第十一章 震える気持ち 3
登場人物
レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)
ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟<従弟>・愛称ジル)
ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄<実父>)
カスター=ペドロ(スタンドフィールド・ドックのクルーでメインは通信士・愛称キャス)
ディゴ (スタンドフィールド・ドックのクルーで板金工)
クレア=ポーター(ダンの養女。医者)
コーディ=ヴェッキア(スカイエンジェルフィッシュのクルー。)
ジョナサン(スカイエンジェルフィッシュのクルー。エンジン技師)
アルバート(スカイエンジェルフィッシュのクルー。愛称アル)
レインとジリアンがホテルにもどると、カスターがベッドで寝込んでいて、起きようとしなかった。
夕食を食べに行こうと話しかけたが、掛け布団を頭からすっぽりかぶってしまって、返事もない。
仕方なく、レインとジリアンはロブたちの部屋に向かった。
カスターの様子をロブに話すと、「放っておけばいい。」と言った。
ディゴは心配そうにしていたが、「子供ではないので気にしないように。」とレインたちに言った。
カスターはアルバートに言われ尻を握られたことで自分を責め続けていた。
カスターが十代のとき、親の愛情を感じることができず里親に預けられた同年代の者たちがいて、愛情を求め合い確かめ合うためにお互いを傷つけあった。
カスターは巻き込まれた被害者でもあった。
表向きは養父母に心配かけまいと明るく振舞っていたが、裏では里子たちに性的虐待を受けていた。
カスターには痛いほど誰かに愛し愛されたいと求めあう里子たちの気持ちを理解していただけに耐えるしかなかった。
ジリアンの児童虐待に苦痛もカスターにとって、古い傷を思い起こすような一端であり、またその痛さを知るがゆえに、レインたちを保護したい気持ちが強かった。
自分を責め続ける理由は、気にしてしまってアルバートを避けてしまうと周囲にわかってしまうことの恐怖、自分だけが被害者ではなくアルバートもその被害者であることを理解できずにいることだった。
カスターはベッドから出て、洗面所に向かい、自分の顔を眺めてから、顔を洗った。
目は真っ赤になり、泣いて鼻が真っ赤になっていたからだ。
(せっかく手に入れた僕の居場所だ。もう失いたくない。)
カスターは自分にそう言い聞かせると、鏡の前で笑って見せた。
(僕が二重人格なんてありえない。僕は周囲を笑わせるだけのオトコで、悲しみを背負う被害者ではない。)
レストランで夕食を終えようとする時、カスターがみんなのところにやってきた。
「大丈夫か、キャス。」
カスターはロブの隣に座った。
「え、僕のこと心配してくれてるの?嬉しいなぁ。」
カスターがレインとジリアンの顔をみると、二人は呆れた顔をしていた。それはロブがカスターのことを心配していないことを表現していたのだ。
「そうでもないか。」
ディゴはカスターの元気のない様子を気にかけていたが、触れないことにした。
ウエイターがカスターの注文を聞きに来ると、カスターは軽食なものを頼んだ。
「どうも、検査ってやつがだめでね。ほら、僕デリケートだから。」
「はいはい。」
カスターのおとぼけにジリアンが返事をした。
「みんな、明日はグリーンオイル財団研究所に向けて出発する。いよいよ、スカイエンジェルフィッシュ号を拝める。」
ロブは嬉しそうに言ったが、ディゴは浮かない顔だった。
「拝めるって、図面見たが、そんなたいそうなものじゃなさそうだぞ。」
「デザインは悪いかもしれないが、機能は充実しているそうだ。」
レインはパジェロブルーのことでロブを恨んでいるので触れないようにしていた。
「兄さん、パジェロブルーはもう研究所に届けられているんだよね。」
ジリアンはパジェロブルーを乗りこなしているが、本格的にひとりで操縦したことがないので、研究所で練習できることを楽しみにしていた。
「そうだな。輸送専門のパイロットが研究所から派遣されてたからパジェロブルーをドックから現地へ到着していると思う。」
レインがふてくされている様子をみて、ロブは自分の考えを口にした。
「レイン、研究所についたら、ジリアンと二人でパジェロブルーに乗って練習するんだ。」
「え、僕が?操縦するわけじゃないんでしょ。」
「操縦の練習は徐々にしていこう。研究所なら訓練施設があるから、室内で操縦練習する機械があると話を聞いている。」
「室内で練習?」
レインはふてくされていてなお、ロブの話に聞き入れできないでいた。
「ディゴ、研究所でも格闘技の訓練をするから、よろしく頼む。」
「了解だ。」
「それとクレアさんから、アルバートも訓練させてやってくれといわれている。」
「アルバートをか。」
アルバートという名にカスターは敏感に反応してしまい、そんな自分に対して嫌になりそうになるのを感じていた。
みんなはカスターが食事を終えるのを待っていた。食事を終えるとレストランをあとにした。
部屋にもどるときに、ディゴはカスターにさりげなく声をかけた。
「なにかあったみたいだな。」
カスターはディゴに見抜かれたのではとドキッとした。
「別になにもないよ。」
「だといいんだが、レインたちと一緒の部屋がだめなら、替わってやってもいいぞ。」
「あは、いや、ロブと二人きりのほうがだめだな。」
カスターは笑いながら、ディゴの言葉に返事をした。
「そうか。ならいいんだが。」
(油断も隙もないな。コーディとディゴには、気が置けないな。)
カスターは自分の嫌な部分を見破られてしまうのではないかと怯えてしまっていた。
その一方で、ロブが無頓着なんだと理解した。
翌朝、ロブたちはクレアたちと合流して、財団が用意した空挺に乗り込み、グリーンオイル財団研究所に向かった。
BGM:「深呼吸」SUPER BEAVER