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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第二章 レインとジリアン
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第二章  レインとジリアン 4

ロブは、ジリアンの両肩を強く握って自分から引き離した。

「ジリアン、俺の目を見るんだ。何があったか、話せるか。」

泣き止んだジリアンは、深くうなづいた。

冷静になったジリアンはつぶさに詳細を話した。

ロブは内容の把握をした。

ジリアンの話を聴いたのはロブだけでなかった。

ジリアンの泣き叫ぶ声でドックのクルーたちが何事かと数人集まっていた。

「つまり、あれだな。最近、あっちのリゾート地で騙されて働かされている連中がそこを抜け出して、こっちの方で窃盗を働いている話を耳にしたが、そういう連中が襲ったっていうわけだな。」

「こっちでの顔見知りは、レインたちを狙ったりしないからな。」

「ドックの連中が黙ってないっていうのはわかっているからな。」

「自警団がもめてて、見回りができてないって話は本当だったんだな。」

口々に言いたいことを話す連中を背中越しに、ロブはジリアンに言った。

「ジリアン、お前に怪我ないよな。」

「うん、大丈夫。」

ジリアンから両手を離し、腕組みをしてロブはジリアンを見下ろして言った。

「流れの早い川を渡れないのは、体を鍛えていないからだ。ジリアン。」

ジリアンは深くうなづいた。

「常日頃から、練習してたら、体を鍛えないといけないって理解できるだろうって思ってた。」

ロブはジリアンの頭の上に右手を載せた。

「ジリアン、これからは練習をサボるな。体も鍛えるんだ。」

「うん」

「なにも俺は、お前たちに強制とかさせるつもりはないんだ。ジリアンにできること、レインにできることを、その力を伸ばし、お互いを助け合って、このドックを守れる人間になってほしいだけなんだ。」

「わかってるよ、兄さん。」

「レインは遊び半分でやってるみたいだが、お前を守ることができたことは体を鍛えてきた効果が出ている。」

カスターが吹き抜けのフロアにでてきて、叫んだ。

「ロブ、テントウムシの用意が出来たよ。第二デッキだ。」

ロブは、キャスに合図を送った。

「キャス、ジリアンのことを頼む。」

「ラジャー」

集まった男たちは、元いた場所にもどりはじめた。

ジリアンは、その場から離れようとするロブの腕を取った。

「兄さん、レイニーは遊んでるつもりはないんだ。一緒に練習をやっちゃいけないの?」

「レインが整備できるようにならないと、二人だけで空を飛んだときにトラブルを起こしたらどうするんだ。」

困った顔をするジリアンに、戻ってきたカスターが後ろにたち、両手を肩に添えた。

「分担して、持ち場を守る。これが鉄則だ。クルーっていうのはチームワークだ。」

「僕が整備できるようになったらだめなのかな。」

「言っただろ。お前には度胸がある。咄嗟の判断は冷静だ。レインにはできない、いや、できていないだな。出来るようになるまでには時間がかかるし、その前に整備できるように技術を身につけるほうが先だ。」

「そうだね。」

残念そうに言うジリアンはリュックを手に取り、自分の部屋に行こうとする。

「ジリアン、お前は航空術がある程度身についているが、それ以上に技術を頭に入れ込むのは今、しないほうがいいだろう。」

「うん、わかったよ。役割分担なんだね。これから、練習をこなしていくよ。」

カスターはジリアンの肩を抱いて、連れて行った。

その後姿をしばらく見つめて、ロブはつぶやいた。

「やけに、ものわかりがいいな。」


テントウムシとは、エアバイクのデカイ機体という感じで、半円形上の姿形で空を飛ぶ様子から、「テントウムシ」と呼ばれていた。

手当てを受けたレインは、テントウムシの助手席に乗るのをジゼルに手伝ってもらっていた。

「無茶するところ、マネしなくてもいいのに。」

「マネするつもりはなかったよ。ジリアンをつれて逃げるのが精一杯だったんだ。」

「無理してオホス川を渡らなくても、街にもどればいいのよ。」

「そこまで考えることができなかったんだ。戻れば、あいつらが追いかけてくると思ったんだ。」

「川を渡るのが無茶することなのよ。いくら、逃げ切るためでも。」

ヘルメットをかぶりながらロブは、二人の会話を聞いていた。

「咄嗟の判断が冷静にできないところは、マネじゃないよな。」

「ロブ、いつからいてたの?」

レインがふてくされているのをみながら、ジゼルはレインにヘルメットをかぶらせた。

「ジリアンに怪我がなかったのは、レインがちゃんと守ったからでしょ。」

「ジリアンより体ができているというか成長しているレインだから、守ることができた。」

「ロブ。そういうことじゃなくて。」

「ジリアンに、約束させた。これから練習はサボらないことをね。レインが兄としてジリアンを守るのは当然だ。そうだろう。」

「それは、そうだけど。」

「いいよ。ありがとう、ジゼル。もう遅いから、部屋にもどってて。」

そういうと、レインはヘルメットにあるジゼルの手に手を触れた。

ジゼルは、ふたりのことが心配だったが、自分が心配しても仕方が無いのは理解していた。

ロブは、運転席に乗り込むと、計器類を確認した。

その姿をレインは横目で見ていた。

「じゃ、気をつけてね。」

「面倒かけてすまない。もどって、休んでてくれ。」

ジゼルは二人に手を振った。

ロブはジゼルに手を上げて挨拶をした。

レインは小さく左手で手を振った。

コックピットのドアが閉まり始めた。

丸い月の明かりをうけた三日月の形の岩山からテントウムシがジェット噴射で飛び出した。

BGM:「月を盗む」元ちとせ



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