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第十六章 赤い山脈 5

現場とは、断崖絶壁の高さが低くて、底が広い場所だった。

そこは、ロッククライミング用の練習場で、谷底の砂地には砂虫除けの柵があった。

日差しが底まできちんと届くため、柵がなくても、砂虫は寄って来ないのだが。

コークスロー中尉の指導のもと、ハーケンとロックハンマーで、壁に打ち込む練習をした。

アップルメイト大尉は、訓練指揮官として、練習風景を監督していた。

アルバートは次第に弱音を吐いて、ダダをこね始めたが、大尉に酷く怒鳴られた。

それはクレアの指示だった。アルバートは怠惰なところがあるが、女性が叱ってやると素直に聞くという話しからだ。

縄はパイロットの装備品としては質量的かさが増すので、強度のある細いワイヤー仕様。

ハーケンをトップに打ち込み式の銃の使い方も教わった。

午前の部を終え、メンバーは現場で昼食をとった。

ロブは、カインと軍の輸送部隊で一緒だったというカイン少尉と話していた。

「カイン少尉、キャスと一緒だったというけど、軍ではどんな感じの男だったかな。」

レインやジリアン、アルバートは興味深深と聞き耳を立てながら食べていた。

「いやぁ、特に変わった特徴は無かったよ。落ち着きのない男だなとは思っていたけどね。」

「輸送部隊の前は、司令部の通信部にいてたと聞いていたんだが。」

「ああ、確かに。噂には聞いていたよ。軟派なら野郎だってね。でも、実際あったら、大人しい男でどうやら無理して女をひっかけたみたいだ。」

「そうかぁ。昨日の夜は、一緒に話をしたらしいが、特に変わった様子もなかったんだな。」

「そうだね。昔と変わらない。悪ふざけは多少したけど、さし当たって迷惑かけたほどでもない。よくあることだろう、若い男なら。」

間があって、カインのほうから話しかけた。

「アレックスの子孫で男前の若い男がレテシアのハートを射止めたって聞いていたが、ロブ、君の事なんだね。」

ブホッ!ゲホゲホッ

レインは口にほおばった食べ物を噴出した。

「ああ、悪い。レイン、君の両親だったね。あからさまな話ししてしまったな。」

ジリアンがレインの背中を撫でてて、ほぐしてあげようとした。

「どこ行っても、その話しだな。珍しいか、レテシアが。」

ロブは無関係のように話しだした。

「ああ、珍しいな。あんなオンナは滅多にいない。」

ジェフは、昔の事を振り返るように話を始めた。

それはスカイロードでの事故のことだった。

3回生の時、1回生の歓迎レセプションで、披露するはずの飛行ショーで、レテシアが背面飛行をして背中合わせに重なって飛行するのがジェフだった。

お互い向かい合って、すれ違いの際重なって飛行するところを、ジェフが直前で怖気づいて、機体を接触させてしまった。

接触した反動で、ジェフの機体が地面に叩きつけられる事を避けるために、レテシアは翼をわざと当てて向きを変えさせた。

ジェフの機体を上空に押し上げ、レテシア自身は地面に激突を避けたものの、重症を負った。

「あんな芸当ができるのは、レテシアしかない。しかも突発事故で最小限の犠牲にとどめる判断力を持っていた。」

ロブはだんまりを決め込んだ。

レインは顔を青ざめていた。レインの様子をみてジリアンは心配していた。

そして、アルバートが口を開いた。

「午後から、飛行訓練なのですよ、マックファット少尉。いまから、そんな怖い話をしないでくださいよ。」

「無謀な行動で命を落としかけるのは、お家芸だなんて、思わせないでほしいね。」

ジェフの言葉にロブは断言した。

「わかっている。俺たちは無駄死にするつもりは無い。」

「そうか、生き急いでいるように思えるがな。フレッドの後を追うようなことはするなよ、ロブ。」

「そこまで、ふたりとも、熱く語らないで頂戴。」

大尉がロブとマックファイト少尉の会話を制止した。

レインは難しい顔をして、小声でジリアンに言った。

「いき急いでいるってどういうこと?」

その言葉に、答えていいものかどうかと、ジリアンは一瞬悩んだ。

「死にたがっているってことだよ。」

「え?!」

レインはロブを見ていた。ロブが死にたがっているって、なぜ?と自問自答していた。

何かを考えているレインの顔を見て、察しがついた。

「レイニー、考えても答えは見つからないから、考えないほうが良いよ。」

レインはふて腐れたが、ジリアンの言うとおりかもしれないと思った。

メンバーが食べ終わって、次の準備を始めようとした。

パイロットのシュタット少尉、マックファット少尉、ジリアンたちは要塞に戻って機体に乗って、現場に戻ってくる。

ロブ、レイン、アルバートが現場で装備の準備などをして、大尉と中尉は地上に駐留して現場を指揮する。

シュタット少尉はアルバートと組むため、現場を離れる時に言った。

「アルバート、君は黒衣の民族カラスのハーフらしいな。」

「ええ、それがどうかしましたか。少尉のこころを痛めるようなことでも。」

「そうだなぁ。俺自身にはなにもないが、身内が殺されている。」

「じゃ、僕に恨みでも晴らしますか。クスッ」

「そうだなぁ、どさくさにまぎれて殺すってのもありかもな。」

「少尉!挑発するのはやめなさい。ペアを組むもの同士でけん制しあってどうするんです。」

大尉が静止したが、二人は耳を貸さない様子だった。

カインはジェフに引っ張られて、連れて行かれた。

アルバートはレインが引っ張った。

地上で待機のメンバー3人は、ヘッドセットにパラシュートを装備した。

断崖絶壁の頂上部分で谷底に向かって飛び出している場所があり、そこに立って風に乗って微妙な機械音がするのを聞いたロブは、大部隊がこっちに到着だなとつぶやいた。

ジェフの機体が谷底からあらわれて、ロブの前で上空に向かって上昇していった。

「了解。ロブ=スタンドフィールドが一番手で機体に飛び込みます。」

ヘッドセットに手をかけた後、ロブは右手を上げて合図をした。

ジェフの機体は、谷底に向かって降下した。

5mほど、後ずさりすると、ヘッドセットに耳を傾け、カウントを自分で数えて、走りこんだ。

断崖絶壁の端から飛び込んで、ジェフの機体の上に飛び移った。

レインとアルバートはその様子をお手本として見て、機体が谷底に落下していくのを確認すると、二人は谷底を除き込んだ。

機体は絶壁に平行して背面飛行をし、ロブは、壁に生えている蔦につかまり、機体から飛び移った。

ロブの様子を、ジリアンとカインは機体から見ていた。

ロブは掴んだ蔦を腰に絡ませ、両足で勢い良く壁を衝くと、左手でハーケンの銃を撃ち、目先5mほど上に打ち込んだ。

ハーケンをロックハンマーで打ち込んで、足掛けにし、上ってはハーケンをワイヤーで引き寄せを繰り返し、頂上に上り詰めた。

レインとアルバートのふたりはロブと同じ事をしなければならなかった。

意を決して、レインは準備をした。

後ずさりをして、ヘッドセットから、指示があるのを待っていた。

指示が出て、カウントし、走りこむと、その下にはパジェロブルーがいた。

何度も、SAFで練習をこなしてきたから、問題ないと思っていたが、着地は不安定なもので、片足は滑りかけたが、両手でしっかりと機体の取っ手を握り締めた。

重心が傾き、機体が傾いたが、ジリアンの操縦桿を水平にもどして、機体は傾きを修整された。

レインがパジェロブルーにつかまって飛行している間、ゴォ~ッという轟音とともに、空挺の団体が要塞に近づいてきた。

ジリアンは大尉の指示により、絶壁に背面飛行するのは待機という通信が入り、地上から上空に向かって上昇していった。

パジェロブルーの翼は太陽光を反射させて、キラキラ光っていた。

その様子が空挺にも見えていた。

スカイロード上官育成学校の生徒が搭乗している空挺で、エミリアは偶然にも窓からパジェロブルーを眺めていた。

レインは大尉から、スカイロード一行が到着したから、今は待機と通信が入っていたので、要塞に近づいている団体の空挺を見つめていた。

「エミリアさんが見ているかな。」

その言葉をつぶやきながらも、もうひとりの存在を思い出さずにはいられなくて、複雑な気持ちになった。

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