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黄金まみれのクソ勇者  作者: 広科雲
7/31

7 趣味と実益、作業と副産物

 西の山の偵察行を終えた翌日、ゲイリーは城塞都市ペーパの外れにある小さな家で趣味に没頭していた。この家は勇者ではなく一市民ゲイリーとして借りている家で、勇者に関する物は地下室に隠している。勇者になるときは地下から転送魔術陣で時計塔へと飛んでいるため、怪しまれずに行き来できた。

 彼の趣味は金細工である。日々、自給自足される金をフンダンに使い、アクセサリーなどを作っていく。作るのが目的なので、よほど気に入った物以外は売り払っていた。

 彼の実家は鍛冶師で、幼少の頃よりある程度の手ほどきを受けていた。鎧への彫刻や、意匠をこらしたネックレス作りも仕事の一部として学んでいる。大人になった今も作るのは好きだった。なにより周囲の目を気にせずに一人で落ち着いてできるのがいい。

 夕刻近くまで作業に打ち込み、完成した金鎖のネックレスを液体に浸して終わりにする。

「さて、斡旋所に行くかな。頼まれ物もあるし」

 ポケットに頼まれ物(それ)を突っ込んで、繁華街へつながる道を歩き出した。

 ペーパの町には大きく二種類の仕事斡旋所がある。一つは一般職の斡旋所、一方は危険を伴う仕事の斡旋所だ。ゲイリーが向かう先は後者である。

 一般人としてのゲイリーは、薬草や貴石、動物などの依頼品を収穫するハンターとして斡旋所に登録されている。勇者業の巡回任務のときについでに依頼をこなし、その報酬で慎ましく暮らしている風を装っていた。

 ゲイリーが斡旋所の扉を潜ると、入り口そばにいた男がわざと大きな声を上げた。

「ゲイリー様がやってきたぞ!」

 斡旋所がざわついた。視線が一斉にゲイリーにそそがれ、それが勇者ではないゲイリーだとわかって落胆ムードになる。

「本物がこんなとこに来るかよ! な、偽ゲイリーその2!」

 先ほどの男が楽しそうにゲイリーの腰をバンと叩いた。斡旋所の人間は、彼が本物だとは知らない。もし本人が口にしたとしても、誰一人、信じないだろう。素のゲイリーはそんな容貌と雰囲気の青年だった。

 斡旋所の一階は仕事斡旋の窓口が隅にあるだけで、他のスペースは酒場になっていた。仕事の終わった――もしくは仕事のない『冒険者を自称する』連中が酒を呷っている。本物の冒険者なら酒場に籠っているのではなく、自分の意思で冒険を探して外の世界を歩いているはずだ。まして仕事をするのが冒険とは意味がわからない。

 ゲイリーはいつもどおりからかわれ、一つのテーブルについた。そこには初老の男が景気の悪い顔で酒を飲んでいる。彼の名もゲイリーであり、ここでは『偽ゲイリーその1』などと呼ばれている。

「相変わらず酷い連中ですね」

 ゲイリーはゲイリー1の前に座った。

「まったくだ、人の名前を笑いものにしやがって」

 酒ですでに赤くなっている顔が、怒りがこもりさらに赤みが増していた。

「あのゲイリーもゲイリーだ。なんてありがちな名前なんだ! 勇者らしく名前も希少なものであればいいものを!」

 その難癖にゲイリーは苦笑しかできなかった。

「それはともかく、例の物ができたので持ってきました」

「本当か!?」

 初老のゲイリーは怒りも忘れゲイリーに食いついた。

 「どうでしょう」とゲイリーはポケットからハンカチに包まれたそれを見せた。

「おお、いいじゃねぇか! 立派な指輪だ!」

 彼が受け取ったのは黄金の指輪だった。田舎にいる夫人への結婚30年の記念品だ。家を空けることが多い彼ができる、精一杯の気持ちだった。

「しかし、こんないい物を金貨一枚で作っちまうとはなぁ。買おうとしたら三枚は取られるところだ。悪いな、手間賃も出せないで」

「趣味でやってるだけなので気にしないでください。もしどうしても気になるのであれば、夕飯代をお願いします」

「そんなのでいいならどんどん食え! あんたぁ、オレにとっちゃ国の英雄よりよっぽど英雄だぜ!」

 男は上機嫌で酒を追加した。もちろんゲイリーの分も含めてである。

 夜遅くまで飲み食いし、若いほうの偽勇者はご機嫌で町はずれの自宅へと戻った。

「明日は……兵舎での戦闘指導か。むしろこっちが指導されるほうなのになぁ。ゲイリーさんに言われたとおり、細工師にでもなったほうがよかったかもなぁ」

 ゲイリーはボヤき、ベッドに倒れた。オリハルコン装備がなければ雑兵並であるのを常に気にしていた。なまじ使いきれない金が手に入り、さらにはオリハルコンの生成法まで知ってしまったのが間違いだったのかもしれない。

「まさにウンのツキ! ……アーッハッハッハッ!」

 酒が入っているので自分の寒い冗談に大爆笑してしまう。

「……そうだ、オリハルコン!」

 ひとしきり笑ったのち、それを思い出した。飛び起き、斡旋所へ行く前に水溶液に浸けた金細工を引き上げる。液体はずいぶんと減っていた。まるで金のネックレスが吸い取ったかのように。

 ゲイリーは手にのせ、魔力を注いだ。と、七色に輝きだす。オリハルコンの特性である。

 純度の高い金を純度の高い聖水に浸しておくとオリハルコンに変化する。

 ゲイリーはそれを実体験から知り得た。そうでなければ『こんな簡単な方法でオリハルコンができてしまう』など、大神官が言っても信じはしなかっただろう。

 ただし、その『純度』の基準がかなり高かった。金は精製することで純度を高められるが、聖水はそうはいかない。それこそ大神官が数人がかりで何日もかけてようやくスプーン一杯分を作りだせるかどうかの純度が必要だった。

「そりゃ、作り方がわかったところで難しいよな。神がもたらす奇跡の金属と言われるのも納得だよ」

 その奇跡の金属製の武具をまとう男のいうセリフではない。

「また聖水を集めておかないとな」

 ゲイリーはその作業を思いおこしてウンザリする。枕元にあるオリハルコン製のコップを見て、さらに気分が沈んだ。

 ゲイリーは寝ることにした。




今回のウンチく

金のオリハルコン化……オリハルコンを加工するとなると大がかりな装置と優秀なドワーフ鍛冶師が必要となる。そこで古代魔導時代では金からオリハルコンを錬成する、いわゆる『錬金術』が主流であった。その際に必要な黄金と聖水の重量比率は1:1である。完成したオリハルコンは元の金の半分の重量となる。

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