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第十二章 旅立ちのとき 10

登場人物


レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)

ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟<従弟>・愛称ジル)

クレア=ポーター(クルー。医者)

コーディ=ヴェッキア(クルー。看護士)


エミリア=サンジョベーゼ(スカイロード上官育成学校1回生。皇女殿下のルームメイト)




レインが目を覚ますと、そこはベッドの上だった。

「お、レイニー、目が覚めたかい。」

クレアがかけた言葉に、反応を示したものの、意識をはっきりとさせることができなかった。

しばらく、目を開けたり、閉じたりしていて、そして言葉を発することができなかった。

「まだ、無理かな。」

クレアの言葉もはっきりと聞こえなかった。眉間にしわを寄せて、自分がどうなったのか思い出そうとしたが、なかなか思いだせなかった。

目がはっきりと開くことができたとき、クレアを凝視し、近くに誰かいるのだが、誰なのかと考えていた。

クレアのそばにいたのは、コーディだったのだが、レインが思い出すのに時間がかかった。

思い出すことを諦めて、レインは目を閉じた。

そして、眠りについた。

レインは再度目が覚めて、天井を眺めていた。

ベッドがかすかに揺れているのを感じていたし、なにか振動するものとシンクロした音が聞こえていた。

横を向くと、白衣姿のクレアが後ろ向きに立っているのが見えた。

そのそばに白い制服姿のコーディが横向きに立っていた。

コーディがレインの方に目が行き、レインが目覚めているのを知った。

そして、コーディがレインの方へ顔を向けると、クレアがその様子に気がついて、後ろを振り返った。

「お、レイニー、調子はどうだい。」

レインはようやく、自分になにが起きたのか思い出した様子で、頭を触ろうとして手を動かそうとしたが、手はベッドの手すりに縛り付けられていた。

「ああ、ごめんごめん。今はずしてあげるよ。」

「わたしがします。」

コーディがレインの腕に巻かれたものをほどいてやった。

「僕、どうなったんですか。あまりよく覚えてなくて。」

レインは上半身を起そうとしたが、コーディが制止した。

「すぐにはよくならないので、寝ててください。」

クレアは、レインのベッドのそばにあった椅子にすわった。

「レイニー、あんたはこのスカイエンジェルフィッシュ号の最初の患者だ。」

「え、ここはスカイエンジェルフィッシュ号ですか。」

「ああ、もう、研究所を出発してしまったんだ。」

「そ、そんな。」

クレアはレインにことの顛末を話した。

パジェロブルーで帰還した後、レインは頭の傷の出血が激しく、止血を施す前に呼吸困難を起してしまい、緊急手術に入った。

呼吸困難になってしまった原因は背中の肋骨が折れていて肺に刺さってしまったからだ。

手術は成功したが、日程を遅らせるわけには行かず、そのまま、スカイエンジェルフィッシュ号に乗せて、回復させることになった。その間、レインは麻酔でずっと眠らされていたのだ。

麻酔で眠らされていたのは呼吸器をつけていたからで、うまく言葉を発することができなかったのは呼吸器をはずして間がなかったからだった。

エミリアは白髪の男に胸を蹴られてしまい、肋骨を折ってしまっていた。研究所の病院に入院して治るまでいることとなった。

派手な出発式を催すはずができなくなり、お忍びで着ていた皇帝と招待されて参加する予定だった皇女フェリシアはレインの手術を心配しながらも手術が終わる前に研究所を皇族専用機で発った。

セシリアはクルーに会うこともなく、セイラをつれて、研究所を去った。

理事長のデュークは後始末や結果報告に追われて、研究所に残った。

「エミリアさんの様態はどうなのでしょうか。」

レインはエミリアのことが気になって仕方がなかった。

その様子にクレアは不憫に思って言った。

「全治3ヶ月かな。1ヶ月で退院した後、通院しながら学校に復帰するらしい。」

その後、コーディが皇女フェリシアからの伝言を伝えた。

フェリシアがスカイロード上官育成学校に入学したのは、レテシアに憧れていたからだと言う話で、レテシアの息子であるレインの活躍を楽しみにしているということ。一刻も早い回復を祈っているとのことだった。

クレアは白衣のポケットから何を取り出し、レインに渡した。

「戦利品だ。」

レインが受け取った物を手にして見ると、それは赤茶けた布だった。

「これは何ですか。」

「レイニーの頭に巻きつけられていたものなんだ。捨てようと思ったんだが、ジリアンから話を聞いて取っておいたんだ。」

クレアにそういわれても、何のことを言ってるかわからなかった。

「ジリアンが言うには、その布はエミリア上等兵が胸元に手を突っ込んで取り出したものらしい。

ナイフで切り刻んでいたらしいがね。これ以上言わなくてもわかるだろう。」

レインはその様子を創造した。下着にしては、ぺらぺらな布なのだ。

レイン自身、搭乗服を着たとき、下にTシャツを着たのを思い出していた。

「戦利品だろ。エミリア上等兵の肌に密着させていたものなんだからさ。」

クレアの言葉にレインは興奮気味に言った。

「僕は変態じゃありませんよ。」

コーディはクレアに忠言した。

「戦利品って言い方は変ですよ、クレアさん。」

クレアは笑って言った。

「でもさ、エミリア上等兵との思い出の品なんだよ。」

そして、笑いを止めて、真面目な言い方をして言った。

「好きなんだろう、レイン。エミリア上等兵のことが。」

レインはその布を見つめて、躊躇したが、しばらく間をあけて言った。

「はい。好きです。」

クレアとコーディは、微笑んだ。

「いい子だ。レイニー。その気持ちを大切にするんだ。」

クレアはレインがロブと同じじゃなくて良かったと心底そう思った。

「好きな異性がいることで、レイニー自身が命を大切にすることを自覚するんだ。

いいかい、よくお聞き。またエミリア上等兵に会いたいという気持ちをもって、命を落としたりしないことなんだ。」

クレアの言葉にレインは大きくうなづいた。

「そうすることによって、僕はエミリアさんに答えていくんですね。

僕、注意されていたんだ。無茶をしてはいけないって。こころにきざみつけておきます。」

レインは目を閉じた。まぶたにはエミリアの笑顔が映っていた。


一ヵ月後。

スカイロード上官育成学校、校長室にて、学生がひとり入室した。

「二回生のエミリア=サンジョベーゼ上等兵です。」

校長はエミリアへソファに座るように支持をした。

エミリアはソファに歩み寄ろうとしたとき、、校長室の書棚に飾られているトロフィのなかに、女性の写真が飾られているのが見えた。

その写真をみて、エミリアはハッとして立ち止まった。

「どうかしたかね。」

「あ、いえ。失礼しました。」

「いや、かまわないが。君には任務を遂行したとはいえ大変な目に会わせてしまった。

学業も訓練もまだ間に合わない状態だというのに。」

エミリアはソファに腰をかけた。

「お父上も大変心配されている様子だった。申し訳なく思っている。」

「そのようなことは気になさらなくても、任務なのですから。」

「時に、君には婚約者がいるらしいね。」

「はい。親同士が決めた婚約ですが。」

「お父上も君の事を案じて、決めたことだろう。嫁入り前の娘に傷をつけてしまうのはこころが痛んで仕方ないがね。」

「わたくしは、国家のために自分ができることはないかとそのことを求めてこの学校に入学しました。

そのことは父も快く思っていたはずです。」

「しかし、それは兄君が健在だということが前提だろう。」

親子の話から別の話しに切り替えようと、エミリアは自身で得たこの任務の意味を校長に語った。

エミリア自身が知らない軍部の情勢や研究所の必然性、スタンドフィールドドックの存在、国家の安全の状態など、いろんな意味で勉強になったことを語った。

「学年を進級したのですから、一刻も早く病状を完治させて、勉学や訓練に追従したく思っております。」

「まぁ、あまり、事を急いて、仕損じることもあるまい。気に病まないように。」

「温かい言葉をいただきありがとうございます。」

エミリアは立ち上がって、深く礼をした。

「つかぬことをお伺いしますが。」

「何だね。」

「あの写真の女性はどういう方でしょうか。」

エミリアは書棚の女性の写真を指差して校長に尋ねた。

「レテシア=ハートランド少尉だね。」

エミリアはその名に覚えがあった。皇女フェリシアが憧れているパイロットの名だった。

「その写真は我が校を卒業したときのもので、優秀な生徒だったが、事故が起きて怪我をしてしまってね。

その後いろいろあったが、復学してきちんと卒業をしたんだ。事故がおきてしまった戒めに写真を飾ったあるんだよ。

優秀な生徒を事故で怪我をさせないためにね。」

満面の笑顔で映った写真をみて、エミリアはレインの笑顔を思い出していた。

エミリアは校長に皇女フェリシアが憧れているパイロットがレテシアである事を話した。

「わたしもそのような女性パイロットになりたいと思います。

人の心に笑顔を残し、勇気を与えられるような。」

校長は微笑んで大きくうなづいた。

「君の活躍を楽しみにしているよ。」

エミリアは深くお辞儀をして、校長室を退室した。


レインはベッドでの寝たきり状態から回復したとはいえ、以前のように動き回るほど回復はしていなかった。

コーディに指示を仰ぎ、筋肉トレーニングをしながら、リハビリしていた。

パジェロブルーではジリアンが操縦して出動する場合とアルバートやロブが操縦して出動する場合があった。

出動しないときのジリアンは、空挺の眺望台にいてた。

そして、手にした写真を眺めていた。

その写真はコーディとセイラが写っていた。

コーディはジリアンに言った。

「隠しておくつもりはなかったのですが、会うまで実感がわかないものだろうと思っていたので敢えていわなかったのですよ。」

セイラの存在をジリアンに言わなかったことをコーディは謝った。

ジリアンは気にしないでほしいと言ったが、コーディは一枚の写真を差し出した。

「良かったら、差し上げます。わたしが映っているものですが。」

ジリアンは躊躇したが、内心嬉しかった。

セイラが満面の笑みでコーディに抱かれていたからだった。

ジリアンはコーディの言葉に甘えて、その写真を受け取った。

その写真をジリアンは肌身離さず持って、いつかはセシリアのことを許せる時が来るのだろうかと考えた。

ジリアンには、白髪の男がロブを憎んでいる事情を知らないが、理解するときがくるのだろうかとも考えていた。

そして、憎しみは悲しみを生み出すだけで、幸せや笑顔を生み出さないことをジリアンは思っていた。

(だから、僕は、レイニーは、ロブ兄さんや、みんなは旅をするのだろう。)

そして、スカイエンジェルフィッシュ号はクルーたちの思いを乗せて、空をゆく。

BGM:「human」サカナクション


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