第十二章 旅立ちのとき 8
登場人物
レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)
ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟<従弟>・愛称ジル)
ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄<実父>)
コーディ=ヴェッキア(クルー。看護士)
デューク=ジュニア=デミスト(現グリーンオイル財団理事長)
セリーヌ=マルキナ(デューク=ジュニア=デミスト理事長の第六秘書)
エミリア=サンジョベーゼ(スカイロード上官育成学校1回生。皇女殿下のルームメイト)
スカイロード上官育成学校2回生
黒衣の民族
白髪の男(黒衣の民族)
第六秘書のセリーヌ=マルキナに案内されて、コーディは理事長デュークの部屋を訪ねた。
「失礼します。」
「入りなさい。」
デュークは応接セットのソファにすわり、向かいのソファに向かって、手を差し出し、コーディに座るように促した。
コーディは最初遠慮したのだが、秘書のセリーヌに促されて座った。
「クルーとしてやっていけそうかな。」
「ええ、もちろんです。」
「娘のセイラはいたく君を気に入っていたのだがね。」
「そうですね。でも、実の母親にはかないませんよ。代わりにはなれません。」
コーディは前理事長亡き後、デュークの屋敷で雇われたのだが、セイラがなついてしまい、母親のセシリアを嫌がるようになったので、コーディをクルーのメンバーに加えるよう言い出したのがセシリアだった。
コーディはこの話を承諾したのは、デュークの屋敷で雇われても、前理事長の死の真相をつかめることができないだろうと直感的におもったからで、その手段としてスカイエンジェルフィッシュ号のクルーになれば何かわかることがあるかもしれないと思ったからだった。
「ところで、コーディ。クレア先生とは信頼関係を持っているのかな。」
「もちろんです。信頼なくして医療に従事できません。」
「クレア先生は君に、スワン村へ言った話はしなかったかな。」
コーディは自分がここへ呼ばれた理由がスパイの役目をさせようということだとうすうすわかっていた。
「いえ、聞いておりませんが。スワン村とはどういう村ですか。」
コーディは探りをいれるため、知らない振りしてデュークから聞き出そうとした。
「いや、聞いてないのならいいんだよ。たいした村じゃない。都市伝説みたいなものなんだよ。」
「都市伝説?」
「医者や研究者がいきたがっている蜃気楼みたいな神出鬼没な村だそうだ。そこにあるのにたどり着けない。」
「はぁ、そんな村があるのですか。」
「ときに、そんな話がでてきたら、わたしに報せてほしいのだが。」
コーディはしばらく考え込んでいた。そして、拒否した。
「先ほど、申し上げましたが、信頼なくして医療に従事できません。わたしにスパイするように言われるのでしたら、お断りします。
クレア先生に疑われるようなことをしたくないからです。あの方は鋭い方です。あの人をごまかして秘密の情報を手に入れようなんてできません。」
コーディに言われて、デュークはためいきをついた。
「まぁ、そういうことを言うだろうと予測はしていたよ。」
口元で両手を握り締め、肘をテーブルにつき、目線をコーディに向けた。
「クレア先生は行動力の有る方だ。危険なことと承知の上で今回のことも引き受けてくれた。
もしかしてスワン村に行ったことがあるのではないかと思ってね。できたら、スワン村の情報を得たいと思っているんだよ。」
「では直接お伺いされればよろしいのに。」
「そう簡単には話してはくれないだろう。」
「お役に立てなくて申し訳ないのですが、お話はそれで終わりでしょうか。」
コーディはソファから立ち上がろうとした。
「そうだね。わたしからは特に、ジリアン君のことをよろしく頼むよ。」
「心得ました。」
「ジリアン君はスタンドフィールドファミリーとして自覚していて、反発はしていないようだね。」
「ええそうです。決して、自らファミリーから抜けるというようなことはないですね。」
「わかったよ。ありがとう。時間をとらせてすまないね。」
「いえ。」
コーディは立ち上がると、そのまま、ドアに向かっていった。
「この慈善事業がひと段落したら、また、わたしの屋敷にもどってきてほしいね。」
「そのときがきましたら、お返事いたします。それでは、失礼させてもらいます。」
「無事を祈っているよ。」
デュークに言われて、コーディはお辞儀をして、部屋を出て行った。
クレアとアルバートはスカイエンジェルフィッシュ号に荷物を入れる段取りをしていた。
ディゴとジョナサンは燃料や装備品を点検していた。
ロブとカスターは管制室で天気の概況を確認しながら、航路を組んでいた。
レインとジリアンは搭乗服をきていて、パジェロブルーの点検をしていた。
ジリアンが操縦席に乗り込んで、点検をつづけ、レインは外部を点検し終わり、操縦席に整備されているものを確認していた。
研究所の作業員は一通り点検が終わっていたので、休憩に入っていた。
パジェロブルーのそばには、スカイロード上官育成学校の誘導部隊のエアジェットがあり、エミリアと学生たちが装備点検を繰り返していた。
学生の一人がパジェロブルーに好奇心をお持ち、近づいて、眺めていた。
「これ、すごいなぁ。翼がダイヤモンドコーティング仕様じゃないか。」
エミリアはその言葉が気になって、パジェロブルーに近づいた。
そして、その学生とこっそり話をした。
「先輩、ダイヤモンドコーティングって、攻撃されても傷がつかない仕様ということですよね。
医療目的の慈善事業の空挺がこのような仕様のエアジェットが必要とは思えないのですが。」
「整備技師から、聞いたんだが、このエアジェットは試供品みたいなものだという話さ。」
そういわれても、半信半疑だったエミリアはレインのいるところまで近づいた。
「なかなかいい装備をしたエアジェットね。デザインも斬新だし。」
「そうですか。試作品だという話ですが、僕たちはエアジェットに乗れるだけでも夢のような感じなのです。」
「飛行訓練はこなしているのでしょう。」
「ええ、でもこのパジェロブルーで飛行訓練するのが始めてでしかも、僕はここにきて、乗れるようになったんです。
僕より倍以上飛行訓練しているジリアンがメインで操縦します。」
「短期間の飛行訓練なのね。パジェロブルーって言う名前がついているなんて、名前にふさわしいエアジェットね。」
レインはエミリアと会話ができて、嬉しかった。
エミリアはレインに話しかけながら、操縦席を覗き込み、装備されているものをチェックしていた。
操縦席の後ろ上についてある輪に見覚えがあった。
一回生ではアクロバット飛行についての訓練がないのだが、黒衣の民族が得意とする攻撃がアクロバット飛行なので2回生から訓練しエアジェットがその仕様になっていた。
(黒衣の民族からの攻撃されることが前提のエアジェットじゃないの。どうしてそんな危惧するような装備しているのかしら。しかも少年二人が乗りこなすのに。)
エミリアは不思議に思っていた。
もうひとりの学生はジリアンと会話をしていた。
整備工場に響き渡り声がした。
「ジリアンというガキはどこだぁ。」
声がするほうへみんなが顔を向けると、そこには、黒ずくめの男がふたり、エアジェットのほうへ向かって歩いてきていた。
様子がおかしいので、ジリアンと話をしていた学生はジリアンに隠れているように言った。
すると銃声が鳴り響いた。
男が上に向かって銃を放ったからだ。
その場にいたものは、一斉にしゃがんで身を隠した。
「ジリアンというガキがいるだろう、出て来い。」
レインはスタンガンの入ったホルスターを尻の方へ移動させて立ち上がり、男たちの方へ向かっていった。
「レイン君、出ちゃだめ。」
エミリアがレインに声をかけたが、レインは聞き入れなかった。
男たちはレインのほうを向いた。
「僕がジリアンだ。」
男たちの一人がレインに近づいたうえに、レインの前髪を掴んだ。
「お前はジリアンじゃない。」
レインが男を睨み返すと、男は掴んだ髪の毛を後ろにひっぱった。
「ジリアンというガキは金髪なんだよ。」
それをわかってて、どうして探しているんだろうとおもいながら、レインは手を後ろに回しスタンガンを手にとって、スイッチをいれ、男の腹めがけてついた。
「うわぁ。」
男はスタンガンの攻撃を受けて、倒れこみ失神した。
もう一人の男が銃を構えて、レインを狙ったが、エミリアがパジェロブルーを盾にして、銃をはなち、腕を狙いうちしたので、男は銃を落とした。
レインはその男めがけて頭でつっこんでいった。
「わぁ~。」
打たれた男はレインに突進されて倒れこんだ。
レインは尽かさず、自分のおでこで相手のおでこに頭突きをして、男は失神した。
失神した男の髪に血がついているのをみて、自分の頭を触って手をみたら、血がついているのに気がついた。
頭突きをしたときについたのではなくて、男が首から提げているペンダントがナイフのような飾りだったため、突進したときレインの頭に傷がついた様子だった。
「レイン君、無茶はしないで。」
エミリアは大きな声でレインに言って近づこうとした。
そのとき、銃声が轟いた。
「おいおい。役立たず野郎共だな。」
白髪ロングの黒ずくめの男が銃を持って現れた。
男はエミリアめがけて銃を向けた。
「そこから動くなよ。お嬢ちゃん。」
学生のひとりが銃を持って現れ、その男に向けて撃ったが、命中しなかった。
男はその学生を狙い撃ちし、学生は右肩を打たれて倒れこんだ。
「うわぁ。」
「先輩。」
「動くなといっただろう。後ろを見ろよ。」
男が銃で後ろをさすと、男の後方には、皇女フェリシアが毛布にくるまれたライラを抱いて立っていて、そのそばには黒ずくめの男が銃をフェリシアに向けていた。
「お疲れで眠っている赤ん坊と皇女を撃ち殺すつもりはないが、お前たちが言うこと聞かなかったら、怪我させることぐらいはするぞ。」
白髪の男は、レインのそばまでやってきた。レインはその男をにらめつけていた。
「オンナみてぇな顔してるな。油断したんだろうな、この馬鹿は。」
男は倒れこんだ黒ずくめの男の体を蹴りこんだ。
そして、その足で、レインの顔めがけて蹴りをいれた。
「ぐはぁ。」
レインはその男の蹴りを食らうと倒れ、頭部を打ち付けた様子で気をうしなった。
「レイン君!」
エミリアはレインに駆け寄ろうとしたが、男に制止された。
「ジリアンはどこだ。」
エミリアは無言だった。男はレインに銃を向けた。
「言わないとこいつを殺すぞ。」
「脅しには屈しないわ。」
エミリアは男を睨み返した。
「お~~い。ジリアン。どこかにいるんだろう。こいつを殺されたくなかった、出て来いよ。」
恐怖に震えていたジリアンだったが、レインが撃たれると聞いて、操縦席から立ち上がった。
「僕はここだよ。」
震える声で返事をした。
「ちょうどいいところにいるじゃないか。」
その様子をみていて、フェリシアは憤っていた。
「あなたたちの目的は何なの!」
男は笑い出した。
「あはははは。このときを待っていたのさ。ロブって言う男を絶望のどんぞこに突き落とすことが俺の目的だ。」
ジリアンは背筋に寒気を感じた。
「ジリアン君をどうするつもりなの。」
エミリアは言った。
「どうするかをここで話したら、おもしろくないだろ。ま、あえていうなら、俺の苦しみと同じ苦しみを味わってもらおうかなと。」
その言葉を聴いて、エミリアには理解できなかった。
男は、エミリアに銃を話すよう指示をし、エミリアは銃を置いた。
「ジリアン、そのエアジェットの発進準備をするんだ。勝手に飛んだりなんかしたら、このガキとか皇女がどうなるかわかるな。」
ジリアンは恐る恐るうなづき、席に座りこんで準備を始めた。
エミリアはレインのほうへ、近づいた。
「動くなといっただろう。」
「この子の血止めだけさせてちょうだい。」
どうせ殺すつもりだと思いながらも、男は好きにさせた。
エミリアはレインに近づき、首筋の脈を手にとり、確認し、自分の膝にレインの頭を乗せた。
首に巻いていたスカイブルーのスカーフをはずし、それをレインの頭をもちあげてきつく巻きつけた。
そのきつさに、レインは意識をもどした。
「うぅ。」
「気がついた?レイン君。」
「あ、エミリアさん。」
はっきりと目が見えるとレインはエミリアの顔が至近距離にあることに驚いたと同時に自分がどうなっているか理解できていなかった。
男にけられた顔はあかくふくれあがっていて、口の中が切れているのがわかった。
「手当てが終わったら、立ち上がるんだ。お嬢ちゃん。」
レインは蹴りをいれてきた男の顔が見えて、何があったかを思い出した。
エミリアはレインをそっと起すと、その場で立ち上がった。
男はエミリアの首筋に銃をむけた。
「ジリアンのエアジェットに向かって歩け。」
「わかったわ。レイン君。無茶なことはしないでね。」
エミリアは首を皇女フェリシアにむけてレインに合図を送った。
レインはその様子を見て、フェリシアが銃を向けられていることを理解して、茫然としていた。
男はエミリアを前にして、パジェロブルーの方へ移動した。
エミリアをジリアンの後ろの操縦席に乗せて、男はその上に馬乗りするようにエミリアをまたぎ、銃をむけて操縦席のドアを閉めずにいた。
ジリアンに向かって、発進するように支持をした。
ジリアンは仕方なく、発進させた。
パジェロブルーは前進していった。
そこへ、パジェロブルーの様子をみに、管制室から移動していたロブとカスターが現れ、状況を把握すると、皇女フェリシアに銃を向けている男を倒した。
「レイン、大丈夫か。」
パジェロブルーの様子をみていたレインはロブの声で後ろを振り返り、フェリシアが無事であることを確認すると、パジェロブルーめがけて走り出した。
「レイン、どうするつもりだ。」
ロブの叫びにレインは返事をしなかった。
エミリアに銃をむけた男はジリアンの方へ向いていて、レインがおいかけて走っているのが見えていなかった。
パジェロブルーはジェットエンジンをふかし、離陸し始めた。
レインはパジェロブルーの真下まで、近づくことができて車輪を掴むことができた。
それと同時にパジェロブルーのロケットエンジンが吹き、スピードが上がった。
レインは車輪をつかみ、自分の身をパジェロブルーの腹にしっかりとみっちゃくさせた。
操縦席は防弾ガラスでできているので、下を覗けばレインが丸見えなのだが、エミリアの体で男はレインを確認できていなかった。
パジェロブルーは、ジリアン、白髪の男、エミリア、車輪にしがみついたレインを乗せて、飛び立った。
BGM:「Vuena Vista 」ジン