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第39話 魔王の真実〜過去回想〜

 リーンが12歳になって少し経った頃だったと思う。

 師匠が「魔族討伐のノウハウを教える。旅に出るぞ」と言い出したのは。



 なんで? と思ったかどうかは、もうよく覚えていない。

 もともと師匠は口数の多い方でもなかったし、逐一説明してくれるタイプでもなかったから。

 きっと師匠なりに考えがあって、そういう修行をしようとしているんだと、勝手に納得していた。



 師匠――剣聖ヒルデガルドは、年齢不詳の女だった。

 見たところ、20代半ばほどにも見えるが、老成した雰囲気を謎に(まと)っていたし、年を聞いても教えてもらえたことはなく。



 それでもリーンは、ヒルデガルドのことが好きだった。

 


 長らく男児に恵まれなかった実家のセルヴィニア家では、リーンは腫れ物のように扱われていたし、それは弟が生まれてからより一層顕著になった。

 女でも家督を継げるよう努力を続けていたにもかかわらず、弟が生まれた瞬間それも良い顔をされなくなったようにも思う。

 女はしとやかにして、外に嫁いで家に利益を持たせろと言われているようにも感じていた。



 それは、リーンが勝手にそう感じていただけなのかもしれないが。

 だからということもあり、ヒルデガルドのところに住み込みで修行に出された時、最初は今度こそ本当に自分はいらない子供になったのかと腐った気持ちになったりもした。

 しかし実際に暮らして見たら、そこは居心地が良くとても息がしやすくて。

 その時になって初めて、自分にとっての実家は居心地の良い場所ではなかったのだと気付かされた。



 師匠との時間は楽しかった。

 リーンが剣術が好きだったということもあるし、ヒルデガルドの人柄の面白さもあった。



 それは、魔族討伐の旅に出た後も変わらず。

 大変だったり、危険だったこともあったが、リーンにとっては師匠と旅をしていることの楽しさの方がずっと優っていた。



 ――だが。

 


 ザザ――と、過去の記憶を思い起こしていたリーンの記憶に、ノイズが走る。



『――ふうん。魔族討伐をしている面白い二人組がいるという噂を聞いて、出向いてきて見たんだがな』



 記憶の中で響く声と、よく知っている誰かの声が重なる。

 


『魔王……!』



 ヒルデガルドの、緊迫した声。


 

『へえ。お前混血か。面白い』

『リーン、逃げろ……!』



 ヒルデガルドを見て混血と言った男と。

 リーンに逃げろと叫ぶ師匠。



 リーンは男を見て――、ちり、となにか引っ掛かりを覚える。

 なんだろう。

 喉元をつかえて出てこないもどかしさと、恐怖と、よくわからない何か。



 金縛りにあったように身動きを取れなくなったリーンに舌打ちをし、師匠が魔王に再び向き合う。



 そこでまた、ザザ――、とノイズが走る。



 次に映る記憶は、血まみれで地面に倒れ伏す師匠と、つまらなさそうに()()を見つめる男。



 突然、全ての感覚がリーンに戻ってくる。



 涙を流している自分。



 ヒルデガルドにとどめを刺そうとする男。



 その目線が、ふと自分を捉えた瞬間。



(『――《《わかった》》』)



 自分が、目の前の男に対してなぜずっとひっかかりを感じていたのか。



 目の前の男に、《《何をすべきなのか》》を。

 

 

 変えればいいのだ。

 ――存在を。

 魔の者から――そうではない者へ。



 呪文も術式も必要ない。



 ただ、合図をするだけ。



『変われ――』



 と。



 その言葉に、それまで余裕な表情を見せていた魔王の様子が一変する。



『お前……!?』

 


 男が気づいた時には、事はすでにもう終わっていた。



 違和感に気づき胸を押さえた男は、信じられないものを見るような目でリーンを見つめたまま、そのまま気を失うようにぐらりと崩れ落ち――ふっと姿をかき消した。



 そうして――、脅威が去ったことにリーンは安堵し、意識を失う。



『リーン!?』



 ぐらりと地面に倒れ伏していくリーンに驚き、ヒルデガルドは自分も傷だらけなのにも構わず、よろりと起き上がってリーンに向かって駆け出した。



「《《思い出したか》》?」



 記憶の中で響くどこかくぐもったような声とは違う、はっきりと響く現実だとわかる肉声。

 その声にリーンはびくりと反応し。

 そしてそれが誰だかを悟ると、リーンは恐る恐る――、声の主に向かって、ゆっくりと振り返った。



(これはまだ、現実じゃ、ない……)



 リーンの背後に立っていたのは、過去の《《魔王》》であったものではなく、現実の《《人間の》》ノアだ。



「ノア……」

「魔王なんてな、とっくに存在していないんだよ。数年前、誰かさんに存在を変えられたせいで」



 そう言って男は、さも愉快そうにリーンに向かって笑う。



「でも……、神託は?」

「あれは……。どっかの誰かに存在を変えられて記憶まですっ飛ばされた男が、ある日無くした記憶を取り戻した時、実際どこまで力が残ってるか力試ししたら上の奴ら(神々)にバレて」



 ノアが言うには、どうやらリーンが存在の書き換えを行った際に、神々まで一緒に魔王の存在がなくなったとまやかされたされたのではないか、と推察したらしく。



 それで、ノアがどこまで力が残っているかひとり力試し大会を行っていたところ、魔王が死んではおらず、人に存在を変えただけだと言うことが神々にバレたのだというのだ。



「実際、たいしたもんだよ本当に。魔王を人に変えるだけじゃなく。鬱陶しい上の奴ら(神々)まで騙くらかすんだもんな」

 

 言いながら、ノアが愉快そうにくつくつと笑いをもらす。


「いまさら神託なんてくださなくても、人に害を与える気なんて毛頭ないのにな。こんなに面白い玩具オモチャも見つけた事だし」

「私を――恨んでないの?」



 魔王だった自分を無理やり捻じ曲げて、人間にしたリーンを。

 ノアが魔王として、これまでどれくらい生きていたのかは知らないが、少なくともあと数十年しか生きられない体にしたのは間違いなくリーンだ。

 魔王としての矜持を折られたと激昂されても。

 恨んでいると言われてもおかしくないのに、とリーンは思う。



「さあ――? 恨んでるから、お前のことをめちゃくちゃにしてやろうと思ってきたのかもな」



 実際のところ、ノアの言う『めちゃくちゃにする』と、リーンの思う『めちゃくちゃにする』は、考えている意味合いが違うという点で大きく齟齬が生じているわけだが。

 単純に『お前の人生を(破滅という意味で)めちゃくちゃにしてやる』ということだと捉えたリーンは、神妙な面持ちでノアに向かって答える。



「それで――、ノアの気がすむなら好きにすれば良い。でもその前に。グレイブや――魔物に変えられたみんなを元に戻したい」



 現実の世界ではまだ、救うことができるであろう人たちがいる。

 自分に与えられた力で、人々を救うことができるなら。

 ならば、それを成し遂げてからならばいいと、リーンはノアに答えた。



「そうか」



 そうして短く。

 かつて魔王であったものは、少女の願いを叶えるべく、力を行使する。



 元いた場所に戻る。

 戻って、なすべきことを――。



「あ、一応言っておくけど、今こうして話している間も、俺まだリーンにキスしてる最中だからね」

「……は?」


 

 突然、今までの魔王然とした雰囲気から、いつもの軽い調子に戻ったノアが、けろりとそうのたまう。



 だから、現実に戻ったらそこから再スタートだけど、覚悟しとけよ――と。



「はぁあああああああああああっ!?」



 盛大に、抗議の叫びを上げながら。

 リーンはノアの手によって、再び現実へと戻るのだった。

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