02 失敗
「逃げなくていいのか? 大統領」
ものの五分で、アイネは応援を含む全てのSPを斬り捨てた。だが、フィストは逃げも隠れもしないどころか愉快そうにアイネを見ている。
「本来ならばSPなど不要だったのだがな……。どうする? 殺せるかどうか、試すか?」
「もちろん!」
人間離れした速度で地を踏み込み、アイネはフィストの真横を通って斬りつける。アイネが踏み出した地面は、頑丈なアスファルトでできていたにも関わらず大きくへこんでいた。
しかし……。
「手ごたえがおかしいな。お前、何でできてる?」
「クク、気づかれたか……」
先ほどアイネが攻撃した腹部は、服に大きな切り傷が入っていた。だが、フィストがその切り傷の部分をめくってみると……
「ダイヤモンドで体を作っているのか。道理でなかなか斬れないわけだ」
「傷はつけられたがな……。いい刀と、いい能力を持っているな」
「そりゃどうも」
まだ能力の本気は出してないけどな。そう心の中で悪い笑みを浮かべるアイネ。
不意に、遠くから弾丸が飛んできた。
「ほう……」
その弾丸をフィストは素手で受け止め、粉砕してしまう。
予想通りの展開だなあとアイネはため息をついた。
「だから言ったろ、カイ。銃はダメだって」
そんなこと一言も言っていないのだが、アイネの中では自分が正しい人のようだった。
「それじゃあ続けるか」
「……残念だが……そろそろ、時間だ……」
「!」
建物の壁にかかっている時計を確認してみると、もう既に会合の時間になっていた。
「クソッ!」
再び地面を大きくゆがませてフィストへ斬りかかるが、それもダイヤモンド製に改造された体の前では大きなダメージを与えることは出来ない。
カイも相当焦っているようで、何発もの弾丸が飛んできたが、やはり意味はなかった。
「さらばだ、暗殺者よ……」
「がふっ!?」
突然みぞおちへフィストの蹴りが飛び込んでくる。鋼鉄製のハンマーで殴られたような、えげつない痛みと共にアイネは吹っ飛ばされた。
後には、ピクリとも動かない多数のSPと、アイネだけが残された。
任務、失敗である。
「ちっ……やはり、化け物だな……」
少し離れた場所で、アイネは栄養ドリンクを飲み干した。これは所属事務所の特製ドリンクで、体を非常に効率的に回復できるものだ。当然、市販のドリンクよりも圧倒的に副作用が大きい。
任務に失敗した件に関しては、カイはアイネを責めなかった。飛び出していったことに関しては多少ぐちぐちと言い続けたものの、あの異常な大統領の前では任務の失敗は当然だったのだろうとカイも思った。
「だけど、まだ会合は終わっちゃいない。すぐ行くぜ、ゴーゴー」
「あっ、おい!」
先ほどの蹴りのダメージがまだ残っていて、腹部が少し痛いが、アイネは会合の行われている建物に向かう。
侵入を阻止しようとした警備員を峰内で気絶させ、すばやく忍び込む。
「ふーむ」
会合の行われている建物の間取りは事前の調査資料で把握している。会合が実際にあるであろう大人数が入れる部屋は、二つに絞られた。
アイネがその一つに向かったが、そこに人はいない。
「もうひとつか……」
だが、もう一つの部屋にも人はいなかった。それどころかどの部屋にもフィストたちはおらず、せいぜいが警備員数名だけだ。
「……!?」
おかしい。先ほど、間違いなくフィストは建物へ入ったはずだ。それに、カイが前もって仕掛けておいたカメラにはフィストが出た姿は記録されていない。
つまり……。
「どこかに、隠し部屋がある……!」
「よく分かるじゃないか」
「!」
アイネが背後を向くと、そこには銀髪の女が立っていた。
「アイネ、お前さんも『能力者』らしいじゃないか。ここは同じ『能力者』の私、カウラがお前さんを食い止める」
「へっ……面白そうなやつが来たじゃねーか」
刀を構えなおし、次の瞬間に集中する。それと同時に、カウラの体からは猛獣のような激しいオーラが放たれたのだった。