第十二章 旅立ちのとき 1
登場人物
レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)
ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟<従弟>・愛称ジル)
ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄<実父>)
カスター=ペドロ(スタンドフィールド・ドックのクルーでメインは通信士・愛称キャス)
ディゴ (スタンドフィールド・ドックのクルーで板金工)
クレア=ポーター(ダンの養女。医者)
フィリップ=バトラー(グリーンオイル財団研究所スカイエンジェルフィッシュ号空挺設計主任)
セリーヌ=マルキナ(デューク=ジュニア=デミスト理事長の第六秘書)
レインたちを乗せた空挺は、まもなく、研究所に到達しようとしていた。
グリーンオイル財団研究所は、財団の土地と言われるほどのエバーグリーンと呼ばれる州の南部にあり、グリーンオイル財団が出資し、空挺・エネルギー・生物・医療や薬品などを開発する研究所である。
約300km2の土地に、人口約10万人をかかえ、ひとつの街として、研究所が成り立っているところだった。
研究所はオイルを研究する施設ではあるが、オイルの熱量で電気を発生させることに成功し、それを利用して、発展を遂げていった。
研究所は科学技術の最先端で設備はテクノロジーを施された都市そのものだった。
そびえたつビル郡と居住区の高層マンションがくっきりと分かれていて、その合間を縫うように空挺研究部の施設があり、レインたちを乗せた空挺はそこの飛行場に降り立った。
レインやジリアンはドック以外では医療学園都市がはじめての土地だったが、それを上回る広大な土地に近代都市があって、目をまるくして驚いていた。
レインとジリアンは、まるで異世界に来たかのように、見るものがすべて不思議に思えた。
ふたりは、空挺から降りると、走りまわった。
「まるで田舎者だな。」
ロブがつぶやくと、クレアはロブの頭を軽くたたいた。
「お前もだろう。」
「クレアさん、何を言うんですか。」
「油まみれの機械いじりは得意かもしれんが、科学技術はうとくて、おのぼりさんの癖に。」
ロブはクレアのように、新しいものを取り入れるのが苦にならない性格と違って、なかなか受け入れできない性質だった。
ロブはクレアに子共扱いをされたようで、釈然としない様子だった。
フィリップ=バトラー設計主任がみんなを出迎えに着た。
「ようこそ、グリーンオイル財団研究所へお越しくださいました。お待ちしておりましたよ。」
クレアが、フィリップを紹介すると、クルーたちをフィリップに紹介した。
そして、フィリップは、そばにいたショートヘアーで黒のパンツスーツ姿の女性をみんなに紹介した。
「こちらは財団理事長の第六秘書のセリーヌ=マルキナです。あなた方がスカイエンジェルフィッシュ号で出発されるまでお世話いたします。」
「ご紹介に預かりましたセリーヌ=マルキナです。よろしくお願いします。セリーヌとお呼びください。」
一通り紹介が済んだ後、一向は研究所の居住区にあるホテルに向かった。
ホテルに向かう道すがら、クレアは考え込んでいた。
いつも難しい顔をしていたロブが時々笑顔になっている様子にクレアは疑問を持っていた。
ロブたちは軍部病院にいって、フレッドに会って来た。ジリアンの申し出ということで、フレッドの延命治療をやめることに決まった。
クレアに相談が持ちかけられて、クレアは出発前にすることではないだろうと事に及ばないように助言した。
話し合いをした結果、いづれ延命治療はしない方向性で現状維持になった。
(ジリアンにあわせたことで肩の荷が下りたんだろうが、それにしては変だな。)
クレアは研究所へ行けば、セシリアや皇帝とのご対面が待っているかもしれないのに、ロブに能天気な感じがして仕方がなかった。
それとなくディゴにロブの様子を聞いたが、変わらない様子だと言った。
クレアは、ジリアンのそばに行き、それとなくフレッドのことを聞いた。
興奮していたジリアンだったが、クレアの話に現実に引きもどされた感覚で何も言おうとしなかったが、しばらくしてロブのことを話し始めた。
「兄さん、なんだか変なんだ。言ってることとやってることがなんか違う気がする。」
「どういう意味なんだ、ジル。」
「僕たちに申し訳ないって謝るかと思うと、つらい話ばかり。レイニーに理解してもらいたいって気持ちがあるみたいだけど、反対のことばかりしているように思う。」
「特訓のことかな。」
「う~ん、なんか、兄としての立場と、父親としての立場って変わらないと思うんだよね。兄としての立場だって父親の代わりって感じだったし。」
「そうだなぁ、自分の責任で両親のいない環境にしてしまった面があると思っているのかもしれない。」
「打ち明けられるそのまえは、強情な兄という感じで、言うこと聞くしかないかなって思ってた。
でも、今は違うかな。可哀相な感じで言うこと聞くしかないっていうか・・・それは言いすぎかな。」
クレアはジルに聞いて正解だと思った。
「理解したよ、ジル。ロブが変だなっていうのは私も気がついていた。ディゴに聞いても変わらないっていうからさ。」
「ディゴはそういうと思うよ。でも、キャスは兄さんのこと怒ってるから、なんか距離置いてる感じする。」
「そうか。そこまでわからなかったよ。そのせいもあるかな。」
「そうなの?」
「まぁ、案外、優しかった友達が冷たくしてくると、気が置けなくなるし、どう振舞っていいのかわからないかもな。」
「それじゃ、まるで子供じゃん。」
「あは。まだまだ、子供だよ、ロブは。」
「クレアさんから見たら、兄さんも子供のように思えるかもしれないけど。」
「まぁ、温かく見守ってやってほしいかな。」
「う~ん、レイニーのこともあるし、あまりごちゃごちゃ言うつもりはないけどね。」
「いい子だ。」
クレアはジリアンの頭を撫でた。
(できるだけ、この子には嫌な思いをさせたくない。)
クレアは、ジリアンの身にこれから起きる出来事を想像するとそう願わざるを得なかった。
BGM:「爪と太陽」はじめにきよし