傷心
「うぇー。キモ。あたしがなんでアンタのような陰キャとつきあわないといけないの? その前に鏡みたら? アンタなんかとあたしが釣り合う訳ないじゃん。夢は寝てみろよ」
凄く嫌そうな声、マリアさんってこんな低い声出せるんだ……いつもはキャッキャしててとても高い声なのに……
僕はなけなしの一生分の勇気をだして、マリアさんを屋上に呼び出した。
そして、震える体を気合いで押さえつけ、『好きです。付き合って下さい』って言った結果がこれだ。鏡見たらは酷い。確かに僕は地味だけど。所詮僕はダンゴムシ。暗くてジメジメしたとこが大好きだ……
そして、僕を振り返る事無く彼女は去っていく。
お淑やかそうでなサラサラの黒いストレートヘア。優しそうで澄んだ凛とした目。全てが僕のタイプだった。クラスの女子で、マリアさんだけが僕に挨拶してくれるし返してくれる。だから、もしかしたら、もしかしたら彼女は僕の事を少しは受け入れてくれるかもと思ってたけど、それは打ち砕かれた。
いっその事屋上から飛び降りようかなとかも思ったけど、僕にはそんな度胸が無い。痛いのやだし……
ドンッ!
廊下を歩いてると、足が地に着かないフワフワした感じで何かにぶつかってしまった。
「おい、人にぶつかってわびも無しか?」
ドスが聞いた声、僕はビクンとして顔を上げる。あ、王子、第1王子のアントニーかアントニオさんだ。サラサラ金髪に緑の目、イケメン、目がつぶれそうになる程のイケメンだ。声を荒げたのはいつも一緒にいるワイルドイケメン男子だ。あと、何人もの女の子の取り巻きもいる。
「アントニー、こいつよけたのに今わざとぶつかってきたわよ」
取り巻きA、ショートの女の子がキーキー言ってる。確か女性騎士で結構可愛い。けど怖い。まじか、フラフラしてたからわざわざぶつかったように見えたのか。
「ごっ、ごめんなさい……」
謝辞を述べようとするけど、どもってしまう。無理、大勢に見られるの無理。
「ちゃんと大きな声で謝りなさいよー」
取り巻きB、縦ロールの女の子がガン見してくる。確か公爵令嬢のなんとか様だ。悪役令嬢って感じだけど結構可愛い。けど怖い。あと、小っこいけど可愛くてスタイルがいい聖女と呼ばれてる女の子、お姉さんっぽい女の子など一通りのジャンルが揃っている。王子って凄いな。めっちゃモテるんだな。僕とは大違いだな。
けど、もし、僕が王子でも陰キャだからモテないんだろうな。王子様、太陽みたいだから。ダンゴムシに太陽は眩し過ぎる。
ワイルドイケメンが取り巻きBを手で制する。
「ま、謝ったから勘弁してやれよ。陰キャ君びびってるだろ」
イケメンタヒねと思いながら、僕はもう一度頭を下げて一団とすれ違う。
「なんかすまんな」
王子が小声で逆に謝る。むかつくけど、コイツはなんだかんだでいいやつなんだよな。
何気なく振り返ると、なんか取り巻きの女の子たちがこっちを指差してキャッキャ言ってる。僕の悪口だろうな。振られるし絡まれるし今日は最悪だ……
僕はそれから何をしたのか分からないほどぼんやりで、気がつくと家の自分の部屋にいた。どうやって帰ったのかも覚えてない。