第十七章 青すぎる空 1
胃痛が治ったレインは、クレアの誘いで遠出することになった。
ジェフのエアジェットにクレアが乗り、パジェロブルーでレインとジリアンがジェフの引率で向かうことになった。
ロブとアップルメイト大尉から飛行許可をもらって、一行は飛び立った。
向かった先は、ディアナ火山を軸に要塞の反対側にあるカルデラ地の湖だった。
湖岸にエアジェットを着陸し、高台に上ると、墓地があった。
クレアは一行の先頭に立っていたが、振り返って言った。
「見てごらん、あれがディアナ火山。」
赤い岩肌が頂点から裾野まであって、ずっしりとそして気高くそびえたつ山の姿がそこにはあった。
「30年ほど前に、あの火山が爆発し、周辺で暮らす民族がこの地を追われた。」
レインとジリアンは振り返り、火山をみた。
クレアは、山岳地帯に起きた出来事を語り始めた。
山岳地帯に住む民族が豪雨と風雨で土砂崩れに遭い、四方八方へ散り散りになった。
クレアが山岳警備隊の研修を受けた際、土砂崩れによる事故で多くの人たちが犠牲になったことを語った。
キャティナ・マウントーサ・ロッソ駐屯地はその地に住んできた民族が横穴式に作った住居が崩れてしまい、廃墟になった場所を改造し建設したものだった。
墓地は、その民族が犠牲になった人々を葬った場所であり、山岳警備隊の殉職者の墓地でもあった。
クレアの話が終わると、ジリアンは本でしか見たことがない、カルデラ地のことを興奮気味にレインに話し始めた。
ジェフは、エミリアの兄の墓を探したが、見つからなかった。
クレアは、それとなく、目的の墓に行って、酒を置いた。
「クレアさんの知人の方ですか。」
レインの問いに、笑顔でうなづくだけ、何も言おうとしなかった。
ジリアンはレインの服をひっぱり、余計な事を聞かないようにと促した。
「昔の男だ。」
クレアの答えに、レインは思いつきでものを言った。
「クレアさんの恋人ですか。」
「さぁね。」
「さぁねって。」
レインがすこし憤っているのに対して、ジリアンは、「大人ってこれだから。」とつぶやいた。
駐屯地での砂が太陽の暑い日ざしをうけて靄を出すのに対して、ここは湖のそばとあって木立が生い茂り湿気を帯びた風が吹いていて、対象的だった。
高台のしたから、髭を蓄えた男が上ってきて、クレアたちに言った。
「湖岸に止めてあるエアジェットはあんたたちのかい。」
男の問いに、クレアがそうだと言った。
「エアジェット一機は山岳警備隊のだな。もう一機は見たこともない機体なんだが、ありゃいったいなんだ。」
男は、ジェフが軍服を着ているので、軍隊のエアジェットはこの男が操縦してきたのだと考えていた。
あとは女ひとり、少年が二人だが、あの機体を操縦しているのはいったい誰なんだと思っていた。
「あなたはいったい何者ですか。わたしは山岳警備隊、少尉のジェフ=マックファットです。」
「すみませんな、気が急いて。俺はカメラマンの、チャベック=ドロイドという、エアジェットを専門にカメラに収めている者なんで。
少尉、あの朱色のエアジェットは、あなたが操縦した機体ですね。スカイブルーの機体は・・・。」
話しながらチャベックはクレアのほうを見ていたが、クレアは首を振った。
ジェフはレインとジリアンを指差した。
「こちらの少年たちが操縦していたんですよ。」
「ほう。」
チャベックは改めて、二人を見ていた。
「どこかで見たことがあるような気がするんだがね、坊やたちの名前は?」
レインは子ども扱いされたので少しムッとしていたが、名乗った。
「僕はレイン=スタンドフィールドです。」
「僕は、ジリアン=スタンドフィールドです。」
スタンドフィールドと名乗ると必ず言われるのが、「アレックスの子孫か。」だった。
案の定、チャベックの口から出てきたが、しばらくしてから、両手を叩いて、言った。
「レテシア=ハートランドだ。」
「正解。」
ジェフが言ったのだが、レインはふて腐れた。
「ロックフォード・ファミリーってアクロバット飛行のショーで一時期いてたからさ。レテシアにそっくりだよ、君。」
「確かにこの少年は、レテシア=ハートランドの息子だ。」
ジェフがレインの頭を撫でて言った。
「ホーネットでスタンドフィールドの若い男と恋仲だって話があったと聞いたが、息子がいてたのか。」
チャベックは感心して、カメラの枠取りを指でレインの顔に向けてやってみせた。
「エアジェットの申し子だな。君もアクロバット飛行をするのかい。」
「いえ、操縦は普通です。というか、僕は・・・。」
クレアがレインの言いにくい事を言ってのけた。
「両親はこの子が5歳の時に別れてね。レテシアとはそれ以来あってないんですよ。
カメラマンさん、わたしたちに何か用事があったのでは?」
チャベックは思い出したように、パジェロブルーを指差し、写真を撮らせて欲しいと言った。
「私は、グリーンオイル財団の人命救助隊スカイエンジェルフィッシュ号の医者で、クレア=ポーターといいます。
あのエアジェットはパジェロブルーと言って、財団研究所から提供していただいたものなので、許可が必要ですね。」
「許可なら、大丈夫だな。研究所のエアジェットをカメラに収めたことが何度もあって、懇意しているものだから。
それに理事長の娘さんの写真を撮ったことがある。」
「セイラの?」
「ああ、そうだ。会ったことがあるかい。」
「あります。」
ジリアンはコーディにもらった写真を思い浮かべていた。
あの写真はこの人が撮ったものなのかと考えていた。
チャベックはおもむろに背負っていたかばんを下ろし、中からカメラを出した。
高台の奥に見える山のふもとを指差した。
「あの村に明日、山岳警備隊の要塞から輸送部隊が来るって聞いてね。なんでも食材を積み込むらしい。
俺の目的は山岳警備隊でエアジェットをカメラに収めることなんだ。」
「責任者に許可は取ってないんだろう。」
ジェフの言葉に、口ひげから銀歯をちらりと見せると、「許可は取れてないが、大佐とは連絡を取ってある。」と言った。
「だったら、明日パジェロブルーを撮ればいい。」
クレアが言うと、チャベックは首を振った。
「ディアナ火山を背景に撮りたいなぁ。飛んでるところをさ。」
クレアは、ヤレヤレと両手を広げると、ジェフはレインとジリアンの尻を叩いた。
「さぁ、ふたりとも、パジェロブルーを飛ばしておいで。」
「ジリアンだけ、行っておいで。ひとりでも操縦できるだろう。」
「はい。」
ジリアンが素直に返事をして、湖岸のほうへ降りていった。
「悪いが、カメラマンさん。レイン一人だけカメラに収めてくれないかな。特別料金を明日要塞で支払うから。」
クレアが言ったことにレインは驚いていた。
「別にかまわないが、この坊やだけかい。」
「ああ、母親に写真の一枚くらいよこしてやりたいのさ。」
レインは納得をした。
そして、レインはその場にいた人たちに、「ジリアンには内緒で。」と言った。
ジリアンがパジェロブルーで飛び立つ前に、レイン一人だけカメラに収まった。
パジェロブルーをチャベックが写真を撮っている間、三人は時間をもてあましていた。
「クレアさん、ここに来た理由は、知り合いの方のお墓参りですか。」
「ああ、医療研修でお世話になったのでね。あと、ダンが亡くなったときもここに身を寄せた。」
「ほんとうは、合同練習のお楽しみイベント中に行く話しがあったんだけどね。」
「少尉、イベントって何ですか。」
「合法麻薬パーティとか、ダンスパーティとか、いろいろ。山岳警備隊とスカイロードの学生がはめはずすイベントさ。」
「麻薬ですか?」
「麻薬と言っても、軍公認の恐怖心を和らげる薬だが、パーティで使うのはこのイベントのみなのさ。」
「クレアさんはご存知なのですか。」
「ああ、参加したことはあるさ。経験のためにね。まぁ、でも、軍人でしか認められないっていうものだけのことさ。
一般人には適用されないで正解。また、軍人になくてはならないものだとも思う。」
「命を危険にさらすお仕事なんだよ、レイン君。」
「うん、もう、少尉。僕はそんなお子様じゃないです。」
「怒った顔もレテシアにそっくりだな。あはっはは。」
ジリアンは、パジェロブルーを操縦しながら、みんながいてる場所を見ていた。
レインがジェフにからかわれている様子が操縦席からも見える。
しきりにカメラを手にチャベックが親指を立てている姿もみえて、ちゃんと撮れていることがわかった。
要塞の方向からすこし、火山よりの位置に、ハエの群のように点在する飛行物体が見えた。
機体のレーダーを確認すると、それがエアジェットの部隊だとわかり、飛んでいる様子から合同訓練のエアジェットだと思った。
太陽が中心からやや下に傾き、空は雲ひとつない青い空だった。




