第二章 レインとジリアン 2
授業を終えると、レインは駐車場でエアバイクのタンクに水を注いでいた。
相変わらず、コリンにはへばりつかれていた。
燃料用のタンクと培養用のタンクがあって、培養用のタンクに水を注ぎ、グリーンオイルの増量をはかる。
空を見上げて、曇っている様子をみていた。
「太陽光が足りないのかなぁ。」
「レイニー、このまま、どこかへ遊びに行かないか。俺の家に来るとかさ。」
「いやだ。」
「即答か。」
「ジルをおいていくつもりはないよ。」
「ジルが一緒なら、いいわけ?」
レインはジルがコリンを嫌っていることを知っていた。
露骨にジルを邪魔者扱いするからだった。
「コリン、いいわけないだろう。コリンはジルに冷たいじゃないか、一緒に行かないよ。」
「だよなぁ。」
コリンは時計をみて、思い出したかのように、用事があると言って去っていった。
レインはコリンからようやく開放されたと同時に、手をとめて、地面に座りこんだ。
座ると尻のポケットに硬いものを感じ、ポケットからそれを取り出した。
方位磁針だった。
それを手にとって、思い出していた。
スタンドフィールド・ドックの岩山の頂上に、レインとジリアンのまんなかにロブがいて、三人は夜空を見上げながら寝そべっていた。
「あれが北極星だ。北はあれを目印に。太陽が昇る方向が西で、夜なら月もそうだ。」
指をさしならがら、方位を知る術を教えてくれた。
星座の話などは、物語を聞かせてくれて、覚えやすくしてくれた。
「地上でも空でも道に迷ったら、方角を確認するんだ。」
夜空にキラキラと輝く星たちに、目を輝かせてみていたレインとジリアンはこころを奪われていた。
両手で二人の肩を抱き寄せたロブは、この二人がいづれ家族をもつようになってもこうやって自分たちの子供たちに教え伝えていく姿を思い描いていた。
3人は、夜空を見上げて、思い描く未来を重ねてみていた。
ジリアンは、校庭のまんなかでうつぶせに寝そべっていて、ラジオを聴きながら、手元の紙に書き込んで空を見ていた。
ラジオから流れているのは気象情報だった。
紙に天気図を書き込み、空の具合をみて確認していた。
校庭に風が強く吹きこむと、足元においてたリュックが転がり始めた。
チャックが開いていたので、中から皮手袋がでてきた。
ジリアンは天気図を飛ばされないようつかんで、皮手袋をつかんだ。
それは、フレッドの遺品だった。
ロブがジゼルに頼んで、ジリアンの手の大きさに作り直してもらったものだ。
ジリアンはそれを手にとって、思い出していた。
スタンドフィールド・ドックの岩山の頂上に、レインとジリアンを膝の上に乗せて、空にある雲を指差しながら話をするフレッド。
「雲粒ひとつひとつに働く力や下にむかっていく気流による力と、雲粒ひとつひとつを支える上にむかっていく流による力がつりあうことで、雲は空に浮かぶんだ。」
積雲や積乱雲が形成されること、大気が安定しているときに層雲や高層雲などが均一に広がることが多いことなど、あらゆる雲の形のときがどういう常態かを話していた。
二人は操縦桿を握り、空を飛び、雲を突き抜けるさまを想像していた。
大きな体でふたりを包み込むように抱きしめるフレッド。
どんな冷たい風が吹きつきようとも、二人は寒く感じることはないとさえ思えた。
われに返ったジリアンは皮手袋を握り締めて、もうフレッドに抱きしめられることがないと思った。
校庭にクラクションが鳴り響いた。
レインがジリアンを呼んでいたのだ。
レインが運転をして、ジリアンが後ろに乗って、エアバイクは走り出し、学校を後にした。
街中を抜けると、しばらく、砂埃の道が続く。
オホス川の手前には川沿いの町並みが広がる。
その道に入ると、レインはバックミラーに物陰から人が出てて合図をする姿が目に入った。
レインが前をみると、両側に二人ずつ、十代後半の男たちが立っているのが見えた。
その男たちは、そろって道に出てきて、レインたちのエアバイクの前に立ちはだかった。
BGM:「星の屑」メレンゲ