好きなタイプ
「「あの」」
ミルクとアンの言葉がハモる。お互い真っ赤になって目を逸らす。
今は夕方前の一番お店にお客さんが少ない時間。窓側の席でコーヒーを嗜んでいたアンの所にミルクが近づいて来た。ここで会う事数回、二人はお互い聞きたかった事を切り出そうとした。
「アンちゃん、どうぞ、先に言って」
ミルクはパタパタと手を振る。
「いや、ミルクからいいよ」
二人はしばらく見つめ会う。アンはカップに口をつける。先にどうぞの合図だ。
(別に今は女の子同士だし、こういう話するのは自然なはず)
ミルクが先に口を開く。
「アンちゃんって彼氏いるの?」
「ぶぶっ!」
アンはなんとか口を押さえてコーヒーを飲み込む。
(俺に彼氏、あり得ないあり得ない。鳥肌めっちゃ立ったぞ)
「いやだな。私に彼氏なんかいる訳ないじゃない」
(やたっ! やた! やたっ!)
心の中でミルクはガッツポーズしまくる。
「えー、アンちゃん綺麗だし、私、絶対彼氏いるつって思ってたわ」
さらなる勇気を出してミルクは攻める。
「ねぇねぇ、じゃあ、好きなタイプは?」
アンはミルクと目が会って、鼓動が早くなる。
(好き、好きなタイプはお前だよって言いてー)
アンは喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「そうだな。好きなタイプは、明るくて、元気で、なんかフワッとしてて守りたくなるようなタイプかな。犬に例えるとマルチーズのような」
アンはミルクを見つめて言う。
(明るくてフワッと? なんかミルクみたいだな。僕の本体には擦りもしないや。僕はマルチーズっていうより、ヨークシャーテリアだよな。しかも目元隠れたじじむさいタイプの。聞かなければよかった……て言うかそれってどんな男の子? 年下? アンちゃんってショタ系好きなのか?)
つい、ミルクの顔は少し暗くなる。けど、彼氏が居なかったという事に安堵してまた笑顔に戻る。
アンはずっと聞けなかった事をミルクから同じ事を聞かれたから緊張せずに口に出す。
「そう言う、ミルクは彼氏居ないのか?」
「えっ?」
アンの言葉の意味が一瞬ミルクには分からない。
(彼氏? 無理無理無理、僕はあくまでも女の子の気持ちを知るためこんな格好してるだけで、女の子以外興味ないし)
「えー、私に彼氏なんている訳ないじゃない」
「ま、まじか? だってここでも、ミルク目当ての客多いだろ。可愛いからよく声かけられたりするんじゃないか?」
「ここじゃ、可愛い服装だからだよ。ここ意外じゃ全然そんな事無いわ」
「じゃ、好きなタイプは?」
ミルクは『それはあなたです!』って言葉を飲み込む。そして、アンを見つめる。
「んー、かっこ良くて凛とした感じの人かなぁ」
アンはひょっとすると、本体の自分に興味を持ってるかもと思って勇気を出して口にする。
「もしかして、アン、アントニー王子とか、ミルクのタイプなのか?」
「んー、王子様の事を悪く言う訳じゃないけど、それは無いわ。だって、いつもなんか何人もの女の子に囲まれてるから。ハーレムって言うのかな、一途そうじゃないの私は苦手」
アンの体に言葉の刃がグサグサと突き刺さる。今は不敬罪とか無いから、少しくらい王室の悪口を言っても問題は無い。
(くっそー、アイツらのせいか。ハーレムって訳じゃなくてアイツらが勝手に付いてきてんだよ)
アンは心の中でさめざめと涙を流す。しばらくしてアンは店を出る。お互いにどうにかして本体を相手にアピールしたいと頭を悩ませるのだった。
そして、その一部始終を離れた席からミルクの姉のカシスが変装して見守っていた。
「可愛い弟の新しい恋、あたしが全力で応援するわ」
カシスは拳を握りしめる。