第十四章 まさか 女難 4
シャワーを浴び終えると、ボーイが下着とバスタオルを持っていて、レインに手渡しした。
レインは恥ずかしくてたまらなくて、たじろいでいると、ボーイはレインに背を向けた。
レインが下着を身につけると、ボーイはそばにあった紙袋から、カットソーとパンツを取り出し、レインに着替えをさせた。
レインの髪をボーイは整えて、顔に化粧水を塗って、香水を振り掛けた。
ボーイはレインの指先に汚れが残っているのを洗面台で洗ったが落ちなくて、レインをシャワー室から連れ出した。
ある部屋に通されて、ドアが開くと、そこには、全面ガラス張りの部屋だった。
あられもない災害の状態を目の当たりにできる部屋だった。
「うわぁ~。」
ガラス越しまで近づいてレインはただ、驚くばかりだったが、ミセス・ロックフォードは飲み物を手にし、ガラス越しに下を覗きこんでいた。
「自然災害のまえでは人間って無力ね。」
ミセス・ロックフォードはそういって、レインの方へ振り返った。
「まぁ、綺麗な顔立ちに似合わないような筋肉質なのね。」
レインは自分の格好を改めて見直してみた。
上に来ているカットソーは肌に密着していて、胸がすこし盛り上がっているのがわかり、胸の下の腹筋が割れている様子に自分の手でさわったりした。
「そうだわ。あなたの本名を聞いてなかったわね。」
「あ、すみません。僕、レイン=スタンドフィールドといいます。」
「え、スタンドフィールド?」
「ええ。」
「アレックスの子孫なの?」
「ええ、まぁ、そうです。」
ミセス・ロックフォードは飲み物をサイドテーブルに置くと、腕組みをした。
「まぁ、それはすばらしいわ。私、アレックスの本を書こうかとおもっていたところなの。」
「アレックスのですか。」
「そうよ。彼の輝かしい功績を称えるのではなくて、人間らしさや男らしさなど彼は神ではないっていう意味合いのものを書きたいの。」
「はぁ~。」
レインは想像にもできない様子で、ミセス・ロックフォードを見ていた。
ミセス・ロックフォードはレインの肩越しを指差した。
「あれがスカイエンジェルフィッシュ号かしら。」
レインが振り返ってみると、オレンジ色に黒の縞模様の空挺が飛んでいた。
「そうです。クルーが到着したんだ。まだ、着陸許可がもらえないのかな。」
ミセス・ロックフォードはレインの背後から手を回して、レインの手を取り、指先を見ていた。
「指先の汚れは落ちなかったのね。」
ボーイは、申し訳ありませんと謝った。
レインの背中にミセス・ロックフォードの胸が当たり、首筋に吐息がかかる。
全身が紅潮していくのを感じてレインはつばを飲み込んで、冷静になろうとした。
「クルーって、あなたの家族がいらして?」
「ええ。どうしてですか?」
レインはしばらく間をおいて答えた。
「知っているわ。黒衣の民族に襲撃されてアレキサンダー号が破壊された話しを。
そして、クルーのひとりでスタンドフィールドの人間が亡くなったことも。」
レインはこころのなかで、フレッドのことだとつぶやいた。
「もうひとり、いらしたわね。美青年だって聞いているわ。あなたはその方に似ているのかしら。」
「さぁ。僕は母親に良く似ているって言われます。」
目を節目がちにレインは答えた。
「あなたのお母さんは幸せかしら。」
そう言われて、ただ驚いていてレインは何も言わずにいた。
「思ったとおりね。レジーナの呪いね。」
「レジーナの呪い?川の氾濫とか、災害に見舞われたりしたけど・・・。」
「女難なのよ。オンナを不幸にするって言われてるの。知らなかった?」
レインはまた、黙り込んだ。
「女性問題に常時巻き込まれ、愛した女を幸せにできないというレジーナの呪い。
アレックスの幸せをねたんで、子孫の男子は女難になるという呪いをかけたのよ。。」
「そんなこと、ありません。母は不幸ではありません。僕たちの仕事は命の危険と隣りあわせで、黒衣の民族とはたまたま交戦したのをきっかけに狙われるようになったって。」
ミセス・ロックフォードはレインの様子を含み笑いで眺めていた。
レインはその様子に苛立ちを感じた。
コンコン
部屋のドアのノックが聞こえた。
「ロックフォード様。ご注文の品が用意できましたので、お持ちしました。」
「中に入って頂戴。」
ボーイがドアを開ける音がして、先ほどの店員が中に入ってきた。
紙袋の中から、紳士服を取り出し、ソファーの上に掛けた。
ミセス・ロックフォードはボーイを手招きした。
「彼に着替えさせて頂戴。」
「かしこまりました。」
ボーイは服を腕にかけて紙袋と取り、レインに別の部屋へ行くよう手招きした。
レインがいぶかしげに見ていると、ミセス・ロックフォードは瞬きをして部屋へ行くよう促した。
部屋に入って、ボーイはレインの着替えを手伝った。
店員は支払いのサインをもらうと、お辞儀をして部屋を出た。
ミセスロックフォードがガラス越しをまた覗くと、SAFは着陸態勢に入っていた。
レインが着替えを済ませて部屋を出てくると、ミセスロックフォードは電話をしてて会話を終えたところだった。
「素敵だわ。見違えるようよ。わたしのお手伝いはここまでね。離陸許可が下りて、出発の準備ができたみたいだから、わたしはホテルをチェックアウトするわ。
ロビーまではボーイに案内させるわ。エレーナには私から連絡しておくわ。」
「あ、ありがとうございました。」
「お礼はいいのよ。まだ、あなたがミセスヴェネクトと一緒にここを発つと決まったわけじゃないのだから。」
「え、でも。」
「あなたが紳士服を着た姿をみたかっただけなの。とても、素敵な紳士になれそうね。作業員なんて、もったいないわ。
社交界にデビューさせたいくらいよ。」
レインは社交界という耳慣れない言葉に戸惑った。それは皇族とかがいてるパーティなのだろうかとか考えた。
質問すれば、子ども扱いを受けるに違いないと、言葉を口にしなかった。
「今後も無事のフライトできるように、祈っているわ。」
そういって、ミセス・ロックフォードは部屋を出て行った。
レインは振り返って、ガラス越しに下を覗きこんだ。
SAFは着陸していた。中からクルーが出てくるのが見えた。
ロブは救護部のなかを治療をうけているはずのアルバートを探した。
見つけると、そばにはジリアンしかいなかった。
ロブがジリアンに話しかけようとしたときに、女性に話しかけられた。
「あなたが、レインさんのお兄さんですか。」
ロブは見知らぬ女性に声を掛けられてしばらく、何もいえなかった。
その女性はエレーナ=ヴェネクトでロブにレインを連れ出す話をお願いがてら説明をした。
「それで、レインは?」
「今、知り合いのミセスロックフォードにお願いして着替えをしてもらって、もうすぐこちらに。」
エレーナがあたりを見回していると、レインがボーイに連れられて現われた。
老婦人とエレーナは驚嘆の声をあげ、ロブはレインの姿に唖然とし、ジリアンも驚いていた。
そこへ、着任の手続きを終えたクレアとコーディが現われた。
「おいおい、これはいったい。君はもしかして、レインかい。」
紳士服をきたレインをみたクレアはそういって、驚きもしなかった。
「レインです。クレアさん。まぎれもなく。」
「まいったな。どういうことだ。」
レインは、事情を説明した。そして、ミセス・ロックフォードの話もした。
「いま、何て言ったの?」
「え、白髪の女性。」
クレアの問いにレインが答えると、ロブが口を挟んだ。
「ロングドレスにつばの広い帽子じゃないのか。」
「ええ、そうだけど、知り合いなの?」
クレアとロブはふたりで見合わせた。お互い考えてることが同じである事を確認しているかのようだ。
(厳の縁者か。)
ロブはこころにつぶやき。
(ひっかかってきたか。)
クレアは思った。
「じゃ、俺も一緒に行く。」
ロブが言うとクレアが制止した。
「待て、お前がいったら親子喧嘩して収集つかなくなる。」
「え?そんなことなりませんよ。」
「まぁ、いいから。コロンバ自治区なら、理事長が滞在しているはず。第六秘書に連絡してサポートしてもらおう。
ジリアンも一緒に行くといい。」
「もう、この時間だと今日中には戻ってこられない。保護者も連れて行かないと。」
「なら、キャスがいけばいい。」
「キャスを?」
「コーディ、第六秘書に連絡とってほしい。後のことは頼むわ。」
そういって、コーディを手招きして、そばに近寄らせると、コーディの耳にそっと囁いた。
「スタンガンスティックをレインにもたせて、ジリアンのポケットにメモをいれてあげてほしい。」
クレアはそういって、メモの内容をコーディの耳に囁いて伝えた。
「了解しました。」
そして、クレアはエレーナに笑顔で言った。
「スカイエンジェルフィッシュ号のクルーであるレインがあなた方のお役に立てられるのなら、お連れして結構です。
あと、ジリアンとカスター・ペドロも一緒に連れて行ってもらいたいです。
コロンバ自治区では、私どもを管轄しておりますグリーンオイル財団研究所のものが手はずをしますので、後のことはその者にお任せください。」
エレーナは安堵した顔で、お礼を述べた。
ロブは事の運び具合に違和感を感じていたが、この雑多な状況下でパニックに陥ってもおかしくない災害救援活動に未熟な二人を、置いておくよりましだと思うようにした。
「ロブはアルバートに付いていなさい。」
「え、でも俺も。」
「ディゴがテオ少佐に借り出されることになったから。」
「はぁ。」
「わたしは診療任務につくから、あとはコーディにまかせる。連絡もコーディにしてくれ。」
「了解。」
ロブは腑に落ちない顔をして、クレアが去っていくのを見ていた。
そして、呆れた顔でレインを見ていた。
レインは老婦人に抱きつかれてしまい、身動きがつかない状態になった。
カスターがSAFから降りてきて、やっとみんなのところへやってきた。
「ああ、遅くなってしまった。いろいろ手続きとか大変で・・・。」
「キャス、悪いが、ジリアンと着替えをしてきてくれ。」
ロブはジリアンを手招きして呼び寄せながら、カスターに言った。
「え、どうして?」
「事情はジリアンが説明してくれる。できるだけ、汚れていないものを着てくれ。」
ロブはジリアンに目配せをした。ジリアンはめんどくさそうに、レインの方へ指をさした。
カスターはジリアンの指差す方向をみて、レインの姿をみて、驚いて言った。
「おや、まぁ、どちらの貴公子かと思いましたよ。」




