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第十五章 白い魚 1

まるで、倦怠期の夫婦のようだった。

それまで、あうんの呼吸で仲が良かったロブとカスターが目も合わさないように接し、お互い仕事に必要な会話以外はしなくなった。

こころを許しあったパートナーだった相手を別の相手に替えていった。

ロブはディゴを、カスターはレインとジリアンを、一緒にいる相手をそれぞれに替えて日常的には過ごしていた。

周囲の人間は、いずれ、時が経てば、仲直りをするだろうと思っていた。

チームワークの乱れにならないかと、心配していたのはジリアンだけだった。

レインは空気が読めない感じで二人の険悪なムードを気にしていなかった。

コーディとアルバートはクレアに思惑があることを知っているので、敢えて干渉しなかった。

ディゴは、クレアになにか策があるだろうと思っていて、ドックにいてる時と変わらない状況で接していた。

ジョナサンは、いつものように、クルーになにがあっても、我関せずだった。

クレアの思惑は、二人を仲たがいさせるということだけではなかった。

カスターはクルーたちが干渉してこないことに、みんながロブに味方していると思った。見捨てられたと思い、自分を追い込み始めた。


パラディーゾデラモンテグナ都市で、災害救助活動は1ヶ月弱に及んでいた。

クレアが治療に従事し、クルーたちは瓦礫の撤去、配給の手伝い、グリーンオイルの精製、死体処理など日々活動に追われていた。

日々の精神的な疲れに、クルーたちは理性を失いかけていた。

暴発したのはロブだった。他の者たちが危惧していたカスターとのことだった。

ことあるごとに不平不満を口にするカスターにロブは切れて殴りかかった。

「お前がこんなに根性が足りないオトコだと思わなかった。根性をたたきなおしてやってもいいぞ!」

一発殴って、気が治まらないので、殴ろうとした時、ディゴに腕を取られて、止められた。

「いい加減にしろよ。根性が足りないのはお前も同じだ。理性を失って、カスターをなぶりものにするな。」

ロブはディゴに取られた腕を引きちぎるように引っ張ると、その場を足で踏み鳴らすように去った。

「キャス、お前は不平不満を口にする前に、ロブやクルーたちの信頼を回復するための努力をしようと思わないのか。」

ディゴの言葉に、冷たく突き放されるような感じがして、反抗的な態度をとった。

「そうか、みんなは俺を信用していないのか。いいよ、信用されなくて。」

ディゴは、カスターの後ろ向きな態度に、少し腹をたて、カスターの胸倉を掴んで言った。

「開き直るな。チームワークの乱れは命取りになる。お前以外の誰かが命を落とすようなことになってはいけないんだ。」

掴んだ胸倉を突き放し、ディゴはその場から足し去った。

「まるで、子供の喧嘩だな。」

その様子を見ていたアルバートはそうつぶやくと、同じように様子を見ていたジョナサンの顔が異様だったので寒気がした。ニヤ着いていたからだ。

アルバートはジョナサンに近づいて言った。

「ジョナサン、あんたいつも、エンジンタンクの給油口を掃除しないよね。」

「え、そうでもないけど。いつも綺麗じゃないか。」

「僕が掃除しているからだけど。わざと汚したりしてないよね。」

「まさか。」

「エンジン技師が給油口を綺麗に保てないなんて、致命傷だよね。無知ってわけじゃないよね。」

「あはは。無知だったら、技師なんてやってないし、返上しないとだめだね。アルは俺を疑っているわけ?」

「そうでもないよ。ただ、釘を刺しておくよ。僕は空を飛べるだけじゃなくて、グリーンオイルにもエンジンにも知識があるから。」

「はいはい。覚えておくよ。クレアさんに言いつけるわけじゃないだろう。

勘弁してくれよ。女性に殴られたくはないからさ。」

いつまでも、ニヤ着いているジョナサンをアルバートは睨み付けていた。

カスターはより一層暗い顔でふらふらと歩みを進めて、SAFの自分の部屋に行った。

夜になると、食事もとらないカスターを心配して、コーディが声をかけたが、返事はなかった。

そして、アルバートがカスターの部屋に無理やり入室した。

「アル、勝手に僕の部屋に入るなよ!」

アルバートは無言でカスターを抱きしめると、ベッドに押し倒した。

カスターは度肝を抜かれてあわてて、アルバートを押しのけようとしたが、力が強くて出来なかった。

「やめろよ!」

カスターはアルバートの肩を殴ったり、足で足を蹴ったりしたが、カスターを放したりしなかった。

さらに強く抱きしめた。

身動きつかなくなったカスターは叫んだ。

「やめろよ。アルバート!」

アルバートはカスターの耳元に口を持っていき、囁いた。

「泣きたい時は泣いたほうがいいよ。僕が受け止めてあげるよ。」

カスターは泣き始めた。アルバートは強く抱きしめた腕を解き、カスターの顔を自分の胸にうずめ、カスターの頭を包み込むようにした。

カスターは引きつりながら、泣き続けた。ふたりはベッドの上でただ、抱き合って寄り添うだけで、小一時間を過ごした。


SAFは災害救助活動の任務を解かれて、パラディーゾデラモンテグナ都市を離れることになった。

SAFが都市を発った後、カスターがいないことに気がついた。

ロブはなにかを足で蹴って怒りをあらわにした。

「あいつ!」

クレアは知らぬ振りを決め込んでいたが、ディゴがなにか言いたそうだったのを横目でみていた。

ジリアンが心配してうろたえていた。

「ロブ、心配しなくても、大丈夫だよ。僕がカスターを慰めたから、気が済んだら、もどってくるよ。

僕が優しくリードしたので、もうすっかり・・・。キャスって初めてじゃないよね。」

「アル、お前・・・。」

アルバートの言葉にロブが爆発寸前になっていた。

「ロブ、アルの言うことを真に受けるなよ。」

クレアに言われて、その爆発の矛先をロブはクレアに向けようと睨んでいた。

「アル、こういうときに、ロブをからかうのはやめなさい。」

ロブがクレアに言葉を投げかけようとした時、ディゴがクレアに言った。

「キャスに何をさせようとしているんだ。」

その言葉に、ロブは我に返った。

開けた口がふさがらない間抜けなロブの顔をみながら、クレアは口元に笑みを浮かべて言った。

「白い魚を釣るんだよ。」

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