1 私と先輩の出会いと部活
私と先輩は高校生だ。現在、先輩が三年生で、私が二年生。先輩が立ち上げた、部員が二人だけの、電動バイク部に私たちは所属している。と言うか入学早々、私は一年上の先輩から見染められて、「貴女、私と部活動をしなさい。部は、これから私が作るから」と申し付けられたのだ。
私も先輩も、電動バイクは勿論、スクーターの免許すら持ってなかったが。「問題ないわ。毎週末、私が高速道路を貸し切るから。私道扱いにするから、無免許でも走れるわよ」と言ったのが先輩である。そんな理屈は通らないと思うのだが、その無理を押し通しちゃったのだから私は何も言えない。きっと東京と違って地方の高速道路だから、上級国民の先輩が貸し切ることも可能だったのだろう。ツッコミに疲れた私は、いちいち考えるのを止めた。
一応、後に私も先輩も、常識では有り得ない早さで電動バイクの免許は取っている。先輩と付き合うと、様々な優遇措置を受けられて得だ。校則でオートバイに乗ることは禁止されているはずだが、高校の先生は私と先輩から目を逸らしていたので、そういうことだと解釈しておいた。
二人きり(正確には違うが)での部活は、毎週末に一回のペースで行われて。これがマンガなら女子高生がバイクで楽しく旅行する展開だったのだろうが、私も先輩も、そんな可愛らしいキャラクターでは全く、なかった。
「私は警察関係の情報に接する機会が多くてね。だから最近、出没している連続窃盗犯の手口に付いても良く知ってるのよ……貴女が犯人ね」
「……やだなぁ。何のことか分からないですよ、先輩」
これが、入学したばかりの私が高校で先輩と出会って、その日の内に二人きりで交わした会話である。私は只々、感心していた。何故、分かったのだろうと。私の盗みの手口は、決して警察如きに解明できるものではないのだ。気が付けば金品が消えているといった現象が起こるだけで、そこから私に辿り着ける者など居ないはずだったのに。
「そうね、そう言うでしょうね。貴女が犯人だという証拠は何も無い。世の法律では決して貴女を裁けない。そういう能力を貴女は持っている。でもね、私もそうなのよ」
ああ、そういうことかと私は理解した。この先輩と私は、同類なのだと。これまで自分と同じ種類の人間に会ったことは無くて、しかも私は先輩に付いて何も分からなかったのに、この先輩は私を完全に理解している。
そして私は先手を取られていたのに、先輩は不意打ちを仕掛けることもなく、正面から私に挑もうとしていた。何という気高さだろう。私は感動すら覚えていた。
「……それで? 先輩は私を警察にでも突き出しちゃうんですか? 証拠も無いのに?」
「まさか。さっきも言った通り、法律では貴女を裁けない。だから貴女、私と部活動をしなさい。部は、これから私が部長になって作るから」
「はぁ、意味が分からないんですけど。仮に断ったら、どうします?」
「そのときは、どんな手段を使ってでも、私が貴女を破滅させるわ。いいから私と部活に励みなさい。私が卒業するまでに、部活動を通して、貴女を改心させてあげる。もし貴女が改心しなければ、そのときは私の負けよ。一切、貴女に関わらないから、私が卒業するまでは付き合いなさい」