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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第十四章 まさか 女難
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第十四章 まさか 女難 1

レインがパジェロブルーの整備をしようとすると、ロブが声をかけてきた。

「レイン。左腕につけている時計はどうしたんだ。」

レインは指すような目でロブを見た後、左腕につけてある革バンドの大きな腕時計をみた。

「もらったんだよ。」

「誰にだよ。」

「誰だっていいでしょ。レテシアママじゃないよ!」

ジリアンはパジェロブルーの操縦席にいてて、二人の会話が聞こえていた。

(また、始まったよ。)

レインの指すような目にたじろぎながら、ロブは続けざまに話しかけた。

「わかっている。そのスカーフはレテシアからのものだろう。だったら・・・。」

「違うもの。」

レインは襟元に隠れたスカーフの端をとりだした。そこには緑色の刺繍でレインの名が縫われているのが見えた。

ロブはそれを見て、ハッとした。

「クレアさんから聞いたんだ。レテシアママが兄さんに送ったスカーフは青色の刺繍だって。」

レインはスカーフの端をまた襟元に入れなおした。

「これはエミリアさんからいただいたものなんだ。レテシアママがスカイブルーのスカーフを気に入っていたことを知ったんだって。」

「だったら、その、その、高級そうな時計はいったい誰から。」

「フェリシア皇女殿下からだよ。」

操縦席から、立ち上がって、ジリアンが言った。

「皇女殿下?!」

ジリアンは操縦席から身を乗り出して振り返った。

「だから、レイニー。そんな重いものを腕につけたら、バランス感覚がくるっちゃうからつけないほうがいいって言ったじゃないか。」

「これさ、気圧や温度計もついているんだよ。高機能時計なんだから、つけていたら役にたつじゃないか。」

二人の会話が聞こえていない状態になり、ロブはしばらく考えていた。

「操縦席に計器類はついているんだし、パジェロブルーから落っこちることになったら、それが命取りになるかもしれないよ。」

「落っこちるなんて、あの時みたいなことは今後ないよ。っていうか、起さない。」

「ねぇ、ロブ兄さん、なんか言ってよ。」

ジリアンがロブに話の矛先を向けようとしたが、ロブは二人の話を聞いていない様子であさっての方向を見ていた。

ジリアンは少し呆れていた。

レインはロブをみたが、干渉されたくないと整備に取り掛かろうとしたが、ロブに左腕を掴まれた。

「何するんだよ。」

「いいから、この時計をはずせ。」

「どうしてだよ。」

「親子で金のかかった贈り物を贈るのが好きにもほどがある。」

ジリアンがにやりと笑った。

「親子って、皇帝は別に・・・・、パジェロブルーのこと言ってるの?」

「そうだ。」

「ジョナサンが言ってたけど、才能ある未来を託せる人材には惜しみなく愛情を注ぐ人物だって。」

「気を惹くためなんだ。皇女殿下もお前の気をひくために高価な時計を贈り物にしたんだ。」

「皇女殿下が僕のことを?!3歳も年上じゃないか。僕なんか、なんとも・・・。」

「だったら、お前は誰に恋をしてるんだ。」

ロブの言葉にレインは顔が赤くなった。恥ずかしくてではなく、腹を立てて。

ジリアンは操縦席の背もたれに肘をつき顎をささえ、二人の様子をみていた。

「僕に恋をしちゃいけないっていうんだ!」

「ちがう。」

ロブは手で頭をかきながら、レインに言った。

「お前、初等科で、同級生の女の子たちにちやほやされて嫌がっていただろう。

女の子たちはお前の気をひきたくて、なにかにつけ、べたべたしていたはずだ。」

「えええ~、だからって、皇女殿下がそんな。」

「皇女殿下から送られたものを見せびらかすようなことはするな。」

レインは、ハッとした。

初等科のとき、一人の女の子にお菓子をもらったことで、他の女の子がその子をいじめたりとトラブルになったことを思い出した。

レインはロブが見ている前で、腕時計をはずした。

「僕はどうしたらいいの。」

しょぼくれて、レインはロブにいった。

「いままでどおりでいい。お前が誰に恋しようが、お前の自由で、皇女殿下の知るところじゃない。

もし、殿下を傷つけることになってもそれは仕方がないこと。

アレックスとレジーナ女帝の話をじいさまから散々聞かされてきただろう。」

レインは深くうなづいた。

ロブはレインの頭を撫でた。

「お前がそのスカーフをつけていると、レテシアの面影が目に浮かぶ。」

レインがロブを見つめていると、ロブがレインじゃないレテシアをみているのがわかった。

「スカーフはつけてほしくないの?」

「エミリア少尉からいただいたものだろう。大切にするといい。」

「実は、レテシアママからも同じものをもらったんだ。青い刺繍のもの。」

「そうか。」

ウィーンファンファンファンファン。

空挺内でサイレンが鳴った。

カスターが全挺内放送をかけた。

「軍からの要請あり。リゾート地パラディーゾデラモンテグナ都市で大規模な地すべりによる災害が発生したとのこと。

至急、救援に協力してほしいとのこと。」

ジリアンはすぐさま、操縦席に座りなおし、計器類を確認した。

ロブはレインの肩をたたき、言った。

「クレアさんに確認してくるが、先にパジェロブルーで、お前とジリアンとアルとで、現地に急行できるように準備をするんだ。」

「え、僕、行っていいの?」

「災害救助は人数が多いほうがいい。お前たち3人だとまずはグリーンオイル確保になるだろう。救助はできる状態にないからな。」

レインの顔から笑みがこぼれて、ガッツポーズをした。

「ただし、クレアさんの許可をもらってからだ。いいな。」

「はい。」

そのふたりの会話を聞いて、ジリアンは思った。

(なんか、甘いな。)


リゾート地パラディーゾデラモンテグナ都市は標高1,000Mの山間にある都市で、病気や怪我、疲労回復に効果のあるミネラルを豊富に含んだ温泉があり、避暑地を求めた富豪が開発をして、湯治場であるとともに社交場として発展した。

しかし、乱開発が進み、山自体を爆破して、土地を開墾しようとしていた。

地すべりの災害は、計画性のない土地開発のために山を爆破してとてつもない地すべりを起し、リゾート施設を含んだ都市部中心が災害に見舞われた。

クレアの許可をもらい、レインはジリアンとパジェロブルーの操縦席に乗った。アルバートはパジェロブルーの取っ手にしがみつき、いわばアクロバット飛行で、現地に向かうこととなった。

SAFからパジェロブルーはパラディーゾデラモンテグナ都市に向けて発進した。

現地に近づくと、多くの軍関係の空挺が上空を飛んでいた。

空挺からエアジェットが次から次へと地上に着陸する。

空挺事態からも、人海戦術で降り立つのも見えていた。

通信で、着陸の許可をもらったパジェロブルーはホテルの施設で緑地の木々を伐採してつくった広場に降り立った。

アルバートはエンジンが切られるのを確認して、パジェロブルーから降りた。

レインとジリアンはドアを開けて、地面に降りた。

ひとりの軍人が近づいてくるのが見えた。

その軍人がレインの間近にきた。

「お、レテシア少尉かと思ったぞ。」

レインは明らかに見間違えられたが、違うことを認識されたんだということに違和感を感じた。

「え?」

きょとんとしているレインの肩をバンバンとたたいて豪快に笑ったその軍人はディゴのようにからだはでかくないが、屈強な感じだった。

「レテシアの息子だろう。よく来たな。災害救助協力に感謝する。私は空挺第五部隊隊長、テオ=アラゴン少佐だ。」

テオは大きなごつい右手をレインに差し出した。

「あ、イタタ。レイン=スタンドフィールドです。よろしくお願いします。」

レインは左手で肩をなで、右手を差し出して握手をした。

「すまない、痛かったか。」

テオはジリアンの方をみた。

「これまた、フレッドにそっくりだな。」

あきらかに自分のことを言われたことに、ジリアンはすこしふてくされた。

テオが右手を差し出すとジリアンは右手を差し出した。

「ジリアンです。お世話になります。少佐。」

「ああ、よろしくな。」

テオは握手した手を大きく振った。その様子にジリアンは体ごと揺さぶられた。

レインはジリアンがいった言葉にちょっと引っかかって落胆した。

(お世話になりますっていわなきゃいけないんだ・・・。)

レインがきょろきょろしていると、パジェロブルーの機体の下から、アルバートが出てきた。

ジリアンがアルバートをテオに紹介した。

「こちらが、もうひとりのクルーでアルバートです。アル、こちらがアラゴン少佐。」

ジリアンはそつなく、紹介した。

レインは面目なく、肩を落としていた。

「よろしくな、アル。」

テオはアルバートと握手をした。

「あ、はい。」

アルバートは人見知りをしていて、テオと目を合わせないようにした。

「エメラルダグリーン号には通信が行き届かなかったみたいで、こちらに来れないみたいだな。レテシアには会ったのか。」

レインはテオを見上げて、首を振った。

「いいえ。ママを知っているのですか。」

「ああ。わたしはレテシア少尉が所属していたホーネットの隊長をしていたんだ。

ちなみに、別離した後、ロブを蛸殴りにした。」

テオはそういうと豪快に笑った。

レインとジリアンは唖然としていた。

「とりあえず、ホテルのなかに入ってくれ。そこに対策本部が置かれている。そこで指示を仰いでくれ。」

「了解しました。」

ジリアンはつかさず返事をした。

テオはその場を立ち去った。

レインはジリアンにいろんな意味で遅れをとっている気がした。

テオの姿が見えなくなって、アルバートがつぶやいた。

「俺、あの人苦手だな。」

その言葉に、レインはちょっと安心した。

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