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グリーンオイルストーリー ~空の少年たち~  作者: 久川智子
第十三章 手紙と贈り物
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第十三章 手紙と贈り物 4

レインがパジェロブルーの翼を撫でていた。

ところどころ、傷があるが、深くまでいってない。

アルバートがパジェロブルーを操縦していて、クレアに無茶を言われて、飛行している様子が目に浮かんでいた。

そんなレインの姿をロブはみていた。

「もう少しの我慢だ。」

レインはロブの声がするほうを向いた。

「今度停泊するレイクオンクラウドで、レントゲン撮影したら、操縦できるかどうか判断するって言ってただろう。」

レインはだまったままで、うなづいた。

ロブは黙っているレインの様子に考えていることが何なのかわからないと思った。

「このパジェロブルーは皇帝がつくらせたものなんだってね。」

レインの言葉にロブは思った。

(ジョナサンが余計な事を言ったか。)

「レテシアママが考えたものだって、聞いたよ。」

「だから?」

「だからって・・・。ママがどんな想いで描いたのだろうって、思いながら、撫でてていた。」

そういうことかとロブは心の中でつぶやいた。

「レテシアは、スカイブルーが好きだった。どんな時でも、首にはスカイブルーのスカーフを巻いていた。」

ロブがそういうと、レインはエミリアが首に巻いていたスカイブルーのスカーフを思い出した。

「あの時の、レテシアはこの翼のように、青くキラキラと輝いていた。」

「あの時?」

レインが聞き返すと、ロブは顔が真っ赤になった。

その様子をみて、レインは驚いた。

そして、ロブにいじわるな言葉をかけてみた。

「兄さん、レテシアママが分かれた後、どうしたか知っているの?」

うつむいて目を伏せて、低い声でレインは言った。

ロブは最初何を言おうとしているのかわからなかったが、考えていくうちに思い至った。

「アクロバット飛行のショーのことか。」

「うん。」

「知ってるさ。」

「ママは苦しんでいたのでしょう。アクロバット飛行のショーって、命の危険と隣あわせじゃないか。」

「そうだな。だが、俺にはもう何もしてあげられなかった。」

ロブに対して他人行儀な言葉にレインは失望した。

「キース=ロックフォードさんとのことは・・・・。」

「そんなことを信じるんじゃない。」

「そう、仕向けたのは兄さんじゃないか。」

レインの目に涙が滲んできて、手で押さえた。

「あれは噂でしかない。真実は当人たちだけしかわからないことなんだ。

レテシアを追い詰めてしまって、そういうことになったというのなら、確かに俺が仕向けたことだ。

お前には、まだ理解できないと思う。それを言い訳にするつもりはない。

だが、お前はレテシアの息子だから、レテシアを悪いようには考えないでいてほしい。」

ロブはレインの両肩を抱いて言った。

「頼む。」

レインは、顔を赤らめたロブと今「頼む。」と言ったロブの気持ちは同じ気持ちでいると感じた。

レインの中で、今、目の当たりにしている、ロブがレテシアを愛していたあの時の様子に対して、自分はどうしたらいいのかわからなかった。

ただ思った事を口にした。

「あの時があったからこそ、僕は生まれてきたんだね。」

レインはロブの目を見つめて言った。

ロブは次第に顔が赤くなってきて、両手で抱いていたレインの両肩を放した。

レインの目から逸らして、レインに背を向けたロブは言った。

「そうやって、恥ずかしい事を平気でいうところは、レテシアに似ているよ。まったく、参るよ。」


山深いところに、湖があり、湖のそばに街があった。

SAFはそこへ停泊した。

クレアは街から湖を眺めて思った。

(スワン村に似ているな。)

スワン村はコン・ラ・ジェンタ皇国の北にあり、いまあるレイクオンクラウドは南にあった。

標高約5,000Mの山脈に囲まれて、標高約2,000Mにある湖は氷河の水溶けが集まったものだった。

スワン村と違って、晴れていることが多いのが特徴で、霧に包まれることがあっても、ほとんどが湖のしたにあったからだ。

天候が良いため、農作物も豊富に獲れ、人の流れも充実していて街は繁栄していた。標高が高いという難点を覗いてはとても良い街だった。

他国から狙われることもあったが停戦している状態で、軍が駐留していて平安が保たれていた。

軍の施設にSAFは停泊して、補給をした。

カスターは軍の通信部と交信していた。

「SAFに荷物があるのです。そちらに向かっている補給部隊があるので、到着するまで滞在してもらえませんか。」

カスターは軍の要請に返答するのをしばらく待つよう言った。

クレアがレインをつれて、SAFを出ようとしているところを捕まえて、判断を仰いだ。

「別に何日か滞在してもかまわないさ。ロブとディゴに話を通しておいてよ。」

「了解しました。」

カスターは、今後の行程を考慮しないといけないので、ロブとディゴに軍の要請をつたえ、軍に対して快諾と返答した。

「荷物って、何でしょうね、クレアさん。」

クレアたちはSAFを出た後、軍が用意してくれたエアバイクに乗った。

「さぁな。おおかた、手紙の返事だろ。ディゴとジリアンが頻繁に手紙出しているけど、こちらに届く当てがなかったからなぁ。」

「ああ、そうですね。」

レインはレテシアに手紙を書いたから、返事が来るかなと考えてみた。

ふたりはレイクオンクラウドの街中にむかって走り去った。

ジリアンとアルバートは水を補給する作業をしていた。

ジリアンはアルバートと口を聞こうとしなかったが、アルバートはことあるごとにジリアンにちょっかいをだしていた。

ちょっかいを出されて、反応すると調子に乗ると思って、相手にしていなかったが、作業がはかどらないので、ジリアンは怒った。

「真面目に作業しないと、クレアさんに言いつけるよ!」

「うわぁ、怖い、ジリアン。言いつけるだなんていわないでくれよ。」

「僕だって、怒りたくないよ。ちゃんとやってよね。」

「僕だって、仲良くやりたいよ。ジルが口聞いてくれないからさ。」

ジリアンはふてくされた顔で作業を続けていた。

その様子を遠くからコーディは眺めていた。

(アルバートさんはクレアさんに言われて、ジリアンさんを怒らせているのでしょうが。)

クレアの意図を読んでいて、コーディはジリアンが背負っているものを軽くさせようとしているのだと考えていた。

ジリアンが知らない、セシリアのもう一人の子供と対峙するときのために。


レインのレントンゲン撮影が終わり、仕上がったものをクレアは見入っていた。

蛍光灯に写真を当てて、レインに話しかけた。

「いいか、レイニー、よく見るんだ。この真ん中の肋骨にひびが入っているだろう。

これが肺に刺さっていたんだ。」

外科手術で刺さった肋骨を元に位置にもどるように固定させた。

その時はあきらかに骨と骨との間に空間があった状態だった。

「ひびが入っているだけだと思いがちだが、これを甘く見ていると、またずれてしまう。」

クレアの言葉でレインに不安がよぎった。

「パジェロブルーに乗るにはまだ、時間がかかるな。」

「そんな。これぐらいで・・・。」

「さっきも言っただろう。甘く見るなって。」

レインは肩を落としたものの、思った事を口にした。

「いままでだって、早く回復できるように、がんばってきた。みんなの足手まといにならないようにって。

これからも、まだ、みんなに迷惑かけちゃうなんて、嫌なんだ。」

クレアはレインの目をみて、ため息をついた。

「レイニー。あたしとロブとでよぉく話し合って決めたんだ。SAFで治療続ける事をさ。」

レインは少しふてくされながら話しを聞いていた。

「お前を研究所の病院に完治するまで置いてもらって、後で合流する手もあったんだ。」

「そんな・・・。」

「どっちが良かったなんて、聞くまでもないよな。」

レインは黙ってうなづいた。

「みんなに置いてけぼりされて、僕だけ病院で治療なんて、つらいです。」

「よぉし、いい子だ。わかればいいんだよ。みんな、お前が以前みたいに動けないからって迷惑だなんて思ってないさ。

いらん気遣いなんてしてないだろう。まぁ、アルバートにはちょっかいださないようにと言いつけてあるけどね。」

クレアはクスッと笑った。レインは苦笑いしていた。

アルバートにとって、本調子がでないレインは格好の良い虐め相手になるからだった。

クレアとレインがSAFにもどると、予定より早く軍からの荷物が届いた。

カスターが受け取り、個々に配って回っていた。

レインには封をされた紙袋が手渡された。中に何が入っているのかわからないようになっていた。

カスターは中身が何であるのか、知りたがっていた。

「レイニー、やけに多い荷物みたいだね。何個か中に入っているみたいだ。」

手渡されたものを受け取ったレインだが、紙袋には何も書かれていなかったので、誰からなのかわからなかった。

「ここで開けてみない?」

カスターの顔がにやけているので、レインはにらんで言った。

「いいよ。部屋のなかで空ける。」

「チッ。」

カスターが即座にふてくされた顔をしたので、レインはかみついた。

「今、チッって言った?チッってどういうことなんだよ、キャス。」

カスターはあわててその場を取り繕った。

「わわ、なんでもないよ。そう聞こえた?そんなことしたつもりはないよ。」

レインはカスターを一瞥して、その場を去った。

レインの後姿をみて、カスターは思った。

(怖い怖い。最近、ロブに似てきたな。)


レインは自分の部屋に入ると、中身を開けた。

薄っぺらな手先から肘までの長さの箱が二つと、ずっしりと重たいような手のひらサイズの箱が入っていた。

薄い箱には手紙が張り付いていて、ひとつはレテシア=ハートランド、もうひとつはエミリア=サンジョベーゼとあった。

手のひらサイズの箱とは別に手紙があって、それには、皇女フェリシアと書かれていた。

「え?どうして?」

レテシアからの手紙は、レインが手紙を書いたのでその返事だというのがわかるが、エミリアとフェリシアの手紙の意味がわからなかった。

エミリアの手紙はレインにとって思っても見なかったことで嬉しくてしょうがなかったが、フェリシアから手紙をもらう理由が不思議だった。

「そういえば、コーディが手術中に様子を伺いに来ていたとかって言ってたかなぁ。」

レインはこころを躍らせながら、最初にエミリアの手紙にはさみを入れて、封を切った。

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