表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金まみれのクソ勇者  作者: 広科雲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/43

42 とぐろと螺旋はよく似てる

 アークソドン事変から半年が経とうとしていた。

 キベン国王都スインセの王城では、第一王女ナンシー・ツプラ・キベンが執務室で短い休憩を取っていた。彼女はあの日から休まる間もない。娘の優秀さに気付いた国王が、周囲に見せつけるため喜び勇んで仕事を次々と投げつけるからだ。姫のほうもなんだかんだと見事に解決していくものだから、国王の娘自慢は止まらない。今までのわがままのツケが回ってきたのだろうとナンシーは思いつつ、いつか逃げ出してやろうと画策していた。

「それで結局、勇者はどうなったんだ?」

 ナンシーの護衛であり友であるアリスが、同じテーブルでお茶を飲む。休憩中は友として接するのが二人の暗黙ルールである。

「ゲイリーは南のペーパ、ディーネは北のオーズマリー領を拠点にしたままよ。アークソドン事変が終わっても、問題はそれだけではないからね。それに、抑止力としての勇者の存在はもはや欠かせない。それがいきなりいなくなったら、小悪党は大喜びするでしょうね」

「それはそうだが、二人は納得してるのか?」

 アリス自身が納得できないような表情を浮かべている。彼女と王女は、勇者ゲイリーが王城東塔の窓をぶち破り、引きこもっていたディーネを連れに来たシーンを特等席で見ていた。今まで縁のなかった大恋愛劇に、アリスは大興奮したのだった。

「二人は勇者という立場をよく知っているわ。だから身勝手にできないこともわかっていたはず。それに、家の問題も片付いてはいないしね」

「家の問題?」

「ディーネが伯爵令嬢で、ゲイリーが平民だってこと」

「ゲイリーは平民なのか。勇者というから、騎士か貴族のボンボンかと思ってた」

 アリスはゲイリーの出自を知らなかったので驚いた。

「ナイショよ。婚約ともなればオーズマリー伯爵に話さないわけにもいかないでしょ? で、伯爵は当然、反対したわ」

「平民だとそんなに都合が悪いのか?」

「ディーネと結婚するならゲイリーは表舞台に出ないわけにはいかない。勇者と隠し、後ろ盾もない平民として出てくれば伯爵家が恥をかく。勇者の正体を明かしたならば周囲の反感を買うでしょうね。なぜなら他の貴族たちは、アリスと同じように勇者のような騎士道に優れた人物はとうぜん貴族だと思ってるわけよ。それが違うとなれば、今まで平民に助けられ、褒め称えてきたのか、と憤る貴族も出る」

「アホなのか、そいつら。何様のつもりだ」

 アリスは呆れ、怒った。

「だから『貴族サマ』よ。平民を下に見ていないと気が済まないの」

「ゲイリーが本気を出したら、そんなアホども殲滅できるだろ」

「勇者はそんなことできないの。ましてやゲイリーは考えもしないわ」

「じゃあ、ディーネはどうなんだ? 自分の父親を説得するつもりもないのか?」

「説得はしたわよ。でも、オーズマリー家の実情を考えると、そう簡単でもないの。オーズマリー家の後継者が一人娘ディーネしかいないのが一点。ディーネが勇者であるのが二点目。そこに勇者ゲイリーが入ればオーズマリー家に勝てる戦力は国内にはなくなる。貴族間のバランスが完全に崩壊してしまうの。伯爵は波風を立てたくないのよ。ましてや自分の家が原因で戦争にでもなっては、と危惧してるわけ」

「桁外れの強さも面倒なもんだな。ならオーズマリー家に養子でも迎えて、ディーネが平民になればいいじゃないか。それならゲイリーは正体を隠したまま勇者をできるだろ。彼女が嫌がってるのか?」

「そんなことはないけど、伯爵がね。体面の問題で、一人娘が平民落ちなんて恥さらしだと。噛み合わない二重螺旋……いえ、状況を加えたら三重、四重螺旋状態よ」

「だから貴族は嫌いなんだ。たかが100年、せいぜい五代程度の貴族生活で、自分たちがどれほど偉いと勘違いしてんだ」

「返す言葉もないわね。でもそのプライドが国を興し、支えてきた一端でもあるのよ。少なくとも、キベンの建国王と従った今の大貴族は『自分たちがやらねば』という強い意志でやり遂げ、守ってきたのだから」

「見る影もないな」

「……一刀両断しないでくれる?」

 ナンシーはジッと自分を見つめるアリスに、苦笑するしかなかった。

「あーあ、勇者も可哀想にな。国のためにがんばっても、国には守ってももらえないなんて。いっそ余所の国に行けばいいのに。駆け落ちってヤツだろ、これ」

「それも勧めたんだけどね、二人の勇者気質が許さないわけよ。こっちもこっちで無駄なプライドというか」

「この国もダメ。余所の国もダメ。となったら、どこの国があるんだか」

 アリスは肩が凝ったように筋肉をほぐし、深く息を吐いた。このところ運動不足のようだ。

 ナンシーはアリスの言葉にひっかかりを覚えた。そしてハッとした。

「……そうよ、どこの国もダメなら――!」

 アリスは大きな音をたてて椅子から立ち上がった。

 もつれて渦巻く螺旋の中に、一つの答えが見つかった。

「大きな螺旋を収束させたら、それは見事なとぐろになるわ。そして巨大なとぐろと言えば、やっぱりアレよ」

 いつにも増してわけのわからない独り言を漏らす親友に、アリスはハテナを咲かせつつも最善策が浮かんだのだと思った。つまり、これから面白いことがはじまるのである。




今回のウンチく

次回……最終回! 勇者連合大勝利! 希望の未来へレディーゴー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ