03 警護
「カウラ。なんだ、お前の能力は?」
アイネがそう尋ねると、カウラは「はっ」と馬鹿にしたように笑った。
「そう簡単に手の内を明かすとでも思ったかい? だが、すぐにわかるさ……じゃあ、始めようか」
カウラが言い終わる瞬間にアイネは駆け出す。圧倒的な速度で、桃色の剣をカウラに叩き込んだ。
はずだった。
「遅い遅い……人間が意識して取る行動は、無意識で取る行動には追い付けないのさ」
「……!」
いつの間にかそばに避け、余裕たっぷりの表情を浮かべているカウラ。人間では反応の仕様がない速度だったはずなのに、なぜ躱された……?
そう考えると、カウラ自身の話から真相に行きついた。
「脊髄反射……!」
「そう。この能力は脊髄反射を操る……。だから、脳を介することなく回避行動をとることができる。素晴らしい速度だったろう?」
これは厄介な相手になりそうだ……。
ぺっと床に唾を吐き捨てたアイネは、諦めることなく再度斬りかかった。
飛び出した次の瞬間、零コンマ何秒よりはるかに短い間隔でひらりと横へ躱すカウラ。
「がぁっ!?」
しかも、アイネはまたもや腹部に強い衝撃を感じて吹っ飛ばされた。建物の柱に衝突し、バキッと嫌な音が鳴る。音源は柱か、それともアイネの肋骨か……。
「そう油断しなさんなよ。誰も、脊髄反射で取れる行動は回避だけとは言ってないだろう?」
そうか。脊髄反射で反撃まで行ったのか。
「はーっ。嫌な能力だ」
「それを見込まれて、ここにいるんでね。そっちから来ないなら、行くよッ!」
視界に黒い何かが映った瞬間、とっさに首を捻る。予想通りそれは拳銃で、一秒前までアイネの眉間があった場所を弾丸が貫いた。
「プロフェッショナルだな」
「あったりまえだよ!」
さらに飛んでくる弾丸を刀で斬り裂き、カウラへ迫る。
また脊髄反射で躱すカウラ。だが、今回は違った。
「っ!?」
その右腕に、アイネの刀が食い込んでいたのだ。痛みでカウラは手が痺れ、拳銃を取り落とす。
そして顔面を全力で蹴られ、壁へ衝突して崩れ落ちた。
「簡単な話だったな?」
アイネは苦しそうなカウラの顔面に刀を向ける。カウラは懐に仕込んでおいた別の武器を取り出そうとしたが、左頬を軽く斬り裂かれたため止めざるを得ない。
「脊髄反射で躱すのは毎回同じ方向に、同じ動作だった。パーフェクトにイコールだ……なら、それを予測して斬っておけば済む話だよな?」
「そんな方法……思い付きを、実戦で成功させたのは……お前さんが初めてだよ……」
パキッと小さな音がアイネの耳に届く。それと同時にカウラの体から力が抜け、ばたりと倒れてしまった。すぐに血の気が引き、顔が白くなっていく。
「自決か……これじゃ、隠し扉の場所は聞きだせないな」
死んでしまったカウラの代わりに、そのあたりにいた警備員のひとりを刀で脅して隠し扉の場所を聞き出す。
地下へ続く隠し扉は割とわかりやすい場所にあったが、警備員がそれを覆うように座っていたのでさっきは見つからなかったのだ。
中に入ってみると、意外にも中は豪華だった。まあ、大統領と大組織のトップが会談するのだから、当然と言えば当然だが。
長く続く廊下にはいくつもの扉があり、そのうちどれかで会合が行われているようだ。
「せいっ」
警備員二名の意識を刈り取り、耳を澄ませる。やはり盗聴には警戒しているようで、声は聞こえなかった。とりあえず、すべての扉を開けてみる。
「……チッ……また能力者か」
「そうにゃー。でも、どこかの部屋にはいるにゃよ?」
最も奥の扉を開けて現れたのは、ネコミミヘッドホンの美少女だ。
「ん……知ってるぞ。要注意人物って組織でなってた、ルーム・スクローディンゲル……能力は『空間を移し替える』能力だったかな」
「ほう、よく知ってるにゃね。その通り、ボスが会談している部屋は、ここのどこかにある。でも、そっちが閉じた扉の部屋に移し替えたからたどり着けなかったのにゃ」
「じゃあ、全部開ければいいってことだな?」
「やらせないけどにゃ!」
ルームが手を突き出すと同時にその背後にポータルが出現し、そこから弧を描いて鋭い円盤がふたつ飛び出してくる。
カウラとの戦闘で目が慣れていたアイネからすると、その円盤は遅い。難なく避けることができた。が……
「おわっ!?」
とっさにアイネが身を捻ったおかげで、突如現れたその円盤は服を斬るだけにとどまった。
「空間の移し替えにより、その円盤はどこからでも出現できるにゃ……今のは手加減してやったけど、次は躱させないからにゃ!」
そして次の瞬間、予告通り最初からアイネの目の前に円盤が出現した。