第十八章 太陽に近い場所 6
カスターは通信機に細工をしていた。
通信している内容が空挺内に聞こえるようにしていたのだ。
レインとロブの様子が、みんなに聞こえていた。
カスターはディゴとふたりで、パイプを取り出していた。
グリーンエメラルダ号でもパイプを持って待機している者がいた。
「よう、おめぇ、ディゴか。」
「ああ、そっちはグレンか。やけに年取ったな。」
「あはは、体壊しちまったからな。」
カスターがパイプの中間地点で支えて、ディゴがパイプの口を抱えて、グリーンエメラルダ号に乗っかった。
グレンがもつパイプの口鉦を合わせて、グレンが片手を上げると、パイプがうねりだした。
カスターは自分がいた場所から下がって、パイプの出ている場所に行った。
そこにはカウントするものがあって、数字が挙がっていく様子を確認していた。
「なにも変わっちゃいねぇな。赤ん坊が大きくなったくらいか。」
グレンが眼鏡をいじりながら、ディゴに話しかけた。
「そうだなぁ。あんたたちが思っている通り、ロブは頑なに拒んでやがる。」
「ゴメスのおやっさん譲りか。口も悪かったよな。」
「艦長ほどじゃないだろう。よくレテシアのような娘が素直に育ったと思っているくらいだ。」
「あはは、お互い様だな。まったく。」
「あの二人には、やきもきさせられちまったな。ルディなんて振り回されてばかりで、いまでも、一人身だぜ。」
「スカイロードの同級生だったジェフは、妻子持ちになったらしいがな。」
「おお、ジェフな。まったく、男はロブだけじゃないのにな。」
カスターは影になった場所で二人の会話を聞いていた。
照りつく太陽のもと、ディゴとグレンの肌が黒々しているのを見ていて、健康そうだなと思っていた。
カスター自身、レテシアに会いたいなと思ってはいたが、果たして会って何か変わるのだろうかと思いつつ、ロブをからかうネタにしか思っていなかった頃よりずいぶんと気持ちが変わってしまっていることに気が付いた。
エアジェットの音が近くで響くので、カスターは上を見上げたが、太陽の光でぼやけていてよく見えなかった。
SAFの真上、ひまわりが通過する時、操縦席から人が飛び出していた。
レインはヘッドセットの線を引きちぎって、グリーンエメラルダ号の方へ寄っていった。
操縦室のガラス張りにへばりついて、その様子をみていた。
「うそだろう!」
ロブの叫び声が、SAF空挺内に響いた。
ジリアンは、旋回し、その様子をパジェロブルーの操縦席越しに見ていた。
両手を左右水平に伸ばし、T字の姿でエアジェットをジャンプして頭を下に降下するレテシアの様子を、ハートランド艦長が見えてないはずはない。
「馬鹿か。」
そのつぶやきを聞き逃さなかったルディは、レテシアをかばうような言い訳を考えようとしていた。
グリーンオイルを供給しているディゴたちがいてる上に鉄棒が張り巡らしてあり、その上にレテシアが降下していくと、左右水平から両手を合わせて、鉄棒を握り締めて一回転し、鉄棒を離して、甲板に着地した。
カスターは鉄棒に掴まるあたりから、エアジェットから人が落ちてきたのだと理解したと同時に、驚愕していた。
ディゴはレテシアが甲板にジャンプしてきたようにしか見えなかった。
「よう、レテシア。」
「あら、ディゴ。久しぶり。」
ヘルメットを取って、笑顔で手を振って挨拶をした。
グレンはレテシアが何をしたのか、わかっていた。
「また、おやっさんに怒鳴られるぞ。」
「もう、怒鳴られたりしないもの。」
「おお、そういや、レテシアはエアジェットでどこかに行っていたんだな。エアジェットから着地してきたのか。」
「そうよ。」
悪びれもなくそう言ってのけるレテシアの姿をカスターは口を開けたまま、見入っていた。
短い茶髪が風になびいているが、太陽の光を浴びてキラキラと輝いているようにみえ、その様子は太陽を手中に納めて輝く女神のように思えた。
首をかしげて、カスターをみるレテシアの目線を感じて、ディゴが紹介した。
「ああ、カスター、説明の必要がない、彼女がレテシアだ。レテシア、あの男はスカイエンジェルフィッシュ号の通信士カスター=ペドロだ。」
「おい、いつまで馬鹿面しているんだ。」
グレンが突っ込みをいれても、反応する様子もなかった。
「聞いてるわよ。レインやジルの面倒をみてくれてるって。息子がお世話になってます。」
その言葉にやっと我に返ったカスターは、後ろを振り返り、メーターの数字をみた。
「ディゴ、もうすぐフルだ。」
「よし、もういいだろ。グレン止めてくれ。」
「了解。」
グレンは後方をみて、給油の栓に立つクルーに合図を送って、止めさせた。
カスターはあわてて、通信機を取り出し、レインたちに降りてくるように言った。
ロブは、手元の通信機にスイッチを入れて、ジリアンに帰還するように指示をした。
カスターの声が聞こえておらず、レインはただただ、レテシアの方をみつめるばかりで動かなかった。
「レイン、降りていくといい。レテシアが待っている。」
ロブは後ろからレインの肩を抱き、促した。
レインは振り向いて、ロブに後ろめたさを感じていたが、ロブは黙ってうなづいた。
「行っておいで。」
レインが満面の笑みを浮かべると、心が痛くなるのを感じていたが、操縦室から走り去る姿をみて、切なさをこらえた。