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黄金まみれのクソ勇者  作者: 広科雲
4/31

4 兜の下は?

 勇者ゲイリーは城塞都市ペーパ領主の依頼を受け、西の山岳へ偵察に出ていた。付近の村で先日のネクラム軍の敗残兵が目撃されたためである。

 ゲイリーは『勇者』と呼ばれてはいるが、職業的には傭兵に過ぎない。村を飛び出したころは『冒険者』と称する何でも屋を生業なりわいとしていたが、とある活躍の以後はペーパを拠点とした魔物討伐が仕事となっていた。

 ゲイリーは基本、単独行である。黄金ウンコの件を他人に知られるのを恐れているからだ。それに、力がありすぎるため一人のほうが戦いやすかった。仲間がいると巻き添えを心配して力が出せない。

 例外として、この国には彼に匹敵する実力者が一人だけいる。

「あなたも偵察任務? 偶然ね」

 本格的な山中偵察へ向かおうとしたところで魔銀騎士ディーネ・オーズマリーと遭遇した。口ぶりから彼女も依頼を受けたようだ。

「ディ……オーズマリー、おまえもか」

 ゲイリーは突然のことに驚いたが、それ以上に喜んでいた。危うく名前で呼びかけ、慌てて勇者モードになって言い直す。

「あなたの尻ぬ……後始末を押し付けられていい迷惑だわ」

 ディーネは顔を背けて文句を言った。逸らせた顔はニヤけている。

「それはすまなかった」

「でも、あのゲイリーに貸しをつくるのは悪くないわね」

「いつでも返す。必要なら言ってくれ」

「え、あ、うん……。そ、そうするわ」

 ディーネは一足先に歩いていった。ゲイリーもあとを追う。

 通常、偵察任務は二人とも【飛行】魔術を用いて短時間で済ませてしまう。が、今回ばかりは示し合わせたように徒歩による移動をしていた。

 だからといって和気あいあいとした雰囲気はなく、互いに会話を探してはいるがいざとなると言い出せず、せいぜい仕事上の情報交換程度で終わってしまう。

 そうして昼に差し掛かるころ、いったん小休憩を挟むことにした。

 ふぅ、と一息つき、ディーネは兜を脱いだ。髪を覆う厚手の保護布帽も取り、長い金髪を解放する。汗で張り付いた前髪を指でかす姿にゲイリーは見惚れた。

「な、なに?」

 見られているのに気付き、ディーネは気恥ずかしさに身構えた。

「な、何でもない」

 ここで世事の一つもとっさに出ればいいのだが、ゲイリーにそんな器量はない。

「あなたも兜くらいとれば? 暑いでしょ?」

「いや、大丈夫だ」

 ディーネの提案をゲイリーは手振りまでつけて拒絶した。

 その慌てようを魔銀騎士はいぶかしむ。

「……そういえば、あなたの顔を見たことないわね」

 出会ってからすでに半年以上、今さらな疑問である。

「大した顔じゃない。それに顔を出さないのは理由がある」

「理由? どんな?」

「落胆させたくない」

「……は?」

「自分で言うのもなんだが、わたしの顔はとても平凡だ。格好よくもなく、貫禄ある顔でもない。勇者とは皆に期待されるものだろう? オーズマリーのように美しければさらしても、いやむしろ晒しているほうが皆の期待に応えられる。だが、わたしは違う。だから人前ではけして兜は取らない」

「はー」

 ディーネのすぐに出た感想はそれだけだった。わからなくはない理由だが、どうでもいいような気もする。第一、ゲイリーの名声は実力が認められたからであり、容姿とは無関係だ。それに――

「え、ちょっと待って。今、わたしのこと美しいって――」

 ハタと気付き、ディーネは一瞬で真っ赤になった。

「う、嘘は言っていないだろう? 人を魅了する容貌というのも勇者の資質になるはずだ。それに強さや徳が備わっていれば完璧だ。オーズマリーが勇者として讃えられるのは当然だろう」

「な、な、なん……?」

 ディーネからは明確な言葉が出なかった。唐突の褒め殺しに思考が追い付いていない。

 ゲイリーは正直な口が滑りまくり、かなり混乱していた。しかし、そこは百戦錬磨の勇者である。すぐにごまかす算段をつける。

「そ、それと、兜を取らないのにはもう一つ理由があるっ」

「もう一つ?」

 ディーネとしても恥ずかしさの極致なので話題に乗った。

「つねに危険に備えているからだ。特にこんな魔物が徘徊する――」

 言いかけて、ゲイリーはディーネに覆いかぶさり、地面に倒れた。

「……!」

 声にならないほど驚くディーネの目の前を、十数の矢が通過していく。

「このようにな。兜がなければ気付けなかった」

「【危険感知】?」

「常時かけ続けている。兜はその増幅器だ。純然な防具でもあるが」

「……戦場で兜を外すのはバカのすることってわけね」

 ディーネは無防備だった頭に銀色の兜を装備した。

 二人は立ち上がり、矢が飛んできた方角を睨んだ。次の矢が襲ってくるが、オリハルコンとミスリルの鎧にはまるで通じない。

「相手は獣鬼オークのようね」

「ああ、16……17か。襲ってきた以上は見逃せないな」

「当然よ」

 恥をかかされた怒りをぶつけるように地面を蹴り、ディーネは敵の群れのなかに突っ込んだ。

 戦闘は一分もかからなかった。




今回のウンチく

【危険感知】……魔術の一つ。危険を感知するとされているが、実際には複数の精霊感知系魔術で構成されている。『闇属性』『炎属性』『風属性』が主となっており、生物が発する闇に属する本能、攻撃性を表す火、周囲の大気の流れを知るための風属性と、それぞれの変化を検知して揺れ幅が大きくなると危険と感じさせる。あくまで異常検知なので本当の危険かどうかは不確定である。

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