょうど背後から飛んできていた先ほどの弾丸と見事に接触し、力が相殺されて地へ落ちる。
ルームの能力は『空間を移し替える能力』。文字通り、別の空間と対象の空間を入れ替えるだけ――つまり、入れ替え先にアイネがいれば奇襲を仕掛けることができた。
残った右目でアイネを睨みつけると、痛みをこらえつつ能力を発動し、ルームはどこかへ消えてしまった。
「さて、じゃあどこかの部屋に大統領がいるわけだな」
「ここだ。突撃するぞ」
カイが一番奥の扉を開け放つ。
ふたりは同時に、その部屋へ飛び込んだ。