第十一章 震える気持ち 1
登場人物
レイン=スタンドフィールド(主人公・愛称レイニー)
ジリアン=スタンドフィールド(主人公の弟<従弟>・愛称ジル)
ロブ=スタンドフィールド(主人公の兄<実父>)
カスター=ペドロ(スタンドフィールド・ドックのクルーでメインは通信士・愛称キャス)
ディゴ (スタンドフィールド・ドックのクルーで板金工)
クレア=ポーター(ダンの養女。医者)
コーディ=ヴェッキア(スカイエンジェルフィッシュのクルー。前グリーンオイル財団理事長ダグラス=Jr=デミストの介護士)
ジョナサン(スカイエンジェルフィッシュのクルー。エンジン技師)
アルバート(スカイエンジェルフィッシュのクルー。愛称アル)
コリン=ボイド(レインのクラスメイト)
ジョイス=ボイド(コリンの父親)
レインがクレアにだけ話をしたいと言ったのはクルーの自己紹介の後だった。
その様子を横目でみながら、ロブは気にしていてた。
クレアはレインの言うことを了承し、ロブのそばに寄って小声で耳元にささやいた。
「招待状を出す前にハートランド艦長から連絡があってレインがクルーに加わることを知ったのだが、出発式の招待が皇帝からあったため断ったらしい。」
「え、そうなんですか。というか、皇帝って・・・。」
ロブは思ったことを口にしてしまい、周囲に聞こえたかどうか確認した。
コーディが気を利かせて、ジョナサンとアルバートにスタンドフィールドドックの話題を元に談笑していたので、周囲は聞こえていなかった。
「レインにはあたしから話しておくよ。」
クレアはロブにそうささやくとロブの肩をたたいた。
「あ、ありがとうございます。」
レインはふたりが小声で会話している様子を不思議そうに見ていた。
クレアは後のことをコーディに頼のむと言って、レインをつれて、レインたちの部屋に向かった。
「あたしにだけ、話をしたいってなんだい。」
クレアは開口一番にそういった。レインは、コリンの話を後にしようと考えていた。
「クレアさんは、そのぉ、知っていたんですよね。」
何を話したらいいかわからず、言葉を口にしていた。
「ロブが父親ってことかい。もちろんだよ。」
「ジゼルも、ディゴも、じいさまも、みんな知っていて、僕たちに内緒にしてたんですよね。」
「内緒にしていたつもりはないよ。これはロブの問題であって、あたしたちが口出す理由なんてないからね。
そして、誰が悪いかなんて、誰にも判断できないよ。」
クレアの言うことを理解しようと、言葉にするまえに一度考えてからと間を取りながら、レインは話していった。
「兄さんが悪いとかは決め付け出来ないのはわかるんですけど、なんだか、許せなくて。」
「家族との間のわだかまりは、人間関係でこじれたものとは違って、一筋縄ではいかないこともあるだろう。
時間が解決してくれると、周りは思っているかもしれない。でも、大切なのは、レインもわかっているだろう。」
レインが描いていたのは、ジリアンやレテシアのこと、そしてロブ。必然と大切なものの意味を意識した。
「この世の中で、肉親は他にいないということですか。」
「そうだ。もちろん、わたしやカスターのように、養父母に育てられて肉親の代わりになっている場合もあるだろうが。
生を受けたのは、偶然じゃないと思う。レインにはロブが必要で、ロブにはレインが必要だったんだよ。
今はわからないかもしれないけど、今は許せないかもしれないけど、レインが成長していくごとに理解して受け入れ出来ることがあると思うからさ。」
「理屈ではわかっているつもりなんですけど。」
「まぁ、いっぺんには受け入れできなくても、少しずつやっていけばいいさ。悩んで苦しんでるのはレインだけじゃないだろう。」
「はい。」
「あたしのほうから、レインに話しておきたいことがあるんだが。」
「え、なんですか。」
「レテシアのことなんだが、ロブから聞いている。レインは会いたいのでしょ。」
「会いたいです。」
「ロブから頼まれてね。出発式に招待しようとしたんだが、向こうから連絡があって、出発式には来られないんだ。」
「そ、そうなんですか。」
「まぁ、大人の事情ってやつでね。ロブが悪いわけじゃないんだ。いろいろ組織っていうのはやっかいなことがあって。」
レインは困った顔でクレアをみていた。
理解できないわけでもないだろうが、話を余計にややこしくしてしまうことになりかねない。
クレアはどこまで話をしていいものやらと思っていた。
「あのぉ、クレアさん、僕は話ししたいことがまだあって・・・。」
「なんだい。」
「コリンのことなんです。そのぉ、コリンのお父さんボイドさんから言われて、コリンがボイドさんの本当の子供じゃないことを僕が知っているってクレアさんに話しておくようにと。」
「なんだって?!」
クレアは予想もしなかったので、声を荒げてしまった。レインは驚いていた。
クレアはボイドにそれとなく知った振りをして聞き出すつもりでいたが、核心に触れることができないでいた。
ボイド自身がコリンの母親が誰であるかは知らないはずで、そのことでレインを巻き込みたくは無い。
ボイドがレインに対してどうしてほしいかを理解すべきだと思い、クレアはコリンが黒衣の民族の混血児であることを話した。
レインは驚いたものの、さきほど、アルバートが混血児と聞いたばかりだったので、不安には思わなかった。
そして、クレアはアルバートをこれまでの過程とメンバーに加わったいきさつをレインに話をした。
一方、コーディもアルバートのことを話さなくてはいけないと思っていた。
ジョナサンにアルバートを連れて、ホテルのロビーで待機してもらうように頼んだ。
二人が部屋を出て行ったのを確認して、コーディは話を始めた。
アルバートの母親は黒衣の民族で、民族の間での差別に耐えかねて、居住区から抜け出した人だった。
アルバートの父はコンラジェッタの民だったが、アルバートが黒髪で生まれてきて目立つ為、髪を染め周囲に知られないように育てられた。
アルバートは混血児と周囲に知られることなく、育ったが、15歳のとき、職業訓練の一貫で集団生活したことでばれてしまい、周囲から虐待された。
アルバートは逃げるようにして、親元に返ったが、親元は一緒に暮らせないと思い、施設に預けることにした。
その施設は、グリーンオイル財団の慈善事業で混血児を収容して保護するというのが表向きの目的で、中身は人体実験が目的の施設だった。
アルバートは薬物中毒にされてしまい、人体実験を繰り返された挙句、目的の仕様に合わないと判断されると、施設は破棄するようにアルバートを犯罪者に仕立て追い出し、刑務所に収容させた。
2ヶ月の服役でアルバートは設計主任のバトラーを保護監察官として出所できたが、あくまで財団の保護下にあった。
薬を抜いての服役だったが、刑務所内で酷い虐待を受けたために多重人格者となり、心療の意味合いを含めて医者の治療が必要だった。
タイミングよく医療行為を目的とした航空飛行隊・スカイエンジェルフィッシュ号の計画があったので、アルバートはメンバーに加えられた。
クレアはレインにコリンの素性が周囲に知られる危険性を述べた。
「それに、レイン。コリンは普通の混血児と違うところがあるのよ。
まず、アルバートの母親は居住区から抜けていてたので薬物は施設に入ってから摂取していた。
しかし、コリンは生まれてから薬物の摂取はないけど、生まれる前の胎児のとき、薬物摂取の可能性が高い。」
レインは絶句した。薬物の危険性については、中等科で学習しているので理解していたが、身近にいている人間がその薬物に犯されている可能性があることが信じられないでいた。
「黒衣の民族は薬物を常用しているのだけど、民族の長の血を引くものには、胎児のときから薬物を摂取しているという話がある。
黒衣の民族はその跡継ぎを捜索しているのよ。コリンはその可能性がある。ボイドさんは知っている。」
「コリンが民族の跡継ぎって?!」
「ボイドさんは発覚されるのを恐れている。レインがその事情を知っているとして、レインの命も危ないということ。」
「・・・・・。」
ことの重大さを知ったレインだった。コリンがだまっていられなかった気持ちを理解しようと考え込んでいた。
「ボイドさんは全身全霊でコリンを守ると言ってた。僕もジリアンを守る。僕に出来る、コリンを守ることは誰にもしゃべらないことだよね。」
「そうだ。レイン。」
「コリンのこころが少しでも軽くなってくれるなら、秘密を打ち明けてもらったことを誇りに思うようにするよ。
怖がらなければ、危険だと思わない。」
「いい子だ。」
クレアはレインに微笑んだ。
BGM:「手紙」下川みくに