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 メイドカフェ


「なんだこりゃ?」


 俺は倉庫の隅で古ぼけたネックレスを見つけた。それのチャームは記号の♂♀が絡んだ形をしている。ここにあるって事は何かの魔道具だろう。城内に有るって事は呪われたものじゃないな。試しに取り敢えず付けてみるか。


「うぐっ、うががががっ」


 苦痛に口から声が漏れる。まじか呪いの品だったのか? 心臓の鼓動が痛い程早い。


「ふぅーっ」


 すぐに落ち着くが、体がおかしい。なんか服がブカブカだし視線が低くなったような?


「大丈夫か? アントニー」


 部屋の外からガイルの声がする。


「いや、何でも無い」


 なっ、声がおかしい。いつもより高い。なんなんだ。そばにあった古ぼけた鏡を見て俺は絶句する。そこには見た事が無い美少女がいた。


 そして、検証した結果、俺が首にかけたネックレスは付けると性別が変わるものという事が分かった。なんの役に立つんだろうか? けど、これで護衛や取り巻き無しで街を歩ける。まあ、マジックボックスに着替えを入れとけばどこででも変身できるしな。

 妹の服を無断拝借して俺は嬉々として街へと繰り出した。完全な自由を楽しんでやる。俺の実力ならバレずに城を抜け出すなんて楽勝だ。



「んー、メイドカフェか……」


 可愛らしい店の作り俺には関係無い所だな。メイドにかしづかれて何が楽しいのか全く分からん。


 ガラス張りの店内を見て俺の体に衝撃が走る。



 め、女神!! 



 女の子を女神とか妖精って言う奴は頭イカれてんだろって思ってたけど、居るんだな、妖精や女神にしか見えない女の子って。俺はフラフラと、生まれて始めて、メイドカフェへというものに吸い込まれて行った。



 ◇◇◇◇◇



「ご注文お決まりですかっ!」


 ミルクことカルアはメニューから女の子の顔が上がるや否や食い気味に話しかける。このチャンスのがしてなるものかとばかりに。


(絶対。絶対に名前くらいは聞いてみせる)


「あ、ブラックコーヒー、アメリカンで」


 アントニーは震えかける声をなんとか押さえつける。


(やっべー、可愛い過ぎる。天元突破しすぎだろ。ミルクって呼ばれてたよな。肌真っ白だし似合い過ぎな名前だろ)


「お嬢様、こちらにはよくいらっしゃるんですか」


 少しでも情報収集しようと、ミルクは勇気を振り絞って話しかける。


「いや、初めて」


 取り巻きを常備し言い寄る女性も多いアントニーだけど、意識しすぎてガチガチで言葉も覚束ない。


(なんとかして、名前だけでも聞かないと)


 ミルクは勇気を振り絞る。


「おっ、お名前、何て言うんですか?」


「えっ、俺っ、私、な、名前? アント」


(やばっ、今、俺、女だった。何とか口滑らさなかったけど、『アント』って名前はねーよ。蟻って意味だよな。そーだな)


「『アン』と言う名前だ」


(何とか誤魔化せたな)


「アンさんってお名前ですのね。いい名前ですね。覚えましたわ。ありがとうございます」


 ミルクは花がバックに咲くような笑顔になる。作りものじゃなく本物の笑顔にアンも笑顔になる。


 お互いに微笑む美少女二人。まるで絵画のようなワンシーンに店内のメイドもお客さんも注目している。アンは運ばれてきたコーヒーをのみながら、ぎこちないながらも二人は言葉をかわす。しばらくゆっくりして、アンは名残惜しみながらも席を立つ。


「また来るよ」


(やべ、可愛い過ぎるだろ。可愛さの限界が見えねーよ。次はちゃんと男で来てみせる)


「また、お待ちしております」


(うっわ、綺麗、綺麗過ぎるでしょ。絶対待た会ってみせる! 毎日、毎日、次会えるまで連勤確定!)


 アンはお店を出て、振り返る。ガラス越しにミルクが手を振る。


(アンさん、振り返ってくれた。ここ気に入ってくれたみたいだな)


 ミルクは名残惜しそうに外から目を離す。


(見えなくなるまで、こっち見てたな。もしかして、俺の事気に入ったのか? いやいや多分あの娘は誰にでも優しいんだろう)


 アンは幸せを噛みしめながら城に戻った。



 読んでいただきありがとうございます。


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