メーイクアップ
「カルア、ちょっと実験台になって」
いつもの如くノックもせずに部屋に入って来たのはカシス。僕の双子の姉だ。髪の毛は邪魔にならないようにアップでまとめて、服装は中学の時のジャージ。彼女は部屋着として愛用している。だらしないけど、前は下着でウロウロしてたりしたけど、母さんに怒られて少し改善された。
姉は僕と違う高校、メイクの学校に行ってる。僕とは違って明るく可愛らしくて、どこでもすぐに誰とも仲良くなる。完全に陽の者だ。多分母さんのお腹の中で陽のエネルギーを全てカシスに取られたたから、陰の塊の僕が出来たのではなかろうか? 虫に例えると蝶とダンゴムシだ。当然僕がダンゴムシだ。
「ちょっと聞いてよ」
僕は廊下で王子にぶつかった話をする。少しはムカムカが解消された。
「ねー、話、聞いてあげたんだから、協力しなさいよ。試験近いんだから」
カシスはいつも僕をメイクの実験台にしようとするのだけど、男のプライドで逃げている。けど、なんか今日はなんもしたくないし、抵抗するのも億劫だ。
「いいよ。好きにして……」
「えっ、まじ、やたっ、じゃ、遠慮なく」
ニカッと笑うとカシスは自分の部屋に戻り、化粧品やなんやらを持ってきて僕の顔をいじり始める。なんか、目を閉じれだの、開けろだのうるさいし、顔がこそばゆいけど、どーでもいい。ああマリアさん……
「あんた、ため息ばっかついて、そんなんだからモテないのよ。シャキッとしなよシャキッと」
なんかこれにはイラッときた。
「うるせーよ。カシスに何がわかるんだよ」
「よくわかるわよ。姉弟だから。あんた女心ってのが全くわかってないから。そんなんじゃ一生独身よ」
これはグサリと来た。ほんとそんな気がする……
「うるせーよ」
「ちょっとズレるから喋んないで」
自分から話しかけてきたのにわがままだな。
テキパキと髪の毛をまとめられて、カツラを被せられる。
「目ーあけていいわよ」
僕は目を開けてカシスを見る。腹立つ事に可愛いな。姉じゃなかったらドキドキだ。ん、なんだ、僕の方見て大きく目を見開いて。口もあいてるぞ。
男が化粧したら問答無用で化け物みたいな顔になる。そんなに面白い顔になってるのか?
カシスが無言で僕に鏡を向ける。
えっ?
誰これ?
僕は頬をつまむ。見たことも無いような美少女が鏡の中で頬をつまむ。微笑むと彼女も微笑んでくれる。やっべ可愛い。ってこれ僕なの……
「なんじゃこりゃーーーーっ!」
ついつい家の中なのに叫んじまった。